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「ははははは。それでまた一本背負いかましちゃったんだ。もてる男はつらいねぇ、桃。」
「笑い事じゃねぇ!」
1年1組の教室の中、俺の目の前で豪快に笑っているこいつは中田誠一通称いっちーだ。家が近所で、小学校からの腐れ縁でもある。よく整った顔に黒髪メガネという、女子にはたまらんビジュアルを持ち、それをわかったうえで行動するという少々黒い一面を持った奴だ。こいつはたぶん地獄に落ちるだろう。それは間違いない。何故こんな奴がもてるのだ?…ぃゃ。俺ももてるのだが…(男子ONRYで)
友達はたくさん居る。普段は意識しないけど、それはすごくありがたいことなのだ。その気持ちは嘘ではないし、俺の誇れるものの一つであることもゆるぎない事実だ。
でも。やはり恋がしたい。何か青くさい気がして、決して口には出さないけれど、でもたまらなくしたいのだ。俺の弱いところも馬鹿なところも、いいところも悪いところも、ちゃんと目をそらさず見てくれる、そんな女の子。できれば、できればの話、ちょっぴりかわぃぃ方がいい。
そんな風に考えてから、桃太は教室を見渡し、それと同時にため息を漏らした。教室中の男ほぼ全員が自分を見ていたからだ。
入学式にナンパしてきた野郎共に一本背負いをくらわせた、という話は学校中に広まっていたので、男たちには遠巻きに見られているだけだったが、男に見つめられるというのはなんとも気色悪い。そらもう非常に。この上なく。女子にも不信の目で見られているし…
これまでの人生、この『男にもてる』という訳わからん見た目のせいで、女子にはうらやましがられるだけで、本当に自分を見てくれる、見ようとしてくれる子はいなかった。
確かに色は白くて普通より目もでかく、近所で評判の美人である母に似て生まれたが、むしろサーファーで色黒で、男くさい父に似たかったくらいで、桃太はどの女の子も、自分に劣っているなどとは思わなかった。
「いっちー…俺ホモになるしかないのかな…」
視線を戻し、さっきより深いため息をつく桃太を見て、誠一は少しの間爆笑し、
そのあと桃太があまりに落ち込んでいるのを見て
「お前をちゃんと見た女ならお前に惚れない訳がないさ。」と怖いくらい綺麗な微笑をたたえて自信満々に言い放った。
こいつに言われるとなんか本当にそんな気がしてくるから不思議だよなぁと
桃太は憂いを含んだ表情で、校庭に散る桜を眺めていた。
…その桃太を教室中の男がぼぅっと見つめていたのはいうまでもない。笑