レオナルドの半生
『断裂』
え? 今のは……魔法? レオが?
えっ? あれだけいた騎士が……上下に断たれている? 鎧ごと……?
「アル、心配してくれてありがとう。でもね、僕はもうあの時の弱っちい僕じゃないんだよ? 豪魔将軍レオナルド、人呼んで魔将レオさ。雑兵の百や二百じゃ相手にならないよ。」
「レオ……」
「よ、よくもやってくれたわね! これは帝国に対する明白な反逆! どこまで逃げようとも全軍を挙げて追い詰めてくれるから!」
そんな……レオが……反逆者……
「そう上手くはいかないさ。炎姫アイリーン率いるメリケイン王国はかなり強かった。天翔軍師ボーエンを擁するセントウル王国もなかなかに手強かった。隣のテイプル公国は弱小だったね。そしてここドナハマナ王国まで攻め落としたけど……
連戦連勝と言えば聞こえはいいが、内情は消耗しきっている。ラフェストラ騎士団一万騎と謳われていても動ける者は果たして何人いることか。違うかい?」
知らないことばかり……
でも、炎姫アイリーンの噂ぐらいなら聞いたことがある……王女なのに、誰にも傷を付けられたことがないほど強いって……
でも、そんな国でも滅びた……
「ね、ねえレオ……本当に私まで殺すの? 夫婦じゃない! ダニーだってリリアーノだってきっと悲し『風斬』む……」
私の目の前で、貴族の女はゆっくりと倒れていった。喉を裂かれて、悲鳴すらあげられずに……
「アル、終わったよ。今まで待たせてごめん。本当に会いたかったんだよ。」
「レオ……一体どうしちゃったの? 何があなたをそんな風に……」
私の知ってるレオは……野犬に追いかけられては泣きながら逃げて、いつも私が背中に庇ってあげてた。村のガキ大将にいじめられては……私が仕返しをしてた。それが、顔色一つ変えずにこんなことをするなんて……
「ごめんよ。僕が愚かだったんだ。いつも守られてばかりで弱い自分を変えたくて。アルを守れる人間になりたかったんだ。」
「バカ……」
「でもだめだった。初陣でいきなり捕虜にされちゃったよ。生きてただけ幸運だったけどね。それから奴隷として働かされるはずだったんだけど、なぜかアンヌさんの目に留まってね。気付いたらファーレンハイト公爵家で鍛えられる日々さ。」
「レオ……」
「それから五年後、ラフェストラ帝国騎士団の魔法部隊に入れられてね。あちこちの戦場をまわるうちに、僕より強い魔法使いはいなくなった。その頃は豪魔レオなんて言われてたかな。彼女と結婚したのもその頃だね。もちろん僕にはアルがいるから断りたかったよ。でもね……」
「でも?」
「アル、ルワルド村にいなかったよね?」
レオ……
「うん……レオがいなくなって一年ほどで逃げ出したの……それから着の身着のまま、流れ流れてどうにかラフォートに着いたのよ。」
「苦労させてごめん。十五年ほど前に部下に手紙を持たせたんだ。ところがアルはいない、行方も知れないってことが分かった。参ったよ。当時の僕からすれば他国のことだからね。数少ない部下に捜索させることなんかできないし。それでアンヌさんに条件を出したんだ。公爵家の力でアルを捜索してもらうことをね。どうせ帝国内でファーレンハイト公爵家に逆らえるものでもないしね。」
「レオのバカ……レオさえ傍にいてくれれば私は村から逃げ出すこともなかったのに!」
私だって村でレオの帰りを待ちたかったのに……
「ごめん……一体何があったんだい?」
「何がですって!? ダミアンよ! 村長の三男ダミアン! あいつが私を狙ってたのよ! レオがいなくなった翌日から! 酷いものだったわ……色々あって、とうとうあいつのものになるか、首を吊るかって状況に追い込まれたのよ……どっちも嫌だから夜逃げしたけど……あんたが! あんたがずっと傍にいてくれたらそんなこともなかったのに!」
私がもっと強ければよかったけど……村で身寄りもない私には何もできなかった。
「ダミアン……あいつが……ごめん。アルが魅力的で世の男が放っておかないってことをすっかり考えてなかったよ……僕はアルのことしか考えてなかったから……」
「バカ……」
本当にバカなんだから……
「こんな僕だけど、一緒に来てくれるかい? アブバイン川の西側に行けば当面は追っ手も来ない。帝国の版図拡大もそろそろ頭打ちだろうし。そこで、一緒に暮らそう!」
レオ……本当にバカね……
私の気も知らないで……
「ごめんなさい……行けないわ……」
炎姫アイリーンの悲しい物語はこちら。
『炎姫と剣奴』
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