第二章 緑林檎の騎行 5 Two Fronts and Defeat
これで第二章は終わり――の予定が、ちょっと延長して次の話まで続くことになりました。
今回は紗生さんが……。
ちょっと欲を言うと、PV数伸びないー。あと、読者の皆様がどう思っておられるのか分からないので、できればアカウントある方は評価・感想等いただけると嬉しいです。
それでは、本編をどうぞ!
5
荻野春樹たちは、一生懸命地下通路を走っていた。急いで相手の本拠へ向かい、沖野晴美を助け出さねばならない。
「急ぐぞ!」
コンクリートの荒々しい肌がむき出しになっている壁は変わらない。が、走っていくうちに、だんだんと段ボールやラックなどが増えてきた。それらの中には蓋が開いたままで、中のよく分からない黒い機器がはっきり見て取れるものもある。
荻野春樹は、目的地が近いことを確信した。
だんだんと明るくなっていく。壁に据え付けてある不健康な色の蛍光灯に加えて、安っぽいが強力なLED電灯などが床に置いてあるからだ。
「あと少しだ!」
だが、彼らはその地点で立ち止まらねばならなかったのである。
「待て! あんたらはグリーンアップルの奴だな。なぜそう急いでこちらへ来る? 答えろ!」
南側から複数の人間が現れた。人数は荻野たちと同じ五人。さらに全員若いところを見ると、「大河」の学生部隊だろう。立場的には対等だ。
ただし立場が戦力に直結するのではない。荻野たちは中学一年生が四名、中学二年生が一名。それに対して相手は、少なくとも二人は確実に高校生だろう。かなり不利だ。
「沖野晴美さんを、取り返しに来た!」
荻野春樹は、堂々と名乗った。ほとんど考えることなく。
「沖野晴美、か。なら通すわけにはいかん。力ずくで来るんだな。責任は双方自分で取るってことでな」
相手はどうやら沖野晴美を知っているらしかった。何かの任務で巡り合ったのか。リーダー格の高校生が、こちらもほとんど考えることなく、堂々と名乗りを上げる。
「『大河』第二行動班がお相手してやるぜぇぇ!」
瞬間、五人が一気に襲い掛かった。
荻野春樹一人をめがけて。
「うごあっ!」
ぼきっと胸から音が出ることはなかった。相手は力の加減というものを知っているらしい。
だが、右腕はひねり上げられ、千切れてしまうのではないかと思うほど強く引っ張られている。左腕は相手の足に踏まれ、動きを封じられている。足をバタバタ動かすが、無理に体勢を変えてもかえって腕をさらに痛める結果となった。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」
悲鳴を抑えることさえもはやできなかった。
視界には相手の足が映っているが、もはやそれを認識することはできない。痛みでゆがんだ聴覚を相手の声が刺激する。
「ふん、グリーンアップルの行動部隊といえどもこの程度か。堕ちたものだな」
「ひ、卑怯よ! 五人で一人に襲い掛かるなんて!」
コーデリア・シエルが髪を振り乱して叫ぶ。相手のリーダーは彼女を見据えると、真顔で言った。どこかこの場所を超越したところにいるかのような表情だった。
「嘘つけ。お前ら合計すれば五人いただろ。お前らが動かなかっただけじゃないか」
「そ、それは……」
「ふん、お前ら全員軟弱な温室育ちどもだってことだ。だから管理が必然だってことも理解できないのさ。まあ俺たちのとこにもなにも理解せずに入ってくるような奴はいるがな」
第三班の人間は、彼の砂漠地帯の太陽のようなオーラに押されたかのように、じりじりと後退していく。ややひんやりしている地下通路において、その場所だけ温度が上がったかのように感じられた。
江原希が前へ進み出る。
「あたしはグリーンアップルの人間でも何でもない。でも!」
江原希は、きっぱりと顔を上げた。
「でも、沖野先輩を誘拐するのはいくらなんでも間違ってる! あなたたちの主張がどうであれ、この点だけは認めざるを得ないわ!」
さすがに相手はたじろぐかと思ったが、逆に相手は不敵な笑みを浮かべて胸を張った。
「ふん、どうだかな。お前ら、ドアを閉めるぞ!」
そう言うと、いきなり相手は体の向きを百八十度変え、奥の方へダッシュで駆け込んだ。第三班は、リーダー格の荻野が床に這いつくばったままなので、動くに動けなかった。
*
現在の状況を整理すると、グリーンアップル側は沖野晴美の奪還を目指し、相手はそれを防ぐことを目的としている。沖野晴美はこの通路の先にいるようで、荻野は今そちら側へ向かった。
「…………」
本来なら女子と抱き合うのは非常に嬉しい、その場で飛び跳ねながら歓喜の歌を歌ってもいいほどのことなのだが。
そして相手も、たぐいまれな美貌といってもいい紗生なのだが。
「…………」
紗生がこっちを睨んでくる。その頬が微妙に赤くなっているのを見ると、やっぱり女子として男子と抱擁のようなものをするのは恥ずかしいのだろうか。
香川和裕は、相手に気付かれないようにため息をついた。
この時、紗生と香川は同時に同じことを考えた。
この気まずい状況何とかならない?
そして、この願いをかなえたのは、紗生でも香川でもない。小さな緑のランプと、誰であろうと変更できない存在、時の流れがこの状況を変えたのである。
変化は唐突に訪れた。
紗生の顔にうっすらと笑みが浮かんだ。それは、あたかも時間の誕生、つまり宇宙の誕生時のように一気に顔じゅうに広がり――
それに反応したのはなぜか足だった。
「うごあっ?」
香川はまず衝撃を味わった。割と強靭な香川の体はそれだけでは倒れない。が。
一瞬遅れて、鈍い痛みが下腹部を猛烈に吹き荒れた。
「うぎええええ」
股間を思い切り蹴り上げられた香川はとうとう倒れた。
「い、痛いことするなあ……え?」
紗生の顔を正面から捉えた瞬間、香川の顔に乾いた笑みが張り付いた。
「や、ヤンデレモード?」
紗生桐奈のダークなにやにやが炸裂していた。炸裂するごとに周りにブラックオーラをまき散らす。
「へっ、やっと抱き合わずに済む。おいお前! 私のことをさんざん触ってきたお仕置き、ここで済まそうじゃないか」
高級そうな革靴に収まった紗生の足が、ゆっくりと香川和裕の腰に置かれた。
「い、いやいや、触っただなんて。俺は紳士に、仕方なく、あなたの体が動かないようにしていただけで……」
「嘘つけ! 私が腕動かしたときわざと抵抗しないで胸もろに触っただろ」
「…………」
「このエロが!」
紗生が足を一瞬持ち上げ、思い切り香川の腰めがけて振り下ろす。が。
「?」
香川が突如として起き上がり、上半身全体を使って紗生の足を抱きかかえるようにした。
「ちょ、ちょ、ちょっと、あわわわわわわわわわわわわわ」
香川はそのまま、一本背負い投げの足バージョンの要領で紗生を床にのしてしまった。
「へっ?」
紗生はヤンデレモードから脱出し、この奇妙な体位に当惑した。
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