File:005 街 ~運命の交差点~
今回は1999年1月にチュンソフトから発売された、
PlayStation用ソフトである『街 ~運命の交差点~』
について語ります。
この作品は、セガサターン用ソフトとして発売された
『サウンドノベル 街 -machi-』をベースとし、
一部のシステムの変更、新要素などを追加した、
プチリメイク版ともいうべきものです。
セガサターン版、及びその他のバージョンのものは
プレイしたことがないため、ご了承下さい。
■このゲームに対する、作者の個人的な評価
難易度:D
面白さ:A
スピード感:C
多様性:S
①サウンドノベルとは?
『サウンドノベル』というシリーズはご存じでしょうか。
この作品以外では、『かまいたちの夜』や『弟切草』
などといったものが有名で、こちらの方が知っている、
聞き覚えがあるといった人が多いのではないでしょうか。
このシリーズは、ジャンルでいえば『アドベンチャーゲーム』
に分類されるものですが、一口にアドベンチャーゲーム
といっても、その多様性は凄まじく、詳しく説明するのは
非常に困難なため、その辺りについては省きます。
この『サウンドノベル』に限定するのであれば、
簡単に言ってしまうと、『文章が主役のゲーム』です。
それに付随して、画像や音楽、ムービーなどが
織り込まれ、文章を彩るかたちとなっています。
基本的には、プレイヤーがすることは『ボタンを押して
文章を読み進めていく』ことだけなので、いわゆる
RPGやアクション、シューティングといったものを
『ゲーム』のイメージとして捉えている人には、かなり
新鮮なものに感じることでしょう。
②運命を決めるのは…
しかし、『文章を読み進めていく』だけならば、
誰がやっても同じで、プレイヤーの『腕』による差は
全くないのかといえば…そうではありません。
このジャンルの作品には大抵の場合、物語の
途中で『選択肢』が出現し、その中でどれを選ぶかは
プレイヤーに託されるのです。
『選択肢』でどれを選んだかが、物語の今後に
影響し、時にはいわゆる『本筋』から大きく外れた、
思わぬ展開をもたらすようなことも少なくありません。
そして、それによって物語の結末すらが
プレイするたびに変化するものも多く、この点が
『一つの結末を共有する』漫画やアニメなどとは
大きく、そして明確に異なるポイントです。
漫画やアニメ、そしてドラマや映画などを観ることが、
『運命を辿る』ことを目的としているのに対し、
こうしたジャンルのゲームをプレイすることは、『運命を
切り開く』ことを目的としているように感じます。
文章の構成や感情移入の度合いから、『主役』
としてゲームを楽しめる場合と、飽くまで『第三者』の
目線でゲームを楽しむ場合があるかと思いますが、
どちらにしても『決断の重さ』を体感できることは
間違いないでしょう。
③個性溢れる8人の主人公、8つの物語
このゲームにおける主人公は、8人います。
そしてゲームの目的は、彼らが歩む5日間の物語に
ピリオドを打つこと。
多数の選択肢、多数のバッドエンドは存在しますが、
『本当の結末』は一つだけで、そこに導くことが
プレイヤーの使命といえます。
主人公ごとに物語は完全に分かれているため、
最終的には8つの『本当の結末』を見ることが、
本作のクリア条件といっていいでしょう。
ただし、分かれているとはいっても、8人の物語は
全て渋谷を舞台としたものであるため、彼らは時折
『すれ違い』ながら、それぞれの結末に向かっていきます。
【オタク刑事、走る!】の主人公、雨宮桂馬は
渋谷中央署に務める刑事であり、また自他共に認める
生粋の『ゲーマー』でもあります。
オーロラビジョンに映る謎の文章から始まる、渋谷全土を
脅威に晒す『爆破事件』を食い止めるため、
彼は街を奔走する…。
次々に突き付けられる犯人からの『挑戦』を
紐解いていく、ミステリー要素が満載のシナリオです。
【The wrongman 牛】の主人公、牛尾政美は
ヤクザから足を洗ったばかりの身で、知り合いである
とある女性にプロポーズするため、彼女が務める
宝石店へと足を運ぶのですが…。
『すれ違い』を遥かに超えた『入れ替わり』が
起きてしまう、不思議な物語です。
【やせるおもい】の主人公、細井美子は
食欲旺盛で、食べることが生き甲斐な女の子。
ある日、もう一つの生き甲斐ともいうべき、恋人の
高田洋一と共にケーキを食べにいくのですが、そこで
彼女は、洋一から衝撃の告白を受けます。
『とにかく痩せる』ことを目的とした、8人の中でも
特にコメディタッチの強いシナリオです。
【七曜会】の主人公、篠田正志は大学の4年生。
父親の務める会社に就職も決まり、将来についての
安泰も見えてきた頃、『日曜日』と名乗る謎の女性
からの呼び出しを受け、デパートの屋上へと向かいます。
そこで彼を待ち受けていたのは、『脅迫』。
そして彼自身もまた、『脅迫をする』側へと…。
脅迫を『する』側と『される』側のせめぎ合い、
知恵比べが濃密に描かれたシナリオです。
【シュレディンガーの手】の主人公、市川文靖は
業界では知らぬ者がいないほど著名な、テレビドラマの
プロットライター。
しかし『大衆向け』のその作品は、本人の意思とは
別の『何者か』が書き上げたものであり、彼は未だに
その正体を掴めずにいた。
作家としての『本当の自分』を取り戻すべく、
彼はついに一念発起する…。
ミステリーの他、『得体の知れないもの』の存在が
描かれた、ホラー要素を多分に含んだお話です。
【で・き・ちゃっ・た】の主人公、飛沢陽平は
学校一の人気者で、プレイボーイ。
しかし、ある日突然、名前すらまともに思い出せない
とある女性から告げられた『報告』に、それまで続いていた
彼の快適な学生生活は狂わされていく…。
ラブコメ風の雰囲気が漂う、男女の駆け引きが
満載のシナリオです。
【迷える外人部隊】の主人公、高峰隆士は
『レジョン』と呼ばれるフランスの外人部隊に身を置く
傭兵であったが、休暇を取り、『故郷』である日本へと
戻ってきていた。
傭兵としての暮らしに疑問を感じていた彼であったが、
『戦場』とあまりにかけ離れた今の日本の空気もまた、
彼の心を搔き乱すものであった…。
『自分とは、何者なのか』を問い続ける、閉塞感と
哀愁が漂った、禅問答のようなシナリオです。
【The wrongman 馬】 の主人公、馬部甚太郎は
『斬られ役』ばかりを演じてきた売れない役者であったが、
ついにテレビドラマの大役が舞い込んでくる。
しかし、慣れない役どころのせいか、撮影では
NGを連発し、落ち込んでいたところに更に…。
ひょんなことから『自分とそっくりな人間』を演じる
こととなった、不運な男の物語です。
④『大人にこそ』プレイして欲しいゲーム
ドラマや漫画、ゲームなどを紹介する際に『大人でも』
楽しめるゲーム、といった表現をすることは珍しく
ありませんが、私の率直な意見としては、本作は
『大人にこそ』プレイして欲しいゲームです。
ゲーム性というか、操作性のようなものが単純だから
大人でも安心してプレイできる…といった要素も
勿論あってのことですが、やはりそのシナリオ、『物語』の
内容が、大人向け…というか、どう考えても『子供向け』
の内容ではない部分が多々あるように感じます。
実際、私が初めてプレイしたのは中学生の頃だった
と思いますが…当時としもそれなりに楽しめた感は
あったものの、歳を重ね二度目、三度目のプレイを
経るたびに新たな感情が湧き、新たな発見があります。
具体的な例を挙げると、『シュレディンガーの手』と
『迷える外人部隊』は、中学生の頃には、その重厚で
暗澹たる雰囲気が理解できず、シナリオを進めるのが
面倒にさえ感じていたのですが…今となっては、二つとも
とても好きなシナリオです。
どのシナリオが好きか嫌いかで、その人のこれまでの
人生とか、今現在の心情が見てとれるような気もします。
とあるゲーム実況の動画で、姉弟で一緒に本作を
プレイしているというものがあったのですが、彼女らは
『迷える外人部隊』のシナリオに強い不快感というか、
嫌悪感のようなものを見せていたように思います。
恐らくそれは、そのシナリオがいわゆる『家族』の
『負の部分』を晒け出した内容になっていたからだと、
個人的には思います。
実況動画を一緒に収録しようと思うくらいに
仲の良い『家族』同士ですから、そういった部分を
理解できない、もしくは考えたくないと感じてしまうのは、
当然といえば当然の反応かもしれませんね。
…とまあ、正しく写し鏡というか、あるいは一種の
心理テストのような一面もあるのが、本作です。
一人でプレイするのが妥当な楽しみ方だとは
思いますが、『この人のことを、もう少しよく知りたい』
なんて思う人がいれば、その人の反応を窺いつつ
プレイしてみるのも、また面白いかもしれません。
この辺りで一区切りし、続きはまた別の機会にでも
語ろうかと思います。
よろしければ、この作品についての皆さんの評価や
感想もぜひ、聞かせてください。
それでは、またの機会に。