禁術の代償
はっ! 私、どうなったの!?
あ、あれだけ痛かったのに……どこにも傷が……ない! そういえばさっきも全然血が出てなかったような……
レオ、レオは!?
「レオ! 起きて! 大丈夫なの! レオ!」
私にのしかかっているレオを持ち上げる。レオ……なっ!? 何よこれ! 二十九歳になるんじゃあ……
「お、おはよう……気分は……どう?」
「う、うん……かなりすっきりしてるわ。どことなく体が軽いの。で、でもレオ……その顔は一体……」
「ん? 何か変かい? どれどれ……」
懐から鏡を取り出したレオ。自分の顔を確認している。
「あらら、少しやり過ぎたみたいだね。でも別にいいよ。ほら、アルも見てごらん?」
鏡……宿のお客さんに一度だけ見せてもらったのは十何年前だったかな……
「こ、これが私?」
信じられない……昔、見た時より若い……
「どう? これなら文句ないよね。正直変わったようには見えないけど……でも、もう絶対離さないから!」
「バカ! 私だけ若くなってどうするのよ! 今のレオはどう見ても四十過ぎてるじゃない! 計算が合わないわ!」
レオが歳をとった分ほど私が若返るんじゃないの!? 歳をとりすぎだよぉ……
「どうでもいいよ。僕はアルが満足してくれたらそれでいいんだから。さあ、もうここに用はないよ。西に逃げよう。帝国の手の及ばない土地へ!」
「う、うん!」
「あ、でもその前に……」
「あっ、ちょ、レオ、だめ……」
「だめなの?」
そ、そんな捨てられた子犬みたいな目で見ないでよぉ……渋いナイスミドルなのに……
「だめ……じゃない……」
「アル、大好きだよ。」
「わ、私も……」
レオの顔が迫ってくる。これ、口付けって言うんだ……これぐらいの知識はある……
だめ、胸の鼓動が……うるさすぎる……静まらない……レオ……
ああ……これが、口付け……レオの体が、暖かい……腕がきつく私を……唇が、とろけそう……
「こぉーんな所にいたのかぁ。レオナルドよぉ?」
「ひっ、誰!?」
身なりのいい鎧姿に高そうなマント……そしてあの紋章は……帝国の?
「おやおや、将軍自ら何しに来たんだい? そんなに暇じゃないはずだけどね。」
「かかっ、やべぇ魔力を感知したからよぉ。もしやと思ってな。俺の好きな独断専行ってやつよぉ。もう少ぉし遅く来たらお楽しみの場面が見れたかよ?」
将軍? 帝国の!?
「ふん。で、何しに来たの? まさか僕に勝てるつもりかい? たった一人でさ。」
「かかっ、てめぇは昔からそうだったよなぁ。歳下にしか見えねえガリガリのくせによぉ……三大将軍なんて言われてっけど強ぇのはダントツでおめぇでよぉ……」
「当たり前じゃん。魔力が違うんだからさ。で、殺りにきたの? 君一人で? ぷぷっ、正気かい? ねぇストロンゴメス・ド・ボルペイン将軍様?」
やはり帝国の将軍なんだ……
でもレオの余裕は何なの……
「かかっ、余裕かましてるフリしやがって……分かってんだぜ? さっき感じた魔力、ありゃあ禁術だなぁ? それもかなりやべぇやつだ。てことはレオナルド、てめぇ……弱ってやがんな? ちいっと見えねうちに老けやがったしよぉ。あー、俺が一人で来た理由だったか、決まってんだろ?」
剣を抜いた……なんて大きい……
レオは杖を構えた……
「てめぇを! 俺一人の力で! ぶち殺すために決まってんだろぉが! おらぁぁあああああーーーー!」
『風斬』
レオの魔法が命中し、大男の剣が弾ける……
「くくく、かかかっ! かーっかっかっかぁ! やっぱりだ! やっぱりてめぇ弱くなりやがったなぁ! なんだ今の風斬はよぉ! そよ風かぁ? ちょい前のてめぇなら俺の首なんぞ一発でぶち切ってただろぉが!」
『風斬』
「そんなん効くかぁ!」
「レオっ!」
「くっ……」
大男の豪剣を杖で受け止めたレオが……吹っ飛ばされた!?
「かかかっ、てめぇの枯れた腕で俺と打ち合えるとでも思ってんかよ? 生意気にいい木材使いやがってよぉ? どけぇおらぁ!」
「きゃっ!」
い、痛ぃ……殴られたの……?
「おーらおらおらぁ! まだ死ぬんじゃねぇぞぉ! さんざん舐めた口ぃききやがってよぉ! この平民あがりのひょろザコがぁ!」
「がっふ!」
「レオ!」
そ、そんな! レオが! 大男の剣をどうにか防いではいるけど! その度に吹っ飛ばされてる……
「レオ! 負けないで「うるせぇ!」あぐっ……」
「アルっ! よ、よくもアルを……」
「へっ! そういやぁてめぇトチ狂ってあのヒス女ぁ殺したらしいなぁ? そんなにこの女がいいんかよ? こぉんな顔がいいだけの貧乏人がよぉ?」
「君には関係ないことさ……」
「いーや関係あるぜぇ! くくっ、聞きてぇだろ? 聞かせてやんぜ? かかっ、笑える話だがよぉ?」
か、関係?
「おらぁ! ちまちま防いでんじゃねぇぞ!」
「ぐっふぅ……」
大男が剣を振るたびに木の葉のように翻弄されるレオ……
「てめぇなんざ魔法が使えなきゃあただの木端なんだよぉ! これだから貧弱な平民はよぉ! ダニーもリリアーノもてめぇごときが父親じゃなくてよかったろうぜ!」
ダニー? リリアーノ?
あの女の子供?
『風斬』
「だから効かねえってんだよ! 哀れなもんだなぁおい! おらぁ!」
「がっ!」
ああレオ! レオが奴に踏み潰されて! あばら骨が!
「さあて終わりだなぁ。そんじゃ殺す前に聞かせてやんぜ。ダニーとリリアーノだがよぉ? 父親ぁ俺だぜ?」