第二章 緑林檎の騎行 4 Detective Action Story
数日ぶりの投稿です。一話書くのって結構大変ですね……。
以前読んだ新聞記事でなろうのことを取り上げてたんですが、「一話で物語の山を処理する小説が多い」みたいなことが書いてありました。自分全く無視してるな……。
あと、第一章の各話にもサブタイトルを付けたのと、以前の話もちょっとずつ編集してます。内容は大きく変わってませんが。
というわけで、本編をどうぞ!
4
荻野春樹も、暗闇に目が慣れてくるにつれて、こちらをじっと見据える相手が誰なのか分かってきた。
「あ、あなたは……『大河』の紗生桐奈!」
「また会いましたね。荻野春樹くん」
荻野が若さ丸出しで(といっても香川和裕と一歳差でしかないが)相手のことを呼び捨てにするのに対し、紗生という相手の女子は泰然として揺るぐ気配もない。むしろ香川たちの訪問を迷惑がっているようにも捕らえられる。香川和裕は、荻野のようなタイプはやや苦手かもしれないと自覚していた。
紗生桐奈という名には聞き覚えがない。制服から開和学院のようだが、学年が違うのか、あるいは受験組だったのか。
「こんなところで何をしてるんですか。待ち伏せですか?」
「ええそうです。本当は南からくるはずでしたがね」
紗生の低い声が、たいして広くもない通路に響く。
荻野が追っ手だとは聞いていないが、こんな時間にこんなところをグリーンアップルの人間がうろつく理由は一つしかない。
これらの会話から出る結論は、まず、荻野と紗生は以前に顔を合わせたことがあり、あまり関係はよくないということだ。おそらくグリーンアップルがらみだろうが。
そして、紗生はこの地下通路で自分たちを待ち伏せていた。
「あ、あなたの目的は、な、何なんですか? 僕たちを足止めして、どうなるんですか」
どうやら荻野はかなり紗生を怖がっているらしい。過去にどんなことがあったのか、まあ聞くのは後日にしておこう。
「そんなことも分からないのですか? あなたたちが沖野晴美というハッカーを救出するのを防ぐためです。当然でしょう。推測ともいえないような思考もできないとは、グリーンアップルも堕ちたものですね」
「だ、黙れ!」
陳腐なセリフしか吐けないのがお前が凡人だという一番の証明だぞ、と香川和裕は内心で語りかけた。
「お、沖野さんは必ず救出しますよ」
「そうですか。やれるものならやってみなさい」
紗生桐奈の態度は淡々として隙が無い。が、ここまで隙は無くなるものなのか? 確かに相手の胆力は瞠目に値するもので、体力もそこそこありそうだ。
よほど香川たちをはねのける自信があるようだが、体格的にこちらを上回っているわけでもなく、体力も「そこそこ」でしかないだろう。対して、こちらは体力面で劣るといっても六名。多勢に無勢で紗生が押される可能性も大きい。
さらに、その自信と関係あるのかは分からないが、紗生はあっさりと学校が特定できるような制服姿だ。暴力沙汰となったらどうする気だろう。
が、気付いた。
どうやって切り抜けるのか、香川たちは全く打合せしていない。遭遇戦だ。
「どどどどうするの?」
立ち上がった江原がおどおどしながら退いていく。そういうこと大声で言うなよ。
一方の紗生桐奈は、それを見て眉を寄せた。まったく無関係に見えた先ほどの女子も、彼らの一味だったことがはっきりした。ならば手加減はしない。
香川和裕は、地下の風景を見回しながら考えた。
先ほど紗生は、「南からくるはずだった」と言った。ならばお目当ては反対方向の北と考えられる。
「北へ行く」
香川和裕は宣言し、北へ駆け出した。方向感覚は確かなはずだ。南側にいる紗生には背中をさらすこととなる。それを見た第三班の人間や江原も一秒遅れで北の方を向く。
「準備ができていないはずないでしょう」
紗生はつぶやくと、華麗な手つきでポケットから板状の物体を取り出した。その上のボタンを余裕たっぷりで押す。
香川和裕の十メートルほど先の天井から、音を立てて隔壁が降りてきた。香川和裕の慌てようを嘲笑うかのように、ゆっくりと、しかし確実に降りてくる。
「てあっ」
香川和裕は方向転換する。自分たちのいる周辺の壁のそばに、黒い箱のようなものが一定間隔で並んでいた。
それらの中でも一番大きい、アンテナやらレンズやらが大量についた精密機械の並べられたラック。なぜこんなものがあるのかはよく分からないが、とにかく使えることだけは分かった。
「いけぇぇぇ!」
香川和裕は、下に小さな車輪がついて移動可能となっているそのラックを、全身の力を込めて降りてくる壁の方へ押し出した。だが、結構な重みのあるラックは動きが鈍い。香川和裕はラックに寄り添い、常に力を加え続けた。
ラックの高さは一メートル程度。壁は今、床から百五十センチほどまで下がってきている。
「間に合え!」
結果的にラックは間に合った。ラックの一番上の板に乗せてあった、やたらにランプがついた黒い機械と、隔壁がもろにぶつかり合う。一瞬の後、機械は敗退して無残にも隔壁に押しつぶされた。
「ああああああ……じゅ、十万が……」
紗生がえらく落ち込んだ声を上げた。
壁は黒い機械を両断し、ラックの板の部分で止まった。どうやらラック自体には相当な強度があったようだ。
これで、壁の下に六十センチほどの隙間を確保できた。香川和裕は余裕を取り戻し、紗生の方を振り向く。
「ついでに聞くが、この機械はいったい何だったんだ? もうぶっ壊れたが」
「確かにもう使い物にはなりませんね。もう無用の長物ですし言ってもいいでしょう。あれは、カメラで相手の動きを完全把握し、ここに来る『大河』の要員に送信する装置です」
なるほど、確かに壁の支えになったラックの下の段に、レンズらしきものが複数付いている。
「最新鋭の技術ってやつか。じゃあ、さようなら」
香川和裕は大声で答えると、即座に猛ダッシュした。
*
紗生桐奈は、動転した。
(まさか、見抜かれた――)
香川和裕は、南に向かって猛ダッシュしたのである。
(フェイントを見事に外されてしまいました)
(でも、他のメンバーが一瞬遅れている。これは相手の独断の行動です。彼一人で行ってもどうせ誰かに阻まれる。ならば……)
だが、思い直す。
(いや、違う。あの男子こそが相手の頭脳。なら――)
「行かせはしません!」
紗生桐奈は、香川和裕の進路の横に立ち、突進を続ける香川に向けて足を突き出した。
香川は見事に転ぶ……かと思いきや、とっさにジャンプを決め、空中で一回転までして足の向こうに着地する。
「待ちなさい!」
紗生桐奈は唾を飲み込んだ。これで、覚悟は決まった。
「止まれぇぇぇ!」
紗生桐奈は俊足で香川和裕を追い抜くと、その行く手に立ちはだかり、強引に突破しようとする香川ともろに組み合った。
相撲なのかレスリングなのかよく分からない戦いが始まった。
「女性を痛い目には合わせたくない。行かせろ」
「行かせはしません!」
双方、一歩も引かない。
紗生桐奈は女性で、体格的にも劣っていたはずだが、香川和裕の全力での押しをぴったりと阻止し続けている。その体力は並々ならぬものだ。
「荻野! 南へ行け!」
「は、はい!」
荻野が駆け出す。だが、紗生が何かをする気配はない。
香川和裕の右手が紗生桐奈の肩に食い込み、紗生桐奈の右腕は香川和裕の左腕をがっしりと捉えている。双方の首に汗がにじむ。
体力は無尽蔵ではない。二分がたち、双方とも、少し力を緩めた。
「で、できるなら、どうやって私のフェイントを見破ったのか、教えてもらえますか?」
香川和裕は、逆に体力の消費を全く感じさせない能天気な声で答えた。
「ああ、最初に気付いたのは、左右の壁沿いの黒い箱だ。このトンネルは一直線だが、俺が行こうとした方向には左右に一つずつしかない。その先には全く見えない」
紗生桐奈は、脚に力を込めた。この瞬間に素早く後退し、香川を一発殴ってしばらく無力化しようと思ったのだ。が、香川の握力はかなりのもので、肩の手は外れる気配もない。それどころか逆に右腕も握られ、動きを封じられた。ただただ香川の親指が食い込むばかりだ。
香川和裕はそんなことは全く気にしていないかのように、説明を続ける。
「一方、そちら側はどうだ。結構遠くのほうまで黒い箱が続いている。あの黒い箱は、もうあの隔壁に潰されたラックにも載ってた。
カメラで撮影して動きを送信する装置だそうだが、確かにお前の周り計四つの黒い箱は、いくつかの機械がラックに乗せられた形だ。つまり、カメラ付きだ。だが、それよりさらに南側の機械は、小さな箱だけだ。つまり、通信装置だな」
「……お前、名前は何というのです?」
香川和裕は、ここで初めて笑みを見せた。それはごく小さなものだったが、確かに笑みだった。
「言うと思うか?」
香川ちょっとかっこいい




