精霊の主・エルフィニア
――その夜のこと。
「……目覚めなさい。目覚めなさい。新たな勇者・広岡勇よ」
聞きなじみのない声に呼ばれた気がした俺は、ゆっくりと瞼を開けた。
目の前に広がるのは、雲の中にいるような白い靄に囲まれた幻想的な光景。その中心で俺の体は、フワフワと浮いているようだった。
あまりにも現実離れした状況。おかげですぐにピンときた。
(あー、こりゃ夢だな)
「それならそれで、かまいません」
さっきと同じ声。その声が聞こえた方向を向くと、靄の向こうから神々しいオーラを纏い、エメラルド色の長髪を生やした20代後半ぐらいの女が現れた。芸術品のような端整な顔立ちに白い肌。息を呑むほど美しいこの女性が、どうやら声の主らしい。
「あんたは?」
「私は精霊の主・エルフィニア。この世界を見守り続けてきた全知全能の存在であり、生きとし生ける精霊達の長。あなた達の世界で言うところの神様です」
マジか。序盤に神様みたいな存在が登場とか、異世界転生系にありがちな展開じゃねぇか。
そんなファンタジー展開と夢の中ってのもあってか、俺は自分のことを『全知全能』と軽々しくほざくこいつをすぐには信用できなかった。だって――
「『だって、ただの精霊が全知全能の力を持ってるはずがない』ですか?」
そう言い当てられて、俺はドキッとした。
「私には少しですが読心能力もありますので、これぐらい容易いことです。それに、あなたやあなたがいた世界のこともよく知っています」
「知ってるって、どれくらい?」
「全てです。あなたの世界が何度も戦乱を経験したことも、それによって並行世界との往来が盛んなことも、太古の昔から異種族と共存していたことも、全て。私が精霊と名乗っても、あなたが何一つ驚かなかったのは、幼い頃からそういった存在と親交があったからなのではないですか? 西暦2160年の東京から来た広岡勇さん」
エルフィニアが言ったことは、全部当たっていた。
確かに俺が生まれた世界は第1の世界って呼ばれていて、並行世界と深い関わりがあるし、俺がガキの頃、同じクラスに1人か2人ぐらい異種族やそのハーフなんかがいた。
ってか、そう考えると、俺が今まで当たり前に過ごしていた世界も、十分ファンタジー色が強かったんだな。もしかすると文明レベルに差があるぐらいで、こことそんなに変わんねぇのかも。
なんにしても、全知全能を自称するだけはあるって訳か。おかげで信憑性は増したよ。