突入前に
約1時間後。俺達の視線の先に、如何にもな感じで聳え立つ石造りの塔が見えてきた。他に建物がないところをみると、あれが目的地で間違いないようだ。
(にしても……無駄に高ぇな。馬鹿と煙は高いところへ上るとはいうが、それを地で行くとはな。あいつ、本物のバカか?)
っと、言ってる場合じゃねぇな。魔王討伐のためにも、さっさと鞄を取り返して、あいつとの決着をつけねぇと。いくら、バシレイアでの因縁があるからって、ここで手間取るわけには……
ん? 待てよ? そういや、あいつ……
「どうしました? 勇さん」
「ん? あぁ。いや、今更どうでもいいんだけど。なんであいつら、バシレイアに来てたんだろう? わざわざ王都に遠出なんかしなくても、こっちならいくらでも稼ぎようはあったはずだろ」
「ですね。言われてみれば、確かに不可解です。窃盗目的なら、私を人身売買にかける理由もないですし」
「だよな。お前を連れ回して王都で取引なんざ、それこそ面倒だし、捕まるリスクも高ぇ」
だとしたら、なんで奴はそんなことを……
(って、考えてても始まらねぇか。答えはあいつをボコボコにしてから直接聞くとしよう)
そう思い、気持ちを切り替えた俺は、まーちゃんと一緒に自分の装備を確認した。
防具のダメージは軽微。得物も問題なし。
んでもって、まーちゃんがネックレスとして首からかけているあの宝石も、相変わらず青と黄色の神秘的かつ美しい光を放っている。
よし。万事オッケーだな。んじゃ、乗り込むとしますか!
…………ん? 宝石?
「って、ちょっと待て!」
「わっ! どうしたんですか? 勇さん。そんな大きな声を出して」
「おい。まーちゃん。なんでそれを持ってんだ? 荷物と一緒に取られたはずじゃ……」
そう尋ねると、まーちゃんは言いそびれていたことを詫びてから、その理由を話してくれた。
今から3時間前。騙されて買った物とはいえ、手に入れた装備品に罪は無いと思ったまーちゃんは、自身で装備するか転売目的で、下船時間ギリギリまでそれを磨いていたらしい。
で、新品同然になるまでピカピカになったところで、俺に見せようとしていたのだが、とっくに下船口に向かっていることを船員から聞かされて慌てたまーちゃんは、自分の首に宝石をかけて、リュックを背に下船したそうだ。
なるほどな。それで難を逃れたってわけか。今まで気付かなかったのは、服の下に隠すように身に着けていたからか。
まぁ、いずれにしても、目の前に宝石があったってのに、手を出さなかったドンカカ一味は、相当な間抜けか、価値が無いとわかってて敢えて出さなかったか。そのどっちかだ。
前者なら敵として有難いが、後者ならかなり厄介だぞ。
「あの……やっぱり、外した方がいいですか?」
1人考え事をする俺を見て、あまり快く思っていないと思ったのか、まーちゃんはネックレスに手をかけ、そう聞いてきた。
俺としちゃどっちでもいいが、あんだけピカピカにして俺に見せたかったってことは……多分、そういうことなんだろう。
「いや、いいよ。どうせ装備したところで、大した効果も無い石っころだろうけど、まーちゃんが気に入ったんなら、遠慮せず好きなだけ着けてりゃいいよ」
そう言って頭を撫でると、まーちゃんは嬉しそうな顔をして礼を述べてから、また服の下に戻した。
幸運と財を呼び込む宝石、ねぇ……流石にそれは言い過ぎな気はするが、仲間の笑顔を呼び込む力はあったようだ。
とりあえず、災いが我が身に降りかかるまでは、そう思っておくことにしよう。




