パーティーを追放された魔法使いの私が、重騎士5人雇ってダンジョン攻略します。〜最速クリアボーナスの宝箱ガチャでレアゲット〜
パーティー追放物を書きました。お読みいただけると嬉しいです。
「サーシャ! お前みたいな役立たずの魔法使いは今日を限りにこのパーティー『疾風の翼』から追放だ!」
魔法使いサーシャを、冒険者ギルドのフリースペースでパーティーメンバーの面々が取り囲んでいる。
サーシャは愛用のミスリルの杖をギュッと握りしめて、目に涙を溜めた。
「ど、どうして。私、一生懸命頑張って魔法唱えてるし、パーティーメンバーのサポートも頑張ってるのに」
サーシャの必死の抗議に、パーティーメンバーは鬼のように顔を歪める。
「お前みたいに魔法撃つまで散々守ってやらないといけないグズはうんざりなんだよ!」
軽戦士の男が吐き捨てる。
軽戦士はあまり人を守って戦う事に向いてない。詠唱が終わるまで魔法が撃てない魔法使いは足手まといに感じていた。
「あんたが唱える前にアタシが魔法剣で何回も切り付けてるじゃない」
盗賊の女が、炎の短剣を自慢げに見せびらかす。
魔法剣で属性攻撃は事足りるように感じていたし、魔法剣は高いと言っても短剣ならまだ手が届くお値段だった。
「サポートとは言っても私の戦いの祈りや加護の祈りと効力が被っている所もありますよね。私の方が幅広い効果もありますし」
僧侶の女が、聖木でできた錫杖を振ってシャラシャラと音を鳴らす。
僧侶の祈りは、攻撃力や防御力の単純なアップだけではなく、運の小アップや、素早さの小アップなど、様々な効果が付与される。
魔法使いのサポート魔法は純粋に『攻撃力アップ』『防御力アップ』の効果しかない。
僧侶は、自分と一部能力が被るサーシャを疎ましく感じていた。
「そんな……酷い……」
魔法使いサーシャは、杖を握りしめてハラハラと涙を流し始めた。
しかし、他のパーティーメンバーたちはそんなサーシャをあざ笑う。
「あー、これでお荷物の事気にしないで攻撃に専念できるぜ」
「アタシもー」
「私、そんな頑張ってるお二人をサポートしますね」
パーティーメンバーたちはそう吐き捨てるように告げると、サーシャの前から去っていった。
サーシャは、パーティーメンバーたちが去った後も、フリースペースで泣いていて、誰か戻ってきてくれないかと期待していたが、誰も戻ってきてくれない。
同じくフリースペースにて、こちらはこちらで暇を持て余していた重騎士のおじさん達パーティーが、サーシャを慰めてくれた。
「今の時代は、何を置いても素早い行動、素早い結果で嫌になるな」
「お嬢ちゃん元気出せよ、これ飴ちゃんだ」
「何か俺たちにできることはあるか?」
「まあ、できる範囲でだけどな」
「なかなか攻撃もできない職業の重騎士だから、最近ではギルドからの力仕事ぐらいしか依頼がなくてなぁ」
おじさんたちの言葉に、サーシャはちょっと慰められてそちらに顔を向ける。
おじさんの一人がサーシャの顔をハンカチで綺麗に拭ってくれて、サーシャは礼を言った。
「ありがとうございます……。フリースペースでうるさくしてすみません」
「良いって事よ。若いうちは色々あるもんだ」
サーシャはこくんと頷いて、おじさんから貰った苺飴を口に入れる。
甘いものを口に入れると、いくらか仲間に捨てられた心が落ち着いた。
「おじさんたちは全員重騎士なのですか?」
サーシャがよく見ると、おじさんたちは全員大きい長方形の盾を持っている。
……すごく重そうだった。
…………5枚の大きな盾を見ていると、何だか不思議な感じがする。
「そうだ、俺ら5人、授かった職業が重騎士でな。速度が遅い、防御重視の職業で、まあ、パーティーへの引き合いがそもそもなくて、こうやって寄せ集まったという訳だ」
「神から授かった職業だ。きっと何か意味はあるんだと思ってるんだがな」
「おじさんと言ってもまだまだ30代なんだぜ。まあ、10代のお嬢ちゃんからすればおじさんだがな」
重騎士のおじさんたちが自嘲するようにサーシャに訴える。
『重騎士って、結構なダンジョンで重宝するキャラなのに? まあ、そりゃ通用しないダンジョンもあるけれど。一時期は強すぎて人権キャラだった。重騎士をどのくらい確保できるかが勝負だったな。その後、色々落ち着いたけど、初心者にはおすすめパーティーだった。重騎士5人の魔法使いか弓使いから1人の姫プレイね』
突然、重騎士たちの言葉に、サーシャの脳内で自分の声にて不思議な言葉が響く。
(どういう事だろう?)
サーシャは混乱して立ち尽くした。
『ゲーム『マジックワールド』の世界に魔力高い種族ハーフエルフで「魔法使い」に異世界転生なんてラッキーね! 10代の少年少女にパーティーから追放されてだから何? なかなか使いこなすのが難しい「軽戦士」「盗賊」「僧侶」だからまあ、いいじゃない? 前から貯めてたお金使って、ちょうど良すぎるぐらい真ん前に揃っているおっさん達雇って、レッツ姫プレイ!』
「……姫プレイ……?」
姫プレイ……姫のように護衛されながらゲームを進める事。
サーシャは前世、日本という国に生まれて、この世界『マジックワールド』のゲームを廃プレイしていた事。
ゲーム『マジックワールド』については、廃プレイしすぎてダンジョン構造やアイテム位置などほとんど覚えている事。
サーシャのが知らない知識や単語が次々と頭に流れ込んできて、サーシャの元々あったこの世界の知識と融合していく。
「お、おい。大丈夫か?」
「ギルドの医務室行くか?」
気のいい重騎士のおじさん達は、サーシャが仲間に追放されたショックでおかしくなってしまったのかと心配だった。
「……さっき、できることはあるかって聞きましたよね?」
……と、急にサーシャが冷静な顔になって口を開いた。
「お、おう?」
重騎士のおじさんたちのリーダー格が、恐る恐る返事をした。
ハーフエルフの美人がすました顔をすると、結構な迫力である。
サーシャは魔法使いの黒フードのローブを被っているとはいえ、蕩けるような金髪に琥珀色の目をした圧倒的な美少女だった。
全て行動の遅い冒険者『魔法使い』だから同じ冒険者にモテないだけである。
「ここにお金があります! これで私のダンジョン攻略に付き合ってください!」
サーシャはそう言いながら、ふところから十分なお金を出して見せた。
うざったい防御力重視の魔法使いの黒ローブも脱いでアイテムボックスに仕舞った。
後で魔法力を上げるサークレット買わないとね……なんで今まで私、魔法使いなのに必死で防御力あげてたのかな、とサーシャは思う。
「「「「「え……?」」」」」
サーシャの言葉に重騎士のおじさんたちは皆で顔を見合わせたのだった。
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後日、改めて近くのダンジョン前に待ち合わせたサーシャと重騎士のおじさんたちは、そこで打ち合わせすることにした。
サーシャは今までのやぼったい黒ローブを脱ぎ捨て、金色の髪を結いあげて魔法力を上げる『月のサークレット』を被って、魔法力を上げる露出度が若干高い『魔術師の羽衣』を着ている。
重騎士のおじさんたちは、事前にサーシャに指示されていたこともあって、5人とも『重騎士の盾』を持って、『重騎士の鎧』を装備していた。こちらは重騎士の超基本装備である。
サーシャは前金として、集まってくれたおじさん達にそれぞれ金貨一枚ずつを前金として握らせた。
サーシャは今まで、冒険者が趣味で生きがいみたいなもので、他には何にもお金を使わなかったのでちょっとした貯金はあった。
おじさんたちは遠慮するが、そうするとこちらも指示を遠慮してしまうので、サーシャは無理やり金貨を握らせる。
「集まってくれてありがとうございます」
サーシャはダンジョン前の広場で一礼する。
朝早く過ぎるので他の冒険者の姿は見当たらないが、ダンジョン前の見張り番がサーシャたちの方を、『何事か』という目で見てはいた。
「おう、もちろん」
「こんなお嬢ちゃんに頼られて約束は違えないぜ」
おじさんたちの言葉にサーシャはホッと胸を撫でおろす。
ちなみに今、「おう、もちろん」と答えたのは、おじさんたちのリーダー格のジャックだ。
「これから重騎士の皆さんに、前衛で盾を前方に構えたままの防御陣形でダンジョンを進んでもらいます。できるだけ素早く移動してもらいますが、今回は無理のない範囲で良いです。私はその後ろをその5枚の盾に隠れた状態で着いていきます」
重騎士のジャックは色々質問したいことはありそうだったが、とりあえずサーシャの言葉に頷く。
「大丈夫です。不安はあると思いますが、私がサポート魔法をかけ続けますから防御力は高いです。皆さんを悪いようには絶対にしませんし、ダンジョンで儲けられる事を確約します。私を信じてください。では、行きましょう」
まだ、サーシャは隠していることがあったが、これ以上はダンジョンの見張り番も見ている前では説明するとすぐにアドバンテージが消えてしまうので簡単な説明の後に、ダンジョンに向かった。
後から大人しくおじさんたち5人も着いてくる。
パーティー一同はダンジョンの見張り番にものすごく見つめられながら、ダンジョンの門をくぐった。
このゲーム世界『マジックワールド』ではパーティー登録した者たちがダンジョンに入ると、パーティーメンバー以外とはダンジョン内で会わなくなる。
他人の助けを全く期待できなくなる一方、ダンジョン内でモンスターを横取りされたり、モンスタートレインなどをされる心配もないし、戦略の機密性もある程度期待できる。
「では、指示した陣形になって進んでいきましょう。実は重騎士5人と飛び系攻撃の職業と組むと『ロイヤルガード』というパーティースキルが発動して、防御倍率が3倍になります」
サーシャの目の前には『ロイヤルガード発動!!』というパーティースキル発動のメッセージが空中に表示されていた。
(前世を思い出したからこんな表示が見えるようになったのだろうか。
以前はスキル発動のメッセージなんて見えなかった)
サーシャは感慨深いものを感じていた。
「そ、そんなことあるのか……」
リーダー格のジャック以外の人が納得できないように首を傾げている。
ジャックは硬い表情で盾を構えたまま、皆に号令をかけて横に整列した。
「前へ、進めっ!!」
そして、盾を構えた状態でジャックの号令で皆、歩調を合わせて進み始める。
「わぁっ、かっこいい……! っと、いけない。ガード!! マジックアタック!!」
前世のゲームのように重騎士が整列して進む光景にサーシャは歓声を上げた。
しかし、すぐに気を引き締めて防御の魔法を唱える。
魔法使いの防御魔法『ガード』は。僧侶と違って特殊なサポート効果は追加されないが防御倍率が良い。
それに比較的詠唱時間が短いのも良い。
パーティー全体の防御倍率が更に2倍になり、パーティースキルと合わせて6倍になった。
『マジックアタック』は魔法攻撃力を上げる魔法だ。
それと同時に、魔法の極大魔法『ヘルファイア』の詠唱を準備し始める。
サーシャの目の前には魔法『ガード』『マジックアタック』の効果時間を表すゲージと『ヘルファイア』の発動までの時間がゲージとなって表示された。
ゲージもサーシャが前世を思い出してから見えるようになったものだ。
(分かりやすくなって良かった。前世を思い出して本当、大勝利だよ)
サーシャはニコニコしながら進む重騎士の後ろを着いていく。
この町の近くのダンジョンはオーソドックスなダンジョンで滑らかな白の石造りだ。
階数も10階しかない。
サーシャの思った通りに事は進むだろうと予想された。
サーシャは時々、ジャックに言って進路方向の指示を出す。なんといっても廃プレイしたゲームだ。
どんな小さなダンジョンでも全てのマップを覚えている。
時々順路が変わるダンジョンだが、その変わる順路もパターンを覚えていた。
最短距離を進めるノウハウがあった。
ペタッペタツ……。
ダンジョンの向こうから一番弱いモンスターのスライムが姿を現した。
「モンスターには攻撃しないで進んでください。防御の壁で前にモンスターを押して進めるので」
「分かった」
ジャックがサーシャの言葉に返事をしてスライムに構わず進んでいく。
スライムは必死でパーティーにタックルしてくるものの、その圧倒的な防御力に押されて後退していく。
途中、サーシャの指示で落とし穴を避けて進んだり、宝箱を開けたり開けなかったりしてパーティーはダンジョンの道を進んでいく。
途中、スライムが寄り集まって大きなスライムになってしまったが、パーティーの鉄壁の防御力にが歯が立たないようだった。
ただでさえ防御力が高い重騎士が5人もいるのだ。
途中、どんどん出現するモンスター、スライムやダンジョンドール(木製)やダンジョンプラント(植物)をどんどん防御力の壁で押しながら、パーティーはダンジョンの下へと順調に進んでいった。
「いきますっ!! ヘルファイア!!」
『ヘルファイア』の詠唱準備時間が終わったサーシャが極大魔法ヘルファイアを唱える。
「うぉっ……」
「す、すげぇ」
「なんだ、その威力」
ダンジョン内を真っ赤に染める地獄の炎がモンスターを一気に焼いた。(人間には害はない)
防御力の壁に押されて数十匹集まっていたモンスターが、全部火属性に弱いこともあったのか大量の魔石やアイテム、お金を残して消えた。
「コレクト!!」
サーシャが魔法を唱えると、アイテムボックスにドロップアイテムが全て空中を飛び回収された。
「私が魔法を唱えるのには構わず進んで欲しいです。ご存じの通り、パーティーメンバーには魔法は害がありませんから」
「分かった」
ジャックがサーシャの言葉に頷いて、重騎士の隊列を整えダンジョンを再度進み始める。
それから、何回もモンスターは現れたが、防御力の壁で押して、サーシャが極大魔法を時々唱えて一掃するのを繰り返した。
重騎士の面々には危ないことも痛いことも何一つなかった。
そして、あっさりボス部屋の前に一日で到達した。
重騎士の面々はボス部屋の重厚な扉に目を疑う。
普通は何日もかけてダンジョンを攻略するものだ。
でも、パーティーは最短を進み、モンスターを魔法使いの魔法で一掃し、戦闘らしい戦闘をしていなかった。
ジャックは、あり得ない事態に冷や汗を流す。
「なんでもない魔法使いの嬢ちゃんだと思ったのに」
重騎士の面々の前で、サーシャは仲間に追放されて涙を流していた。
(あの頼りない少女はどこにいってしまったのだろうか)
ジャックは歩いてきているサーシャを振り返った。
「皆さん、お疲れさまでした。ちょっと待ってください。魔力回復ポーションを飲んで、火属性の効果を上げるお札を自分に貼りますから」
サーシャはにっこりと笑って、アイテムボックスをごそごそし始める。
「ついでに」
と重騎士達も全員に疲労回復ポーションが配られた。
「ボス部屋ではビッグトレントが出ますけど、重騎士の皆さんは引き続き大盾でガードして私を守ってください。大丈夫です。信じてください。基本、トレントの動きは単純で皆さんが今まで通り防御力の壁を作ってくだされば勝てますから」
サーシャのにこやかな笑顔と共に告げられる言葉に、重騎士のおじさんたちは頷いた。
重騎士の5人は、何か途方もないことが起こる瞬間に居合わせている、そんな思いがしていた。
「さあ、準備ができました。いきましょう」
ボス部屋が重騎士の盾によって押し開けられる。
開けられたドアの向こうで大きな木の化け物のモンスター、ビッグトレントが赤い目を光らせて唸り声をあげた。
「ギヤアアアアア!!!!」
空間を震わすモンスターの声に、重騎士たちはただ自分たちの任務を果たすべく盾を構える。
「ガード! ガード! マジックアタックマジックアタック! で、えーと? あ、あれ? だ、大丈夫か。すみません、ガードは大丈夫です!」
サーシャがモンスターの声を遮るように、満を持して今まで行わなかった魔法の重ね掛けを行った。
重騎士たちは、サーシャが戸惑いの声をあげるのが少し気になったが、盾を構えてガードをするという任務を続ける。
木の化け物が枝のような手を伸ばして、パーティーメンバーを串刺しにしようとしてくるが、防御の壁に阻まれてダメージは通らないし、そもそも今までのと同じで攻撃は防御力の透明な力の壁に阻まれるように当たらなかった。
ボスは正面から堂々と盾を構える面々を相手に、横に回り込むこともなく攻撃を続けている。
そうこうしている内に、サーシャがヘルファイアの詠唱準備時間が終わったようで、そのミスリルの杖を構えた。
「いきますっ!! ヘルファイア! ヘルファイア! ヘルファイア!」
パーティーメンバーの視界一面が真っ赤になるほど辺りが地獄の炎の海に包まれる。
「あっ、すみません。ヘルファイア、もう一回分詠唱準備計算ミスしました! 待ってください! ガードは大丈夫です!」
今までのように一撃でビッグトレントも消え去るかと思いきや、ボロボロになったビッグトレントが、かろうじて立っていた。
「分かった。任せろ!」
「おう、無理すんなよ!」
「おう!」
「任せろ!」
「よしきた」
重騎士の面々は、続けて緊張感の中でビッグトレント相手に盾を構え続ける。
いくらダメージも痛みもないとはいえ、自分よりはるかに大きい木の化け物を相手に、緊張するなというのは無理な話だった。
重騎士のおじさんたちは、暴れるビッグトレントの振動を受けつつ、『もしサーシャが他に何かミスをしていて攻撃が当たったら大丈夫だろうか』とも、ちらっと考えたが、ひたすらその恐怖を押さえつけて盾を構え続けた。
「いきますっ! ヘルファイア!」
ようやく次のヘルファイアの詠唱準備が終わったサーシャが魔法を唱えた。
今度こそビッグトレントは、断末魔と山ほどの財宝を場に残して消えた。
その中に一際キラキラと輝く虹色の宝箱がある。
「やったぁ、初回最速クリアボーナスの宝箱ガチャだ。この世界で私たちが初回最速クリアなんて嬉しいですねっ、ジャックさんたち」
サーシャが虹色宝箱に駆け寄って抱き着く。
琥珀色の目をキラキラと輝かせる様子は年相応の少女のようだった。
もちろん、宝箱ガチャの出現はサーシャの予想範囲だったが、初回最速ガチャは、当然ゲームの猛者がいっぱいいる前世では1回ぐらいしか出たことはなかった。
「あっ、すみません。もちろん、ガードは解いて大丈夫です。お疲れさまでした」
サーシャは宝箱に抱き着きながら、重騎士のおじさんたちに告げる。
サーシャの言葉に、重騎士の面々は盾を握りしめていた強張った指を一つ一つ解して盾を置いた。
「今回はありがとうございました。また、ダンジョンの攻略に付き合ってくださると嬉しいです。私はミスリルの杖を持っていて満足しているので、どうぞ重騎士の方、宝箱ガチャ開けてください」
にこにこしてサーシャが立ち上がり、ジャックに宝箱を開けるのを促す。
基本的にレア宝箱の中身は開けたものの職業に依存するものが出ることが多い。
「ありがとう」
せっかくだから人の好意は受け取った方が良い、とジャックは重騎士を代表して宝箱を開ける。
自分の運のステータスは大丈夫だろうか、とジャックは開ける指が震えた。
「……!!」
出てきたのは、大盾に太陽の複雑な文様が彫られたものだった。
「わぁ、太陽の大盾ですね! ジャックさん、運が良いですね」
サーシャはジャックが取り出した大盾を見て歓声を上げた。
サーシャの記憶によれば、太陽の大盾は防御力が抜群というだけでなく、炎の属性ダメージも軽減するはずだ。後、体力も適時小回復するはず。
そのほかにも辺りにはボスの報酬のお金や魔石が散らばっている。
サーシャはコレクトの魔法で太陽の大盾以外をアイテムボックスに収納した。
「安心してください。ちゃんとパーティーに均一に分配されますから。アイテムボックスに6分割の設定しときました」
「えっ、あんたと俺たちで2分割じゃないのか?」
「えっ、パーティーメンバーに均一がゲームの……っごほん、失礼しました。冒険の鉄則ですよね? 受け取って欲しいです。儲けられたでしょう?」
サーシャは人の良いことを言って、重騎士たちの言葉に首を傾げる。
ゲームではいつも強制的に分割にされていたけれど、リアルのゲーム世界では、アイテムボックスにパーティーメンバー間の資金の分割を設定しなければならなかった。
だけれど、均一分割はゲームの鉄則だ、とサーシャは思った。
「……分かった。今回はあんたのおかげで儲けられて良かった。これからもパーティーを組んでくれないか?」
重騎士のおじさんたちを代表して、ジャックがサーシャに告げると、サーシャは首がもげそうな勢いで何度も頷く。
「ええ、ええ! 嬉しいです! これからは正式なパーティーメンバーとしてよろしくお願いします!」
人を疑っていないサーシャの純粋な笑顔に、重騎士のおじさんたちはこれからもこのお人よしの少女を守っていかなくてはと思うのだった。
読んで下さってありがとうございました。
もし良かったら評価やいいねやブクマをよろしくお願いします。
また、私の他の小説も読んでいただけたら嬉しいです。