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プロローグ

 俺、綾部理斗(あやべりと)理加(りか)は、心霊学部の図書室で、先輩達とたむろしていた。


 本当は、まだ碰上(ほうじょう)大学教養課程の2年生だから堂々といるのも変なのだが、心霊学部は上下の風通しが良好で遠慮する必要がないのと、どうせあとひと月かそこいらで学部生になれる予定であるから、教養学部のある尾婆(おばば)での試験が早く終わった日には、俺達は大抵学部の建物にいた。

 そもそも、理加の実家は学部の近所なのである。


 理加は先輩達の息抜きの相手を務めながら書架を眺め、気になる本を見つけると引っ張り出して(ページ)(めく)っていた。

 俺は窓際でぼんやりと外を眺めていた。今の時期、外は木枯らしが吹いて寒いのだが、窓ガラスを通じて入ってくる日差しはぽかぽかして暖かい。うっかりするとうとうと舟を()いでしまいそうである。


 「あら、綾部さん達ここにいたの。先生のおっしゃってた通りだわ」

 「お邪魔しています」


 影になっているガラス窓に、ミニスカートから伸びたすらりとした脚が映った。1年上の大貫先輩である。彼女は抜群のプロポーションを誇示するかのように、年がら年中ミニスカートを履いている。

 他の学生の挨拶に、手を振ることでまとめて応えると、彼女は理加に向かって言葉を継いだ。


 「教授から、部屋まで来るように、と言付(ことづ)かってきたのよ。家に電話しても留守だったから、この辺にいるんじゃないかっておっしゃっていたわ」


 「わかりました。すぐ行きます。探してくださって、ありがとうございます」

 「冬休みの宿題の件だよ、きっと。俺も呼ばれて説明させられたもの」


 同期の早川が言った。大貫先輩はそのまま図書室へ入ってきて、抱えていた荷物をテーブルの上に置くと、書架の間へ獲物を求めに出発した。


 彼女は、図書室本来の使用目的である勉強をするためにここへ来たのである。理加は早川に適当な受け答えをしながら席を立った。


 「理斗、いつまでも眠っていないで起きなさい。竹野(たかの)教授の部屋へ行くわよ」


 髪の毛を引っ張られた。ちょっと痛い。たちまち目が冴えた。日向ぼっこをしているうちに、半分眠ったようになっていたらしい。


 並んで立つと、背丈と幅のみならず背中まである長い黒髪から切れ長の目に至るまで、俺と理加はそっくりである。


 違うのは性別ぐらいか。いや、理加は人間だが、俺は人間の形をした猫である。

 理加の飼い猫だったのが、理加の心霊能力をもらって人間になったのだ。形は人間でも、まだまだ人間の生活に慣れたとは言い難い。


 大学の書類上は、綾部理加が碰上大学心霊学部の学生で、俺は理加の附属物扱いとなっている。それでも心霊学部に通っているお蔭で、俺は理加にくっついていられるのである。



 竹野教授の部屋に入ると、日置純一郎(ひおきじゅんいちろう)も教授と一緒にいた。彼は、俺が人間になった日に会った縁で、時々ご飯を作りに理加の家まで来てくれる、心霊学部の同期である。


 父親が竹野教授と知り合いということであるから、彼がここにいてもおかしくはない。


 「冬休みの宿題として提出してもらったレポートの件だがね」


 向かい合って4人掛けのソファに理加と収まると、1人だけ回転椅子に座った竹野教授が切り出した。


 それで俺は、純一郎が一緒にいる訳がわかった。

 冬休みの宿題は、2人1組でこなすものだった。理加は彼と組んだのである。俺は冬休みの出来事を思い返した。

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