若返りの禁術
「……起きて……アル……起きて……」
体が揺れる……眠いのに……
「……アル……起きて……」
レオの声だ……どうせまた、あの夢……
なにが結婚しよう、よ……私をこんな歳になるまで待たせて……
二十歳で行き遅れ……二十五歳で大年増……
私は……もう四十歳……レオのバカ!
「……アル……起きないと……するよ……」
「バカ……レオ……」
「おはよう。起きた?」
「レオ? あっ、あれ?」
「おはよう。紅茶でもどう? それか南の大陸渡りの苦めのやつもあるよ?」
あ、そっか……ここはもう私の部屋じゃないし、夢じゃないんだ……もう、私は帰れない……レオと進むしか……
なんだか腹が立ってきた! あれだけ待たせておいたくせに! さっとかっこよく私を助けてこんな所まで連れてきて!
「飲むわよ! 紅茶!」
紅茶なんて飲んだこともないんだから! 一杯で私の月の給金より高いんでしょ!
「はい。少し熱いからゆっくり飲んで。」
「ありがと……」
なによこれ……こんなにいい香りがするの? 信じられない……お貴族様ってこんなのを飲んでるの……
うわぁ美味しい……
でも、レオは毎日これが飲める生活を捨てて……私を、選んでくれた……?
「レオ。」
「ん? なんだい? 美味しい?」
「あんたって昔からバカだバカだって思ってたけど……本当にバカだったのね!」
「ど、どうしたの急に?」
「別に……はっきり言いなさい。そこまで私が好きなの? 私が欲しいの?」
「当たり前じゃないか。はっきり言うも何も、何回言えば分かってくれるんだい? 僕にとってアル以上に好きな人も欲しいものもない。アルのためなら何でもするし何人だって殺すよ。いい加減分かってよ!」
レオ……
「そうね……私が卑屈になりすぎてたみたい……だってレオが……あまりにもかっこよすぎるから……」
「アル! ぼ、僕そんなにかっこいい! ほんと!? 僕のこと好き!?」
そ、そんな少年みたいな目をしなくても……
「え、ええ……かっこいいわ……す、好きよ!」
「やったぁーー! 嬉しいよ! 僕もアルのこと大好きなんだから! ほんとだよ! よーし! これで僕も頑張れるよ! 朝食を済ませたら早速やろうね!」
「え、ええ……」
十一歳若返るなんて……本当にそんなことが可能なの? 確かに数年前から月のものが来てない私が……レオの子供を産むためには他に方法もないとは思うけど……
「さて、準備はいいね?」
「う、うん……」
準備もなにも……私は何もしてない……
「じゃあここに立ってくれる?」
「うん……何これ?」
「簡単に言うと魔法陣ってやつだね。僕の魔力だけじゃあ足りないから。他にも色々使うよ。紅玉龍の龍珠とか極楽揚羽の鱗粉とか。そうそう大鬼熊の熊胆もあるよ。」
そんな難しいことを言われても分からないわよ……何よドラゴンって……出会ったら死んじゃうわよ……
「アルは心を落ち着けて。そこに立ってるだけでいいからね。あ、そうだ気持ち程度に魔力を体内に循環させてみて。できる限りでいいから。」
「分かった……」
魔法を使う時の気持ちで……少ししかない魔力を……全身に……
「じゃあ……いくからね!」
レオが私の手を握る。
『経絡魔体循環……蘇身回生』
「いぎぃぃぃーー! いたい! レオぉ! 痛いよぉ! やめ、やめてやめてやめてぇ!」
な、何これ! 体内をギザギザの蛇か何かが這いまわっているの!?
「やめてよぉレオ! 痛い! 死ぬ! 助けてよぉ!」
「我慢して! もう少しだから!」
「あがぁぁぁーー! レオぉぉーー!」
痛い痛い痛い痛い痛い! レオのバカぁぁ! 死んじゃうよぉ! 何なのこれ! 腕が、足が、ザクザクに切り刻まれて……傷口に何百本もの針が……痛いよぉぉおーー!
「いぎゃあいいいぎぃぃーー!」
「もう少し! もう少しだから!」
「あおぅうおぉぉーー! レオぉぉーー!」
痛すぎるのに体が動かない!? いっそ倒れて、気を失ってしまいたいのに! 鮮明な痛みが私を襲い続けてる……助けてよ……
「もう、少、し……」
「レ、レオぉぉぉぉーーーーーーーー!」
「よし! ここだぁ!」
『経絡魔体循環……若身励起』
「あぐうっひぎぃぃいいいぃーーーーーーー!」
今までで最高の痛みが! 私がバラバラに……手足が! 胴が、頭が粉々に壊れて……あ……
「終わった……やった……僕はやった……よ……アル……」
私に向かって倒れ込んでくるレオ……そして私の意識も……