二人の逃避行
嬉しそうな顔を隠そうともしないレオ。
「じゃあ、もし子供のことが問題なくなったら僕と一緒に来てくれる?」
「そ、そりゃあ……」
私だって産めるものならレオの子を産んであげたいよ……だからってそんなの……無理だよぉ……
「若返ればいいんだよ。十一年ほどね。」
「え? 何を言ってるの?」
バカだバカだとは思ってたけど……まさかここまで……
「僕の外見を見ておかしいと思わない?」
「そ、そりゃ当時と何も変わってないから不思議は不思議だったけど……」
「肉体的には当時より四年ほど歳をとったかな。つまり僕とアルの年齢差は二十二歳なんだよ。あくまで肉体的にはの話だけどね。」
全く意味が分からない……レオは何を言ってるの……
「だから僕の若さを十一歳ほどアルにあげれば二人とも二十九歳になるよ。どう?」
「……は?」
全く理解できない……これは私が無知だからなの? それともお貴族様の世界では常識なの?
「分かってくれるよね。じゃあちょっと大変だけど帝国の僕の隠れ家に行くよ。そこでないとできないからね。」
「て、帝国って……」
「ちょっと危険だけど、まあいいよね。さあ、そうと決まったら行くよ。あ、その服や首飾りはどこかで売るからね。」
「う、うん……」
あれ? レオってこんなに強引だっけ? でも意外と嫌じゃない……
「あっ! 待って! 女将さんに挨拶しておかないと!」
「それはやめた方がいいね。下手なことを言うと迷惑がかかるよ? このまま黙って行きたいところだけど……書き置きしておいたら?」
そ、そっか……レオは帝国の公爵を殺しちゃったんだもんね……
「少し待っててね……」
字はあんまり上手くないけど……これでも読み書きぐらいできるんだから!
よし、こんなものかな。あれ? レオなにやっ「ちょっとおおおー!?」
「あ、書き終わった? そしたらアルも着替えてね。」
あ、なんだ……そうだよね。着替えないといけないよね……レオが服を脱いでたから……てっきり私に……いやいや! こんなおばさん相手に! いくらレオでも! で、でもレオは私のこと……きれいって……
「ね、ねえ……レオ? あ、あの、私って……」
「ん? なぁに? あ、大事なものは持って行った方がいいよ。ここにはもう戻れないから。」
えっ!?
「も、戻れない……の?」
「うん。ラフェストラ帝国が滅びでもしない限りね。いくら僕でも一人で帝国相手に勝てるわけないからね。他の二人の将軍だってそこそこ強いし。」
そ、そうよね……いずれ帝国に追われるんだよね……それなのに帝国に行くなんて……私、バカなことしてるのかな……
「これ、持って行っていい?」
「大丈夫だよ。僕が預かるね。」
小さいけど、私の全財産が入った金庫。レオはお金に困ってないとは思うけど、私が今まで貯めた大事な……
さ、着替え……「ちょっとレオ! 何見てるのよ!」
「ご、ごめん! だ、だってアルがあまりにも……」
「何よ! 言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!」
「お、怒らない?」
「聞いてから考えるわよ!」
何よ……さっきまで強引にあれこれ勝手に決めたくせに……そんな顔して私の着替えを見ようとするなんて……将軍になっても、レオはレオのままなんだ……
「アル……本当にきれいだよ。だから目が離せなかったんだ……」
「レオ……っきゃっ!」
もぉ! いきなり抱きしめてくるなんて……レオのバカ……
「アル、本当に、本当に会いたかったんだよ! ずっと、一緒にいたいよ!」
「レオ……」
体から力が抜ける……何もかもどうでもよくなってくる。レオの腕が、力強い……
「ご、ごめん! 着替えの邪魔しちゃったね……あ、あっち向いてるから!」
私の体を離し、壁を向かって座り込んだレオ。なによバカ! さいてい!
「これでいい?」
「うーん、本当はもっと汚い服装がいいけど……でも、まずはラフォートを出ないとね。まずは街外れに行くよ。そこで夜を待とう。」
「うん……」
汚い服装って何よ……
はあ……本当に疲れた……
帝国に入るだけでこんなに大変だなんて……先に言ってよ……何が『ちょっと危険』よ! レオのバカ!
しかもそれから……
夜の湖を泳いだり、川で魚に噛まれたり、変な蛭に吸い付かれたり……
帝国兵には追われるし、魔物も襲ってくるし……
そうして辿り着いたのが、山奥の洞窟。ここまで来るのに二十日はかかってる。道中では何度も一緒に夜を過ごしたのに、レオは私に何もしてこない……バカ……
私一人だけ夜毎にドキドキして……バカみたい……
でも、本当に疲れた。もう何もしたくない……