決意と覚悟
今から10年前。その日、当時12歳だったロッティとケン。それと、6歳だったプリスが生まれ育ったインペリア大陸の南西に位置する辺鄙な村・リヘルトに、魔王の軍勢が襲来し、村人達の命と彼女の幸せを蹂躙した。
ロッティが今でも鮮明に覚えているのは、その魔王が男で、心まで凍てついてしまいそうなほどの寒気を発していたこと。
あれが恐怖や殺気によるものなのか、はたまた奴の力なのか。それは定かではないが、いずれにしても、無力な子供が太刀打ちできる相手ではない。ロッティ達3人は、目の前の悪夢に愕然とし、恐怖で身動きすらとれなかった。
そこを運悪く、魔王と配下にみつかってしまい、危うく自分も命を落としかけたが、間一髪のところでエルフィニアが助けにきたことで、事なきを得た。
とはいえ、故郷はもう影も形も無い。
ロッティは、帰る家も親も友も平穏も何もかも失い、悲しみと憎悪に心を染めていった。1歩間違えれば、復讐の鬼と化しかねない。それほどまでに。
そうならなかったのは、エルフィニアが示した道が、彼女の復讐を光に変えたからだ。
「あなたには素質がある。勇者になる素質が。この世界の人間としてはとても希有で、まだ小さな芽だけど、確かに芽吹いている。その素質を活かし、勇者となって魔王を討ちなさい」
エルフィニアからの啓示を聞き入れたロッティは、自らを鍛えるためにケンと一緒に帝都の騎士学校に入学し、その2年後には、プリスも帝都の修道院に見習いとして入った。
インペリアはバシレイアと違い、予てから異世界の人間に頼りっぱなしの現状に歯痒く感じており、ラグナヴェルトの人間だけの力で魔王を討伐できないかと常々考えていた。
そんな折、騎士学校で勇者の素質を開花させ、優秀な成績を修めていくロッティが頭角を現したことで、帝国中が彼女に期待を寄せた。
予想以上の注目度の高さに、最初は戸惑いを見せたロッティだったが、それだけ自分のことを信頼してくれてる人がいると思い、その想いに応えられるように、日々精進していった。
それから時が経ち、2年前のラグナ暦7596年ルムーンの28日。約8年在籍していた騎士学校を首席で卒業したロッティは、皇帝から魔王討伐を命が下ったことで、正式に勇者となった。
危険を伴う旅なのは、百も承知。それでもロッティは、皇帝の推薦で後から加わった同じリヘルト出身のメイ爺も含めた仲間達と共に、旅に出る。
故郷リヘルトを焼いた元凶、魔王をこの手で討つという確固たる決意と勇者としての覚悟を胸に…………
「……それから、ずっと旅を?」
「うん。伝説の装備を求めて、人助けや魔物退治をしながらね」
「伝説の装備?」
そう聞き返すと、ロッティは驚いた顔をした。
「エルフィニア様から聞いてないの? 歴代の勇者が使っていた伝説の装備が、この世界のどこかにあるらしいんだけど」
「いや、全く」
あのクソ精霊め。どんだけ贔屓すりゃ気が済むんだ。
そう思い、フツフツと怒りを感じている内に、俺はあることに気付いた。
「あ。もしかして、お前がバシレイアに来たのって……」
「うん。伝説の装備の1つ・勇者の剣がバシレイアにあるって聞いたから。でも、行ってみたらもう無くて、仕方ないから、転移魔法で一旦港に戻って、もう1度ギルディアで情報を集めることにしたんだ」
やっぱか。まぁ、こればっかりは早いもん勝ちみたいなとこがあるし、しゃあないよな。
……いや、果たしてそうなのか? 勇者として2年先輩の分、こいつの方が勇者としてのレベルは俺より遥かに高いだろうし、決意も覚悟も、ただ元の世界に帰りたいだけの成り行き勇者の俺とは、天地の差だ。だとしたら……
ルムーンはこっちの世界で言うところの3月です。




