第八話(リズ視点)
「悪いがもうそういうものは受け取れない。帰ってくれ」
想像とは違い、冷たく言い放たれた言葉に一瞬聞き間違えかと錯覚した。
この前のデートのお礼にと焼いたクッキーは張り切ってオオカミの形に仕上げていた。きっと喜んでくれるだろうと思っていたのに。
「…あの、私何かカイル先生の気に障るような事をしてしまいましたか?」
「とにかくもう帰れ。これ以上話すことはない」
「カイル先生!」
追いかけようとした足がすくむ。以前の私ならカイル先生にあんな事を言われてもめげずに追いかけることが出来たかもしれない。でも今の私は、子供みたいな屈託のない笑顔を向けてくれる彼が頭にちらついてどうしても踏み出すことが出来なかった。
私が何かしてしまったのなら謝りたい。でも、あんな笑顔を向けてくれた彼の心を傷つけていたと知るのが怖い。
「それで今そんな状態なんだね」
「…はい」
その後どうしたらいいのか分からなくなり、お昼休みにシェリー先輩の元を訪れた。先輩はすぐに人気のない中庭のベンチに場所を移すと私の話を聞いてくれた。きっと今にも泣き出しそうな酷い顔をしていたのだろう。いきなりやって来た私を先輩は邪険にせず、いつものようにこうして対応してくれる。本当に優しい人だ。
「リズはカイル先生との年齢や立場や種族の違いについてどう思ってる?」
「え…?それは…」
シェリー先輩に言われて初めて、そんなこと考えたこともなかったことに気付いた。言われてみれば私とカイル先生には違う部分が沢山ある。年齢は15歳離れているし、立場も生徒と教師。そして人間と獣人だ。私はカイル先生といられる時間がただ嬉しくて、そんな大事なことにも目を向けていなかった。
「…私、考えたこともありませんでした」
「なら今からでも考えてみて。それをきちんと考えれば、カイル先生がそんな態度を取った理由も分かるはずだから」
「はい…」
シェリー先輩は励ますように私の背中をぽんぽんと優しく叩いてくれた。それだけであんなに沈んでいた気持ちがかなり楽になったのが分かった。
一人になって冷静に今までのことを振り返ってみる。カイル先生は私と話す時いつも何かに気を遣っているような気がしていた。でもその違和感がなんなのかその時は分からなかった。
カイル先生は何を気にしていたんだろう。教師なのに生徒からお弁当を貰ってることを他の先生から注意されるのを避けたかったのかな。でもこの前のデートは学園の外だったのに同じように何かを気にしていた。教師と生徒だからってだけじゃなくて、やっぱり年齢とか種族のことにも関わってるのかな。そういえば、私はカイル先生のことをほとんど知らない気がする。ゲームの中での知識はあるけど、そんなのカイル先生のことを知っている内には入らないくらい浅いものだ。
私はカイル先生についての情報を集め始めた。学園の先輩や図書室の本。カイル先生がよく顔を出しているお店の店員さん。その間、カイル先生に会っても挨拶だけするようにして極力話さないようにした。気まずいということもあるけれど、まだ彼と向き合うには早いような気がしたから。私なりにちゃんと答えを見つけてからもう一度カイル先生と話がしたかったのだ。
調べ方は正直効率は悪かったと思う。きっともっと上手な方法があったんだと思うけど、私にはこれくらいしか思いつかなかった。それでも、その努力のおかげでカイル先生についていくつか分かったことがあった。
カイル先生は魔法騎士団に入団する前は素行が悪くて問題児だったらしい。入学当初から何故か私への好感度の高いアルバート殿下からの情報では、当時の騎士団長に腕を見込まれて入団してからは暴力沙汰は無くなったそうだけど、体が大きく気性の荒いオオカミの獣人の噂はそう簡単に無くならなかったらしい。
騎士団長に推薦された時、カイル先生はまだ25歳だった。素行の悪かったオオカミ獣人が異例の若さで騎士団長になることに反発の声も多かったそうだが、そんな反発を押し切ったのが当時の騎士団長でありカイル先生を推薦した張本人その人だった。結局カイル先生はそのまま騎士団長となり、驚くほどの剣の腕と統率力で数々の武勇を残し、いつの間にか彼を批判する声もなくなった…はずだった。
ある時、冒険者が捕獲したワイバーンが王都の近くを移送中に目覚めてしまい騎士団が派遣された。ワイバーンは非常に強力な魔物だったため騎士団長のカイル先生も現場に向かった。しかし到着してみると、ワイバーンを移送していた冒険者はカイル先生が素行が悪かった頃に対立していた人物で、彼が騎士団長として功績を残すカイル先生への逆恨みでワイバーンをわざと放ったことが分かった。
その結果、カイル先生は王都を襲う可能性のあったワイバーンを討伐し、逃げようとしていた冒険者達も一人残らず捕縛した。しかし、その代償に左眼を負傷し以前のように剣を振るうことが出来なくなってしまったのだ。魔法騎士団はその名の通り「剣」と「魔法」が扱えなくてはならない。ところが剣も魔法も両方扱える者は非常に少なく、魔法騎士になれる者はほんの一握りの天才だと言われている。肉体や魔力の流れの絶妙なバランスを保つ事でその二つの力を使いこなすことが出来るのだとか。
片目を失ったカイル先生が力を発揮できなくなるのは仕方のないことだった。
「カイル師匠はその後、後継を鍛えてすぐに騎士団をやめてこの学園の教師になった。でも、国民の期待に沿えず騎士団長としての職務を全う出来なかったことをきっと今も悔やんでいるのだと思う」
「アルバート殿下…」
「それに、師匠は自分を見出してくれた当時の騎士団長に恩を感じていたはずだ。それがあんな形での幕引きになるなんて」
カイル先生の過去を話してくれたアルバート殿下は、騎士団長になる前のカイル先生から剣を習っており、“カイル師匠”と呼んで慕っていた。だから余計にカイル先生の身に起きたことが自分の事のように辛いのだろう。
「師匠は一見粗暴だと誤解される事もあるけれど、優しい人だ。リズにはその事を分かっていてもらいたかったからこの話をさせてもらった」
「話してくださってありがとうございました」
「師匠と仲直り出来るといいね」
「…はい!」
カイル先生とは違う丸い形の耳をぴこぴことさせてそう話してくれたアルバート殿下。なんだか出会った頃よりも人間らしく感じるのは何故だろう。初めの頃はゲームの中みたいにグイグイ来る感じが少し苦手だったけど、この国の王族として元平民の私が学園で仲間はずれにされないように気を配ってくれていたのだと今ならすんなり理解できる。
私は何も分かっていなかったんだ。ゲームの中の世界に主人公として転生したって舞い上がって、きっとカイル先生のこともゲームを攻略するみたいな気持ちで少し考えてた。でもそうじゃなかった。この世界はゲームじゃなくて現実だし、この世界で出会った全ての人がこの世界に生きている生身の生き物なんだ。
カイル先生の気持ちを全部理解することなんて出来ないけど、ちゃんと考えて彼の心に寄り添いたい。だって、あんな風に可愛く笑う人を私は他に知らないし、私の作ったお弁当を口いっぱいに頬張って美味しそうに食べてくれる人もいない。あんな素敵なひと、きっともう出会えないから。
「あれ…?」
今ならカイル先生と話が出来るかもしれないと考えていた時、ふと気になって頭に手をやるとそこにあったはずの髪飾りがない事に気付いた。勿論数日前にカイル先生から贈ってもらった大事なものだ。毎日付けていたのに急にしなくなったら私が髪飾りを手放したと勘違いさせてしまうかもしれない。いやもしかしたらカイル先生は私が髪飾りを付けていた事にすら気付いていなかったかもだけど。
「どうしよう…今日は色んな所に出入りしたからどこから探せばいいのか検討もつかない」
「…ヴィアロッテ?なんでこんなところに。そろそろ次の授業が始まるだろ」
「え、カイル先生!?」
渡り廊下の辺りでオロオロしていると、前からやって来たカイル先生に声をかけられてしまう。なんでよりによってこのタイミングなの!?
「す、すみません!ちょっと探し物をしていて」
「探し物?何を探してんだ?」
「それは……うぅ。ごめんなさい!言えないです!でも大事なものなので、見つけてから授業にいきます!」
「は!?おい待てヴィアロッテ!」
髪飾りをなくしたことを言えず、ついカイル先生を置いて逃げ出してしまった。カイル先生は私を追いかけようとしていたが、予鈴が鳴ったため軽く舌打ちをして教室に向かっていったようだ。ごめんなさいカイル先生。お説教なら後で聞くので今は見逃してください!
それからしばらく色々な場所を探したが結局見つからず、私は寮から学園に続く道から少し離れた場所の茂みを捜索していた。地面に膝を付いたり草を掻き分けたせいで服や手はかなり汚れてしまった。日も暮れてすっかり暗くなってしまったせいで、魔法で周りに灯りを灯してもなんだか見通しが悪い。
このまま今日はもう見つからないような気さえしていた。だけど、どうしても諦めきれない。
探しながら、今日図書室でオオカミの獣人について調べたことを思い出していた。本にはオオカミ獣人は雑食だが肉が好物だと書かれていた。だからシェリー先輩はお弁当にローストビーフを選んだのだろう。そして伴侶をとても大切にするとも書かれていた。番に選んだ相手に気に入られるために贈り物をすることもあると。カイル先生がそんなつもりで私に髪飾りを贈ってくれたのかは分からないけれど、今でもカイル先生が私に「よく似合うな」と言ってくれたあの光景が忘れられないのだ。
だから聞いてみたい。あの髪飾りを選んだ時、カイル先生は私の事をどんな風に考えてくれたのか。そのためにも髪飾りは絶対に見つけなくちゃいけないのだ。
「おい。もう消灯時間過ぎてるぞ」
「!?」
髪飾りを探す事に集中しすぎて背後に人がいた事に気付いていなかった私は、突然の呼びかけに思わずビクッと飛び上がった。驚いて声も出せずに振り返ると、そこにはなんだか少し息の上がった様子のカイル先生が立っていた。
「カイル先生…ごめんなさい。その、まだ探し物が見つからなくて」
「探し物ってのはこの事か?」
「え?」
そう言って大きな手のひらの上に探していた髪飾りがちょこんと乗っているのを見せてきたカイル先生。私は慌ててポケットからハンカチを取り出すと、手についた泥で汚れないように慎重にハンカチ越しに髪飾りを受け取った。近くでまじまじと確認すると、やはりあの時カイル先生から貰った髪飾りだった。
「ありがとうございます…見つからなかったらどうしようかと思いました。この髪飾りどこで見つけました?」
「あー、生徒が廊下で拾ったってんで預かってたんだ。明日渡そうと思ったんだが、なんだかお前がまだ探してる気がしてな」
少し罰が悪そうに顔をそらしてそんな事を言うカイル先生に、思わずクスリと笑みが溢れる。
「…嘘。本当は探してくれたんですよね?」
「嘘じゃな…」
「じゃあなんでそんなに靴が土まみれなんですか?」
「なっ!?」
剣術の授業の時はいつも靴を履き替えているから普段履いている靴が土で汚れることはないはずだ。なのに今は靴とズボンの裾が汚れている。
「それに、その髪留めをくれた時もさっさと選んだみたいに見せてたけど、本当は前日に何時間も悩んで決めてたって店主さん言ってました」
「うっ…」
そう。店主さんに呼び止められた時、本当はそんな話を聞かされていたのだ。正直その後のデートに集中出来なくなるのも無理はないと思う。好きな人にそんな事をされたら嬉しくて舞い上がってしまう。
「…ヴィアロッテは、俺のことが嫌いになったんじゃないのか?あんな言い方をされたら嫌になるだろ」
楽しいデートの後に突然あんな風に突き放されたら誰だって驚くと思う。でも、今の私にはあの時のカイル先生の気持ちがほんの少しだけ分かるような気がした。
齢25歳で魔法騎士団長に任命されて、数多くの功績を残した英雄。だけどカイル先生はきっと、自分のことをすごいだなんて思ってない。騎士団を辞めたことに責任を感じていて、今もその傷を心に抱えている。カイル先生のことを責められる人なんてほとんどいるはずないのに、私にまで気を遣ってくれたんだろう。私と話している時にいつも周りを気にしていたのは、カイル先生への批難が私に及ぶのを心配してくれたから。突き放すような言い方をしたのはカイル先生がそうやって私との間に敢えて線引きをして私を守ろうとしてくれたからなんだ。
「確かにびっくりはしましたけど、大丈夫です。きっと私のことを考えて身を引こうとしてくれたんだと思いますけど、私はカイル先生のことを諦めるつもりはないので」
「…は?」
私が言っていることを理解出来ていなさそうな顔をするカイル先生に、私はまた笑って言う。
「私、昔から勢いで行動しちゃうタイプで、そのせいで色んな人に迷惑をかけてきたんです。でもその度に心のどこかで“しょうがない”って思ってました。だって他人の気持ちを全部理解するのは難しいし、私なりに頑張った結果上手くいかなかったのなら仕方ないって」
これは私の前世の話だ。この世界の家族や友人には前世の話はしていない。話したらきっと変に思われて嫌われてしまうから。だから前世の話を織り交ぜるのは今回だけにする。今だけはカイル先生に本当の私の話を聞いてもらいたいと思ったから。
「だけど、カイル先生のことだけは“しょうがない”ってどうしても諦められなかった。それで気付いたんです。ああ、私は今まで“しょうがない”って言い訳してただけなんだって。本当は相手のことを少しも知ろうとなんてしてなかったって。だからカイル先生に突き放された後も一生懸命カイル先生のことを考えて、自分なりに答えを出しました」
私とカイル先生は、生徒と教師で、子供と大人で、人間と獣人だ。でもそんなのは仲良くなれればどうとでもなると思ってた。実際はそんな簡単なはずないのに。だけどそれでも、私はカイル先生が好き。ううん、本当に好きだって気付いた。
この世界は乙女ゲームの世界なんかじゃなくて現実で、現実のカイル先生はゲームの中なんかよりもっと素敵だった。カイル先生が私との間に線を引くなら私はその線を超えていく。それでいつか、絶対カイル先生の心に届いてみせるんだ。
「大好きです。カイル先生。今更冷たくしても遅いですよ。私、カイル先生のこと諦めませんから」
綺麗な満月を背にするカイル先生はなんだか神秘的で、そんな彼に髪留めを抱きしめて笑って見せる。カイル先生はなんだかぼんやりした顔をしていた気がするけれど、しっかりと私を見ていた。
「…本当にいいのか?」
「え?」
言いたい事も言ったし、もう寮に帰ろうかななんて思っていたらずっと黙っていたカイル先生が口を開いた。いいのかって何がだろう。
「オオカミ獣人は獣人の中でも番に対する執着が一際強い。一度番だと認めたらもう離してやれなくなる。それでも、お前は俺でいいのか?」
「どんと来いです!」
そんなの当たり前だ。それにオオカミ獣人のことも本で予習済みだから当然把握している。私が即答すると、次の瞬間にはカイル先生に抱きしめられていた。
「あーもう…折角逃してやろうと思ったのによ」
「え?あの?」
「だから聞いただろう。俺でいいのかって」
「それは勿論…え?カイル先生こそ私でいいんですか?これじゃあまるでカイル先生が私のことを好きみたいです」
「……だ…よ」
耳元でぼそぼそ喋るカイル先生に思わず「え?」と聞き返すと、今度ははっきり聞こえた。
「…好きだっつってんだよ。もうとっくにお前に惚れてるリズ」
その言葉の意味を理解した途端、顔がぼんっと熱くなるのがわかった。慌てて抱きついていた体を離すと、彼の大きな尻尾がぶんぶんと揺れていて、可愛いやら嬉しいやら恥ずかしいやらでちょっとパニックになった。
「か、カイル先生が私を!?どうして!?」
「どうしてって、リズは可愛いからな。それから料理も美味いし、俺を怖がって逃げたり怒ったりもしないし、すれ違いそうになってもこうして正面からぶつかってくれるし。あと笑顔が可愛い」
「可愛いって2回言った…」
「まぁ卒業するまで色々お預けだが、とりあえず婚約は明日にでも済ませるか」
「て、展開が早すぎる…」
カイル先生の態度の変わりように着いていけず呆然とする私を、カイル先生がいきなり片腕に抱き上げる。え、片腕に乗せられている!?き、筋肉がすごい!!
「その格好で寮に戻らせるのは忍びないが、生徒を教師の自室に連れ込むのは番でも流石に問題があるからな。悪いが送り届けるだけで我慢してくれ」
「いやそれは全然…カイル先生に送ってもらえるだけですごく嬉しいですし」
「あんま可愛いこと言うと襲うぞ」
「ヒェ」
顔の整ったカイル先生に間近でそんな事を言われて心臓が悲鳴を上げてしまう。そして精神年齢が低いせいで内心「これが送り狼ってやつ!?」とかつっこんでしまった。恥ずかしい。
「実際手は出せないがマーキングぐらいはするつもりだから覚悟しておけよ」
「ま、マーキング?どうやってするんですか?」
「それを聞くのか」
「え?聞いちゃダメでした?」
もう首から上がずっと熱い。カイル先生と会話しているはずなのに、なんだか夢の中みたいにぽわぽわしていて自分が自分じゃないみたいだった。だからカイル先生の顔が突然私の顔に迫ってきた時も、逃げたり顔をそらすなんて考えも思い浮かばなかった。
「こうやるんだよ」
唇に温かい感触を感じてようやく我に返る。そうだ。犬科の獣人はマーキングのためにこういうスキンシップが多いって本で読んだのに何故か忘れていた。
恥ずかしくて声も出せなくなった私を、カイル先生が白い牙を見せながら無邪気に笑う。
「可愛いな。リズ」
…オオカミ獣人ってすごい。
それから私達は本当に翌日には婚約を結び、その噂はあっという間に学園中に広まった。そのお礼をシェリー先輩にもしたかったのに、この時期からシェリー先輩は体調を崩して自宅療養となってしまったのだ。
そして手紙でやり取りしていく中で知ったのだが、シェリー先輩は攻略対象キャラであるレオルド先生と一緒に暮らしていて、もう9年も経つそうだ。ゲームの中のレオルド先生には一緒に暮らしている生徒なんていなかったし、よく考えたら彼の性格もゲームではもっと人間嫌いで当たりがキツかったように思う。勿論獣人に詳しいシェリー先輩みたいなキャラもゲームには存在しない。
だけど、もうそんなことはどうでもいいのだ。私にとってもこの世界はもう現実だし、シナリオ通りに人生が進むわけでもないって分かってる。まぁその後シェリー先輩も転生者だと分かってすごく衝撃を受けることになるんだけど。シェリー先輩はシェリー先輩だ。優しくて頼りになって、お姉さんみたいな存在。
だから、私に出来ることがあるならなんだってしたい。シェリー先輩から貰ったものを、私だって返したいんだ。
「魔王は必ず私達が倒して、シェリー先輩の病を治してみせます!」
怖くないって言ったら嘘になる。でも負けない。私にはもう、そばに居てくれる大事な人がいるから。
隣に座るカイル先生の大きな手を握り返して、私は心配そうな表情を浮かべるシェリー先輩に笑いかけた。