闘技場での屈辱
大会出場者の大半は、必ずと言っていいほど、どこかのギルドに所属しており、定期的に依頼をこなしている。そのため、否が応でも自然と体は鍛えられており、歩合制とはいえちゃんとした報酬もある分、栄養管理もしやすい。
対してスラム出身のマオは、どこのギルドも受け入れてくれないため、我流で自身を鍛えるしかない。効率も悪かっただろうし、報酬なんてもちろん無いから、栄養管理もロクにできない。
結果、万全の準備を整えたつもりで挑んだ2年後の大会で、マオは予選すら突破することができず、衆人環視の中、対戦相手らに辱められて幕を閉じた。
スラムの女ということもあり、観客達は分不相応とせせら笑う。中にはその悲惨な現場を楽しんでいる者さえいる。
その横で、愛しい人が嬲られ、蹂躙されていく様をただただ見ていることしかできなかったドンカカは、愛する人すらこの手で守れない不甲斐なさからグッと下唇を噛みしめた。
すると隣から、
「ムカつくよな? あいつら」
と、不意に声をかけられた。
思わぬ共感の声に驚き、振り向くと、そこにはドンカカと同い年ぐらいの強面の青年がいた。
「あれ、あんたのオンナなんだろ? 目を見りゃわかるよ。こいつらも、守れなかった自分もぶん殴りてぇって顔してる」
男の名はゴルドー・マックスウェル。ギルディアの中心街で生まれ、名門ギルドにも所属しているが、根っからの自由人で、スラムに対する偏見などもなく、誰に対しても分け隔てなく接していることから、変人としてギルディアでは有名な人物だ。
そんな変わり者の口から出たのは、予想に反し、至極真っ当なことだった。
「俺達の先祖は、生まれ育った国の支配とかしがらみとかに嫌気が差したから、自由と平等を求めて、未開だったこの大陸を開拓し、ギルドを立ち上げたはずだ。なのに今はどうだ? スラムなんてもんができちまって、それを差別することが当たり前になっちまってる。これじゃ、なんのために国を捨てて、自分達の国を作ったのかわかったもんじゃねぇ。こんなのは間違ってる。誰かがこの歪みを正さなきゃならねぇんだ」
そう言うと、ゴルドーはドンカカの肩にポンと手を置き、
「長々とすまなかったな。要は、あの女のことを大切に想ってんなら、あんたが抱いたその気持ちをぜってぇに忘れんなってことだ。愛情を胸に、悔しさをバネにして、どんな奴からもてめぇの女を守れる男になれ。いいな?」
とだけ言い残して、去って行った。
ゴルドーが何故、ドンカカにこんな話をしたのか。それは後に起こる大事の前に、自分に言い聞かせて鼓舞するためだったと後に明かされたそうなんだが、その話については、また別の機会に。
話は戻すが、初対面の男からのエールなど、普通なら他人のお節介と思い、聞き流してもおかしくない。けれど、その言葉で絶望に沈んだ心を奮い立つことができたドンカカは、確固たる決意を固めた。
それから3日後、ドンカカは敗戦と凌辱で心が折れかかったマオを鼓舞するついでに、プロポーズをして結婚。より経済的にサポートできるようにと、団員を募り、盗賊団を結成した。




