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桃色ほっぺ  作者: 柚留
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「はぁはぁ…」

「はい遅刻ー」

「いや…、間に合ったし!!」


息を切らせて走りこんだ校門のところで、まるで雑誌から抜け出たようなポーズで、いっちーが立っていた。今日は、チェックのシャツにジーンズといういたって普通のいでたちだが、いっちーの場合はそのへんの男とは格が違う。これが少女マンガなら、間違いなく背中にバラを背負っているだろう。相変わらず殺人的なフェロモン放出してやがるなぁ。そう思いながら目の前の相手を観察していると、突然フッと妖しげな笑みを浮かべると、いきなりあごに手をのばし、そのままくいっと上を向かされ、

「何?そんなにお前に見つめられると、俺困っちゃうなぁ。」と耳元で囁かれた。

「…ヤメロ。」

もちろん俺はホモではない。断じてない。だがいっちーを見つめている女子の中には、いわゆるそっち方面が好きなお方も、いらっしゃったらしい。何人かの女子がキャパオーバーで倒れるのを見て、いっちーは思いっきり嬉しそうに笑っていた。それを見ていた子も、笑顔にやられ、さらにノックアウト。

「凄い力だなお前…。」と低い声で呟くと、

「ぅーん…俺だけの力ではないんだけど…お前はやっぱり鈍感でかわいいなぁ」と、意味不明な言葉で返された。よくわからないで、頭の上に『?』がたくさん浮かんでいる俺にむけた微笑は、たぶん今までで一番妖しげで、あきれている様でもあり、だけど優しいもので、また何人か、女子の倒れる音を、背中に聞いた。


「おい!そろそろ点呼すんぞ--!!」

学年主任の声でみんなぞろぞろと自分の場所へむかう。今日の遠足は、この町にある一番高い山、桃路山の頂上まで、登山ルートを登る、まぁいわば山登りである。

俺は…自分で言うのは悔しいが、クラスの男子内では最も背が低い。毎日牛乳を飲んでいるのに、一向に効果は出ない。牛乳で背が伸びると言った奴を訴えたいくらいだ。…まぁそれでも、毎日欠かさず飲んでいるのだが。

「だりーよなぁ、嫌んなるぜ。なぁ桃太。」

隣でぼやいているのは、小学校からの同級生であり、学年一やんちゃ坊主の中田隼也なかたしゅんや、通称中やんである。やんちゃ坊主と言うとかわいいイメージだが、中やんは目つきは悪く、学ランの前は全開きだし、坊主頭にそりこみを入れて、耳・鼻・舌などに合計18個のピアスをあけている。今日は派手な色のジャージを着ているため、なんだか繁華街にいるチンピラみたいだ。しかし喧嘩は強いらしく、中学時代から、このへんを治める族の幹部らしい。言葉遣いこそ乱暴だが、飼っている猫の散歩に毎日行っているし、母ちゃんにだけは頭が上がらないことを俺は知っている。

「いや、俺は楽しみだけど。修行にもなるし…」

「あぁーなるほどな。頑張れよ。」

余計なことも聞いてこないし、一緒にいて落ち着く、不思議な奴である。


「山田ぁ!中田ぁ!ちゃんと聞けやォラァ!!」

学年主任の鬼のような大声がグランド中に響きわたった。どうやら話していたのがバレてしまったらしい。桃太はちょっと恥ずかしかったが、隣の隼也はしれっとしているので、なんだか気にしたことが、よけいに恥ずかしくなってきてしまい、「すみません…」と小さな声で謝った。

先生はそんな桃太にはめもくれず、また話し始めた。

「今日は、本当に急なことで、私もびっくりしてるんだが、転校生を紹介する。」


桃原瀬那ももはらせなです。大阪からきました。まだ慣れてへん土地で、めっちゃ緊張してますが、仲良うしてください。」

自己紹介を終えて、まばらにおこる拍手の中、最前列にいた僕と目が合って、少しはにかむように笑った。そのあと、先生から彼女は1組に入ることが告げられ、瀬那は1組の列の最後尾についた。


「こんな時期に転校生かぁ。珍し。まぁどーでもいいけど。ところで桃太さぁ…て桃太??ぉーぃ」




それだけだった。それだけだったはずだ。

ごく普通の自己紹介…だったはず。でも大阪弁で話すその子に、僕の目は釘付けになったのだ。…可愛い…。他の子と何がそんなに違うのか、自分でもよくわからないけれど。肩までのさらさらのショートヘアーも、白い肌も、綺麗で大きな目も、僕の好みだけど、そこじゃない。最後の笑顔、すごくすごく可愛かった。いや、安心した。彼女にとってはきっと目が合ったから、ということなのだろうが、それでも、自分にあんな混じりけのない、笑顔をむけてくれる人は、今までにいなかった。

やべ。なんか…地味に嬉しい。一瞬で、世界が少し、自分にやさしくなった気がした。







そのとき、ぼくはこの子を好きになるのかもしれないなぁと感覚的に思った。






「桃太!聞けやコラァ!」

「わーごめん中やん!!」



まぁ、その、今日のような春の陽気みたいに、ふわふわしたあたたかくて心地よくて、

でもちょっと胸のへんがきゅんとする感覚にひたらせてもらえたのは、ほんの一瞬だけだったのだけれど。
















今回でやっと瀬那ちゃんと出会えましたねぇ。遅。

さぁ-これからどんどん桃太はかっこよく…なるといいのですが.笑


でもきっと、これからはね!ぅん!

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