勇者になるための試練
間近で見た勇者の剣は、幾多の戦いを切り抜けてきたとは思えないほど綺麗な刀身を保ったまま、地面に突き刺さっており、龍と光をモチーフにしたような見事な装飾が鍔にあしらわれている。
その堂々たる姿は、公園には似つかわしくないほど立派かつ威厳に満ちており、まるでそこだけが別次元にあるようだった。
おそらく、何人もの人が勇者を夢見て引き抜こうとし、為し得なかった剣の試練。それに今から俺も挑もうとしているんだ。
俺の顔やお世辞にも屈強とは言えない体つきを見た野次馬からは、嘲笑や心にもない応援が聞こえてくるが、そんなことはどうでもいい。
(ダメ元なのは、俺だってわかってるよ。それでもやんのが、勇者だろうが。見てろよてめぇら。俺の勇姿を!)
俺は心の中でそう言って、己を奮い立たせると、柄を握ろうと勇者の剣に触れた。
本当にたったそれだけ。なのに勇者の剣は傾き、
カシャーン! カタカタカタ…………
と、金属音を立てて、ひとりでに倒れた。
(え? もしかして……抜けた?)
そう思ってしまうほど、あまりにも呆気ない抜け方に、半信半疑になった俺は、野次馬の方に目をやった。どうやらラーサー達も同じらしく、みんな黙ってしまうほど仰天している。
いやいや、信じらんねぇのは俺の方だっつーの! 俺、指先でチョンって触れただけだぞ? なのにそんな簡単に抜けるか? どこぞのテレビ局が作った予算の少ない冒険活劇並にヒドい抜け方だぞ? これ!
さてはやる前から抜けてて、俺をからかうために仕掛けたドッキリだな? そう勘ぐった俺は、前に挑戦した奴に抜けた剣を手渡してみた。
が、持った瞬間、異常な重量が手にかかったらしく、そいつは剣を落としてしまった。どうやら、剣に認められた奴しか持つことができないらしい。
てなると必然的に、俺が勇者ってことになる。そうだとわかった途端、野次馬達は手の平を返したように、口々に俺を讃えだした。
「うおー! マジかーっ!」
「やるな! あんちゃん!」
「勇者様の誕生だー!」
拍手喝采で祝われた俺だったが、慣れないシチュエーションに困惑し、ラーサーに助けを求める。
「なぁ、これ、どうしたらいい?」
「どうするも何も……まずは城に向かい、国王陛下に報告しましょう。話はそれからです」
「だ、だよなー。じゃあ、すまねぇけど、案内頼むわ」
そう頼んだ後、俺はラーサーに連れられ、王様が首を長くして待ってるであろう城へ向かった。
てな訳で、勇者の剣をいとも簡単に引き抜いた俺は、晴れて勇者になった。
犯罪を犯さずに済んだのはよかったけど、まさか本当に勇者になるなんてなぁ……そんな大役、はたして俺に務まんのかな――――――?