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水色の町 2

    バシャバシャバシャ


 水が跳ね散るのも構わず、灰色の男の子は石畳の道を走ります。赤色の町では買い物をする黒い男の後ろを付いていっただけで、その後すぐに町を出ました。灰色の子どもたちにとってこの水色の町が、初めて見て回る町なのです。隅から隅まで見ようと走り回るのは仕方のないことでしょう。


 灰色の少年もはしゃいだようすで隣を走っています。


 時間のせいなのか、通りを歩くのは大人ばかりで、子どもの姿は見かけません。通りに面したお店ではたらいているのも大人ばかりで、灰色の男の子は思わず「へんなの。」と呟きました。


 へんといえば、もうひとつ。店の軒先だったり、向かいの建物との間に渡された紐だったりにつるされて、たくさんの布がはためいているのです。まるで洗濯物のようです。


 町の空と同じ色のたくさんの布が風になびいて、町に水色の影をつくるようすを子どもたちはほうと眺めました。後ろから歩いて追い付いてきた黒い男は、灰色の子どもたちと町を見比べて頷きます。


「うん、この色なら君たちの色と似ている気もするし、ここでいろいろそろえようか。」


「そろえるって、何をそろえるの。」


 灰色の男の子はきょとんとして黒い男を見上げました。


「毛布とか、小物入れとか、旅に必要ないろいろなもの。」


 男は「君たち、ほとんど何も持ってきてないから。」と、ジットリした目で灰色の男の子を見ました。


「赤い町でも良かったんだけど、水色の町に来られたならここで買った方がいい。やっぱり似ている色の方がいいしね。」


「あれ、町から出ると、色は変わっていくんじゃないの。」


 灰色の少年は黒い男の言葉に首をひねりました。“特産”以外は、町から出るとどんどん知らない色に変わっていく。ついこの間、男が教えてくれたばかりです。でも、今の言い方だと、そうでもないように聞こえたのです。


「ああ。この水色の町は…」


 男が何か話そうとしたその時です。


「ねえ、あなたたち旅人でしょ。」


 突然話しかけられて三人はびっくりしました。なかでも一番驚いていたのは黒い男です。ぎょっとしたように勢いよく振り返りました。


「あなたは、黒色でしょう。あなたたちは……ねずみ色かしら。」


 すらすらと色の名前を言いながら三人を見ていたのは、水色の少女です。灰色の少年と同じぐらい…いえ、少しだけ年上かもしれません。


「ううん、ぼくたちは灰色だよ。」


 灰色の男の子は元気よく答えました。実は、同い年くらいの子に会えてちょっとだけほっとしたのです。


「あら、ちがった。じゃあ初めて見る色だわ。灰色っていうのね。」


 ちがったと言いながらも、少女は嬉しそうに灰色の子どもたちを見比べます。女の子からそんなにまじまじと見られることなんてないので、二人ともちょっと気まずくなりました。


「ねえ、学校には行ってないの。」


 気になったのか話をそらしたかったのか、灰色の少年は尋ねました。後ろでは黒い男が「そうだ、そうだ」と言わんばかりに頷いています。


「さぼっちゃった。」


 あっけらかんと少女は答えました。


「私の家はね、染め物屋さんをしているの。染めるものが多いときには、私も手伝うために学校をお休みするから、あんまり怒られないのよ。」


「へえ。染め物っていうのは、どういうものなの。」


 灰色の少年はさらに尋ねました。きらきらした目は楽しそうに少女を見ています。


「染め物はこの町の特産なの。この町の水で染めてあげると、もとがどんな色のものでも水色に染めることができるのよ。」


 「あんな風にね」と、水色の少女は建物の間ではためく布を指差します。灰色の子どもたちはお互いの顔を見合わせました。説明を聞いても、いまいちピンとこなかったのです。


 水色の少女はさらににっこりと笑いました。


「見せてあげるわ。何か、色が変わってもいいものって持ってるかしら。」

「えっと…」


 灰色の男の子がポケットを探ると、黒い男から借りた巾着を持ったままだったことに気がつきました。赤い町の石を入れていた巾着は、もとが何色かわからない、まだらな色をしています。


 灰色の男の子が巾着を持ったまま、黒い男を見上げると、男は黙ったままこっくりと頷きました。


「ねえ、そめられるの。」


「ええ。言ったでしょう。私もお手伝いするのよ。本当は、もっと手順もあって時間もかかるのだけれども、見せるだけならすぐにできるわ。」


 受け取った巾着をパンっと太陽に向かって広げそう言った少女は、それを水路を流れる水に浸しました。何度も、何度も、さらさら、さらさらと水の中で動かします。そうしてザバッと上げると空にかざすようにして広げました。それを何度かくり返します。


「ほら、できたっ」


 少女は自信満々に言いました。へんな色だった巾着は、水色の空に溶け込むように美しい綺麗な色合いに変わっていました。光り輝くような美しい色です。


「これは簡単に染めただけだから、そのうち色が戻ってきてしまうけれど、ちゃんと、しっかり染めたものはどれだけ時間がたっても、町を移動しても色が変わらないって評判なのよ。」

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