11話 声
家から出るとまたあの視線がリリンを襲う。
俺はそれを無視してリリンの手を引き街から出る。
「ねぇ、眠りひ……ネムちゃん」
あぁ、読み方はそれで固定されたんだね、まぁ、どっちでもいいけどね。
「どうしちゃったの? 何かおじさんが嫌だったの?」
「あぅ、うぅ……うば、うばばー……」
うん、やっぱ喋れない。
「んー、なにか伝えようとしてるんだよね…………ちょっと喉見せて」
「あぅ」
俺は大人しくローブを脱いで喉を前に出す。
リリンは小さな手で俺の喉をぺたぺたと触りながらうーんうーんと唸っている。
かわいい。
しばらくそうやって触診していると、リリンは驚いたような顔をして結果を俺に伝えてくれた。
「えっと、なんというか…………声帯が死んでる? 」
「あぅ!?」
「んー、何とか治せるかなぁ? ポーションかけたら治るかな?」
ポーション、だと? そんなファンタジーなものがあるのか!?
明らかに異世界だとは思っていたが、まさかそこまでだったのか!?
となると、他にも色々とファンタジーチックな物があるのかもな。
とにかく、俺の喉が治るというのならばありがたい。
喉が治ればリリンに今の状況を教えることだってできるし、俺の元々の目的である睡眠のための物資の用意だってできる。
「ネムちゃんが何があったのか分からないけど、とりあえず……帰ろっか」
今はまだお昼頃である。
しかし、帰るまでに数時間かかるとすれば…………あれ、どうやっても深夜にはならない。
前回はどうして帰宅が深夜になったのだろうか。
……まぁ、とりあえず帰ろう。
街から出るまでは俺がリリンの手を引いていたが、街を出てからは俺は一切道が分からないため、リリンが俺の手を引いて帰ることになった。
いや、別に手を引かれなくても良かったんだが、頑なにリリンが手を離してくれなかった。
多分中々の期間1人で過ごしていたのだろうし人肌が寂しかったのだろう。
道中では特に何か起こることも無く、日が沈む少し前くらいには廃屋に到達することが出来た。
リリンはその後すぐに地下の薬草畑に俺を連れて移動した。
「んー、すぐポーション作ってネムちゃんの体を治してあげたいんだけど、それで喋れるようになっちゃったら薬草達のお世話そっちのけで喋っちゃうと思うから…………先に薬草のお世話をしてあげてもいいかな?」
「あぅ」
もちろんだ。
騙されているとはいえ今のところそれしか生活の糧になるものが無いわけだ、それが俺のためにおじゃんになるなんてあっていいはずがない。
俺の返事を聞いたリリンは薬草一つ一つに何かをしていた。
知識の無い俺からは分からないが、恐らくあれがお世話と言うやつなのだろう。
それを薬草一つ一つに行っているため、かなりの時間がかかりそうだ。
…………そうか、これをやっていたから昨日はあんな時間になっていたのか。
こんな事をこんな幼い子が毎日やっているのか、何がこの子をここまで駆り立てるのだろうか……。
リリンは薬草のお世話をしている間にも俺に声をかけたり手を振ったりしてくれた。
本当に可愛い。
数時間が経ち、薬草のお世話が終わったのか、リリンが大きく伸びをしながらこちらへ近づいてきた。
なお体は小さいので合計すれば普通です(?)
「よし、じゃあ今からポーション作るからねー!」
リリンはそう言って何個かの薬草をすり潰して煮詰めたり色々してポーションを作った。
「よし、これであとは塗り込むだけ!」
「あぅー」
リリンは俺の喉にボーションをかけ、円を描くように塗りこんだ。
「あ、あぅ、あぇ……あ、あぅ……」
「どう? 喋れそう?」
リリンは俺にそう問いかける。
成功したのか、あとうとば以外の言葉であるぇが出た。
このままの勢いで俺は少しずつ喋ることができるようになっていく。
「…………しゃべ、れ、た」
「っ! や、やったね!」
その言葉を聞いたリリンが思い切り抱きついてくる。
その勢いで俺は体制を崩し、押し倒されるような形で地面に倒れてしまう。
「あっ、ごめん! 大丈夫?」
「……大丈、夫」
「よ、良かった、それに喋れてる!」
「う、うん」
口からは女の子特有の今まで出たこともないような高い声が出ていた。
喋れた……のは良かった、本当に良かった。
だが、その瞬間、ひとつの問題が急浮上してきた。
それは…………。
「…………」
「あれ、ネムちゃん、また喋れなくなっちゃった?」
「あ、いや……その……」
何故だか喋る言葉が浮かんでこないのだ。
さっきまでは何を伝えようだとか何とか色々と思い浮かんでいたのに、いざ喋ろうと思うとそれが言葉にならない。
…………そういえば俺、ここ数年まともに人と喋っていないんだった。
会社での業務連絡とゴマすりの言葉はいくらでも出てくるというのにそれ以外の言葉が一切出てこない。
「…………ちょっと緊張してるのかな? えへへ、可愛い」
「あぅ、そんな事ないけど、なんて言ったらいいか…………」
一言、何とか喋ることが出来た。
…………さて、ここでまた問題が浮上した。
口調がおかしい




