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スカーレットの壺

作者: みぶ真也

 NHKの朝ドラ「スカーレット」に陶器屋社長役で出演し信楽焼に触れて以来、すっかり焼き物に凝ってしまった。

 無から有を作り、しかも焼き上げてみないとどのように仕上がるか分からない。

 そこが魅力なのだ。

 度々、信楽に通い、ロケで知り合った窯元(かまもと)さんの窯をお借りしている。

 最初は箸置きや小さな湯呑を作ったりしていたが、そのうちにあまり実用的でない色んな形の作品を焼くのが面白くなってきた。

 特に気に入ったのは壺だ。

 世界に二つとないくらい、珍しい形の壺を考えて作ったみた。

 5月の連休には、曲がりくねった不思議な壺を作り、部屋に飾ってある。

「そんな壺があるなら見てみたい」

 という人が現れた。

 大学のSF研究会の先輩、北村さんだ。

 幸い、今近くに住んでいるというので遊びがてら壺を持って家を訪ねてみた。

 ワンルームながら綺麗にかたづいた部屋だ。

「みぶくん、上がって。天気がいいから、今、布団干したとこなんだ」

 本棚にはSF小説やDVDが並んでいる。

 早速壺を木箱から出すと、

「凄い!みぶくん、これはクラインの壺だ」

「なんですか、それ?」

「メビウスの輪というのは知ってるだろう?」

「確か紙で作った輪っかの表をたどっていくといつの間にか裏側になってるっていうねじれた輪ですよね」

「そう、それの三次元版がクラインの壺なんだ。壺の表側と内側の空間がねじれた四次元空間の壺なんだ。君が焼き物を作ってるうちに偶然出来上がったんだ」

 その証拠に…と言って、北村さんは壺に水を注ぎ込んだ。水は壺の中に貯まることなくこぼれることもなく消えてしまった。

「ほら、水はねじれた空間のどこかへ行ってしまったんだ」

 それから、ジュースやコーヒー、焼酎やウィスキーなど色んな液体を入れたが、全て消えてしまった。

 すっかり夕暮れになってしまったので北村さんが布団を取り入れようとして悲鳴をあげた。

 なんと、干した布団の上に、壺に注いだ飲み物が全てしみこんでいたのだ。

 壺の中のねじれた空間は、布団の上につながっていたようだ。


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