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ラグナロクの行動計画  作者: 碧海ラント
序曲と出演者の登場
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第一章 序曲と出演者の登場 2 The Beginning of the Incident

 その少年は、エドモント・ベゾリスといった。学校ではごく普通の中学生として扱われていたが、IT業界で高い地位にある人からはしばしばベゾリスという姓に興味を持たれる。ナイルの社長はジェームズ・ベゾリスといい、彼はその従弟の子にあたるのだ。

 ナイル社は伝統的な家族経営の会社ではなかったが、彼の父親はナイル・ジャパンの高い地位についている。

 エドモント・ベゾリスは日本の私立中学校に在籍している。開和学院中学校に。

 彼は視界に藤堂湊を認め、軽くその形の良い手を挙げた。顔も秀麗であり、まず一級と言っていいだろう。髪はくすんだ金色で、光を受けて軽く光っている。阿部のような教師には染めたのかと疑われたが、何分にも外国人であるし、「地毛証明書」なるものを父親が提出したのでことは収まった。

「よお、ベゾリス。彼女できたかあ?」

「きのうまでいなかったのに今日いきなりできるわけがないだろう」

「彼は?」

 香川和裕とエドモント・ベゾリスは同じ小学校を出たはずだが、小学校の間は面識がなかった。

「ああ、こいつが香川和裕だぜ」

「確か中学受験をしたと聞いた。どこの中学校だったっけ?」

 その問いに香川和裕が答える前に、後ろのほうで騒ぎが起こった。

「なんだなんだあ? ゴジラでも降ってきたのか」

 藤堂湊がいつもの大きな声で問う。

「違うよ! 誰かの端末が落ちてたんだって」

 人の輪の中にいる女子が言う。

「へえ。校内で端末使うのは禁止するって阿部が言ってたぜ」

 藤堂湊はわざと教師を名指しした。

「カバンからずり落ちたんじゃない?」

「そんならなんでそんなに騒ぐんだ? 落とし物に届け出りゃいいだろ」

「あのねえ、『端末落としただけですが』っていう映画知らない?」

「いやいや、そんなんじゃないよ」

 と、ほかの男子が口をはさんだ。

「届け出て、持ち主が分かったとしても阿部の奴が黙っちゃいないだろ。なんで落ちてるのか、校内で使ってたんじゃないのか、とか怒鳴って持ち主が泣くのがおちだぜ。なんせ、生徒はみんな家でも端末を使うなって主張してる阿部のことだからな」

なるほどねえ、と藤堂湊や香川和裕は納得した。

「しかし届け出るしかないんじゃないか? 特に手掛かりもないみたいだし、そうなると校内全体のことなんかわからないだろ」

 香川和裕が言う。人だかりは増えつつあり、その中に梶原涼子も含まれていた。

「うーん……」

 その時、端末を持っていた女子が高い声を上げた。

「あ、入った!」

パスワードがわかり、ログインできたということである。普通はそんなことはないので、偶然という力が作用したのだろう。

 ちなみに、指紋認証や顔認証が普及しているが、この端末のログイン画面はなぜか伝統的なパスワード方式だった。

 一瞬、意味不明なアプリが開いていたが、適当にボタンを押したら閉じた。そして、どこから見たらいいのかと思って、彼女はとりあえずフォルダーを開けた。

 そこまでは日常の範囲内であった。誰かが端末を忘れた。ドジな奴だな。誰のか分からない。いじっていたら偶然ログインできた。よくわからなくてフォルダーを開ける。

 ここから非日常が始まった。

「え? 警告?」

 警告メッセージが浮かんだのではない。そこに入っていた文書の題名が「警告」なのである。端末をいじっている女子、江原希は、ためらいもなくそのファイルを開いた。ほわほわしていて時々ドジなところがある女子生徒だ。

 開いてしまった。

「この文書を読む人へ。私は、殺されるかどうかわかりませんが、もう世間へ戻ってこれないかもしれません。だから文書の形で私からの重大な警告を残しておきます。

 結論から言うと、ナイル社は世界の実権を握りたいと思っています。私はそれを阻止しようと頑張りましたが、これまであまり効果はありませんでした。そして、私に彼らの魔の手が迫っています。

 あれほどの大企業が世界支配を望むのは不思議ではない、という方もおられると思います。ですが、権力欲とかのレベルではありません。何かもっと大きな理由が潜んでいるように思われます。私はナイルの手先によって監禁されます。奴らは巧妙に証拠を隠滅し、さらに金銭面からも警察などに働きかけて事態をうやむやにしてしまうでしょう。

 これを読んだ人にも災いが降りかかるかもしれません。ですが、事実を書き留めておいて、少しでもナイルの横暴に歯止めがかかれば……」

「君たち、大勢集まって、何があったのかね?」

 江原希が文書を読み上げる声は、中断された。人のよさそうな顔をした教員が不思議そうな表情をたたえて立っている。緊張感と同時に満足感――非日常を体感したことへの――を顔に塗りこめた周りの人々も、一旦、意識を教員に向けた。

「誰?」

「ここの教員で、倉田っつーの」

和裕に湊が答える。

 一方、倉田の問いに対して、江原希はあいまいな表情で答えた。他人の端末を勝手に見たという後ろめたさもあり、答えの内容もあいまいになった。

「ああ、先生、ちょっと、端末が落ちていたので」

 前半は単語ごとに音が切れてしまっている。

「そうか。それなら先生が、持ち主を探しておこう」

 阿部と違い、倉田は愛嬌のある、面白い先生だったから、生徒からもよく信頼されていた。その倉田が、人のいい顔で、人のいい申し出をしたので、江原希も断り切れなかった。素早くフォルダーを閉じると、両手で端末を先生に渡した。

「じゃあ、文化祭を楽しんでね」

 そういって生徒たちに手を振り、倉田は職員室のほうへ向かっていった。

 情報公開がなされていないとか、指導が不可解だとか厳しすぎるとか、しばしば悪評の立つ開和学院だが、こんな先生もいるんだな、と香川和裕は思った。香川和裕でさえ思った。


 倉田は、職員室を素通りし、その裏手で人影に端末を渡していた。

 相手の雰囲気に完全に飲み込まれ、ただ冷や汗をかくだけの倉田に、そのエグゼクティブ風の人間が答える。

「ご苦労。これからも協力を」

 胸元の文字が妖しげに光った。



 香川和裕は、湊とともにうろうろしていたが、意識はともすれば「警告」に向きがちだった。そもそもあまり見るものがなく、午後の演劇が始まるまではぶらぶらしているしかないのである。

「あの警告って何なんだ?」

「よく分からんっていえばよく分からんし、当たり前っていえば当たり前だな。ナイルが世界制覇をたくらむとか、今時誰でも知ってんじゃねーの? コーゼンの秘密ってやつだな」

「うーん……」

「てか、あの端末落とした奴は校内にいたわけだよな。ってことは、もしかしたらあれの持ち主はここの学生かもしれないぜ」

「うーん、行方不明になった学生、ねえ」

 太陽の前を雲が悠々と流れ去っていく。昼前の、穏やかな太陽である。その光が雲にさえぎられ、一時的に弱くなったように、和裕の心にも疑念が残った。

「そんなことで悩んでもしょうがねえぞ。書きかけの小説だったかもしれないし。昼飯に何食うかを早く決めようぜ」

 結局二人は、売店でおにぎりやホットドックなどを買い込み、店内が満席だったので、立ったままそれをかきこんだ。

一話のあとがきで変なこと書いたけど、一話だけだと分からなさすぎる。

なので、追加で二話も投稿。しかしまだ分からない。なので三話まで一気に上げます。

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