剣に見放された勇者
確かな手応えを感じた俺は、奴に背を向け、脇差を鞘に納めようとしていたまさにその時、
「勇者様! 後ろ!」
油断しきっていた俺に向けられたまーちゃんからの注意喚起に振り返るも、反応が遅れ、再び軟体動物の足にぶん殴られた。
訳がわからず、改めて奴の状態を確認すると、奴は茹で蛸どころか、眉間に浅い×字傷がついただけで、全くの軽症。俺の渾身の一撃はさして効いていなかった。
「嘘だろ? おい……あれでもダメなのかよ」
いったい何故? 初めこそ、理由がわからなかったが、わかってしまえば単純なことだった。
RPGには属性耐性というものが存在する。火は氷に強く、水に弱いっていうあれだ。草の化け物の時は、そのおかげで勝てたようなもんだった。
じゃあもし、相手が水属性だったら? 皆まで言わなくてもわかるだろう。【モード・フレイムタン】や【フレイムクロス】はその力を発揮できず、ただの斬撃と化してしまう。
(つーことは、是が非でもこいつに有効な属性、雷属性の技をこの場で編み出さなきゃならねぇってわけか)
危機感を覚えつつも、俺はこの状況を打開するために、勇者の剣に意識を集中した。
(大丈夫。あいつとの戦いでコツは掴んだ。あとは俺のイメージとレベル次第だ)
そう自分に言い聞かせて、心の中で念じた。頼む。応えてくれ。奇跡よ起きてくれ。と、懸命に……
しかし、勇者の剣はピクリとも反応しない。奇跡を否定する形で、俺がまだその域に達していないという事実を無情にも突きつけてきたんだ。
(じゃあ氷は!? 地は……!?)
他も試してみたが、結果は全て同じ。今のところ、俺はまだ火しか使えないらしい。
光や闇はまだ早いとは思ってたけど、属性1つ覚えんのが、こんなに難しいこととは思わなかった。
勇者の剣に頼れない。となると、頼れるのはあいつしかない。
「……まーちゃん。電気系のアイテムを作ることはできるか?」
ダメ元で俺がそう尋ねると、まーちゃんは無念そうな顔をして、首を横に振った。
「ごめんなさい。素材が無いので、どうすることも……」
最早為す術なし。予想していたとはいえ、絶望的な状況にショックを受ける俺。
すると、クラーケンは更なる追い打ちをかけるべく、俺を柵まで払い飛ばし、容赦なくタコ殴りにしてきた。
防御しても防ぎきれず、激突のせいか、それとも攻撃のせいかはわからないが、体から何かが折れる音がし、激痛が走る。
(ヤベぇ……これ、骨いってるかも……)
骨折なんて初めてしたから、はっきりとは言い切れねぇが、少なくとも腕やあばらは折れてるかもしれない。
それでも殴られ続け、だんだんと意識が遠のいていく中で、俺の脳裏に浮かんでいたのは、ゲームオーバーの7文字。
復活の呪文もオートセーブもないこの世界でもしそうなったら、どうなるんだろう? 死ぬのは怖いけど、その結果帰れるんなら、それもアリかも…………
クラーケンのステータス
HP……420
MP……105
物理攻撃力……83
物理防御力……60
魔法攻撃力……74
魔法防御力……37
素早さ……25
命中……42
運……10
・特技……【横薙ぎ】 【叩きつけ】 【締めつけ】 【蛸殴り】 【蛸墨】
・パッシブスキル……【炎耐性Lv9】




