色々と残念
この世界・ラグナヴェルトは誕生から何千年もの間、魔王と呼ばれる存在からの恐怖に晒され続けている。
魔王は、絶大な力と支配力を持っており、奴の身勝手かつ度重なる侵攻によって、みんな見えない明日に不安を感じている。中には心が荒みきって、犯罪に手を染める輩もいるそうだ。
そんな民衆の希望の光として現れるのが、勇者だ。
勇者はみんな、俺と同じこの世界に突然召喚された奴らばっかりで、だからこそ、共通しているところが複数ある。
その1つが、先代勇者を始めとする数名に見られた名字と名前の構成。つまり、俺と同じ日本人も勇者として召喚されたケースがあったってことだ。
(てことは、日本以外の人がいても……だとしたら、かなりの数の人間が、こっちに召喚されたことになるぞ)
「荒唐無稽な話だとは思うが、理解してくれたか?」
「それは、まぁ……要は、魔王を討てばいい話ですよね? なら、任せてください。やらなきゃ帰れないでしょうし、勇者の剣さえあれば、なんとかなるでしょ」
この時俺は、周回プレイのRPGの何周目かをプレイするぐらい、気楽に考えていた。
スライム相手とはいえ、実践経験は積んだし、何より、勇者の剣というからには、さぞかし素晴らしいスキルを持っているに違いない。そう楽観していたからだ。
けど、そんな俺の幻想は、王様の言葉によって即座に粉砕された。
「それがそうとも言い切れんのじゃ」
「へ?」
「勇者の剣は、使用者が数多の戦いを経験しないと、真の切れ味を取り戻さないと言い伝えられておるのじゃ。事実、剣の力を引き出すことができなかった勇者が、命を落とした事例が多々ある」
(えー。それってつまり、経験値を積んでレベルアップしないと、武器の性能も上がらねぇってことじゃねぇか)
俺はとんだ物を掴まされたと、落胆した。
「そう気を落とすでない。わしらもできる限りのことをするつもりじゃ。そうじゃな……手始めに大臣よ。この者に例の物を」
「かしこまりました」
そう言うと、大臣は一旦席を離れ、片手で持てるサイズの布袋を手に戻ってきた。
「少し少ないが、旅の資金と薬草じゃ。持っていくがよい」
いくら『少ない』っつっても、それなりの額が入ってるはず。国王の気前の良さに俺は期待したが、受け取った袋が妙に軽いことに違和感を感じる。
開けてみると、中には金貨5枚と薬草が3株だけでしか入ってなかった。
(……あんまり贅沢言える立場じゃないし、国家予算をやりくりして捻出した金だろうとは思うけど……もうちょっとくれても、バチ当たらなくね?)
あまりのしょぼさに、俺は勇者らしからぬ不満を抱き、クレームを口にしかけた。が、
「わしらにできるのはここまでじゃ。頼む。どうか、この世界を救ってくれ。魔王の再臨から数百年。そなたが奴の野望に終止符を打ってくれることを信じておるぞ」
なんて一国の王に頭を下げて頼まれちゃ、言えるもんも言えねぇよ。
結局、資金の上乗せを断念した俺は渋々了解し、王様達の期待を背に受けながら、ラーサーと一緒に謁見の間を後にした。
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