少年
僕が牛乳をこぼすと、先生はひどく面倒くさそうな顔をした。わざとじゃないんです、と僕は言った。早く拭けよ、と前に座っている子が言った。僕は雑巾で牛乳を拭いた。惨めな気持ちになり、急に泣きたくなった。僕が牛乳を拭き終わる頃には、みんな給食を食べ終えていた。お前ら、全員しね! と僕は言った。誰も僕の言うことを聞いていなかったので、近くにいた女の子の髪を引っ張った。女の子の髪は掴みやすかった。そんなことを思っていると、頭に強い衝撃が走り、僕はぶっ倒れた。見上げると、先生が僕を見下ろしていた。女の子の泣く声が聞こえて、椅子が引きずられるような音も聞こえた。床が牛乳臭いと思い、これは僕がこぼした牛乳だと思った。
家に帰ると、冷蔵庫の中から魚肉ソーセージを出して、獣のようにそれを食った。テレビをつけると、大人が真面目な顔をして何かを喋っていたが、一体、誰に向かって喋っているのだろう? 僕は魚肉ソーセージを包んでいたビニールをテレビに向かって投げつけた。他にも何か投げたくなりリモコンを掴んだが、リモコンを投げてしまったらテレビが壊れてしまうと思い、元の場所に戻した。冷蔵庫からもう一本魚肉ソーセージを出して、食べた。僕はもう一本くらい魚肉ソーセージを食べていいはずだと思った。
母さんが仕事から帰ってきて、ただいま、と言った。僕は、もっと早く帰ってこいよ、と言った。それから、母さんに何かしてやろうと思い、母さんの顔を見ると、僕は何も言葉が出なくなった。母さんの顔には、誰かに殴られたような痕が残っていた。何があったん? と僕は聞いた。大したことやない、と母さんは言った。僕は、脆い、と思った。僕も母さんも、いつ壊されるかわからない、と思った。なんで、なんで、なんで、と言いながら床を殴り続けた。手は痛かったが、いつまでも殴り続けることができそうだった。母さんは、もう、やめーや、と言った。部屋の明かりがやけに眩しく感じられ、それは僕が泣いているからに違いなかった。明日は木曜日で、また学校に行かなければならなかった。できることなら、いつまでも泣いていたかった。