勇者が旅立つ時。それは……
それから10日後。船での滞在にすっかり慣れた俺は、甲板で釣りをしていた。
ちなみに道具は、船員からいらなくなった竹の棒を貰い、そこにまーちゃんから貰った糸と針をつけた急造かつ粗末な作りだ。
だからなのか、釣果が思ったより芳しくねぇ。
ポルトギルドに到着するまであと4日。それまでにある程度食料を確保しとかねぇと、ギルディアに着くまでに餓死しちまう。
と、焦りから不漁の悪循環に陥りつつある俺の耳に、
「ねぇ。隣、いいかな?」
という声が聞こえた。振り向くと、そこにいたのはロッティだった。
快く了承すると、ロッティは俺の隣に立ち、海を眺め始める。
釣りに没頭する俺と、景色を楽しむロッティ。勇者という共通点はあれど、こないだ会ったばかりの男女の会話が、そう簡単に弾むわけがない。
せいぜい盛り上がったのは、エルフィニアについてと……
「その、なんつーか……エロいな。その服」
「うっ……やっぱり、そう思う?」
ロッティが着ている露出度の高いあの青い服についてぐらいだ。それ以外は、沈黙と1、2ラリーで済むような他愛もない話を繰り返している。
「言っておくけど、ボクの趣味じゃないからね! ボクとしては露出なんかしたくないし、身を守る意味でも本当は甲冑を着たいんだ。だけど、ケンとメイ爺が『それじゃ女らしさの欠片もない!』って聞かなくて。事あるごとにボクに踊り子の服だとかビキニアーマーとかといった露出度の高い装備を勧めてくるんだよ! こないだなんて、『どこで買ってきたの。それ!?』って言いたくなるような際どいレオタードを買ってきてたんだよ! ヒドくない!?」
うわぁ……愚痴が止まんね~。
まぁ、でも幼児体型のプリスより、ナイスバディのロッティに着せた方が映えるという気持ちは、男としてわからなくもない。
「それで、何度も議論重ねてお互いに妥協した結果、この仕上がりに……」
羞恥で顔を真っ赤にしながら、そう弁解するロッティを見て、俺はピンときた。
はっはーん。そういうことか。要はあいつら、ロッティを視姦したいだけだな。人のことロリコンだなんだと言ってたけど、あいつらだって、相当スケベじゃねぇか。
あ。スケベで思い出したけど、どう見ても皮の服より生地が少なくて、防御力の低そうなセクシー装備が性能的に優遇されてるあれって、いったいなんでだろう?
うーん……RPG全体における永遠の謎だ。
っと、これ以上はただの羞恥プレイになりかねねぇ。
あいつらをからかうのは後回しにするとして、ここはロッティの羞恥心を消すためにも、会話の勢いに乗じて、あのことについて聞いてみるとしよう。
「……そういや、ロッティはどうして、勇者になったんだ?」
そう尋ねた途端、ロッティは羞恥から一転、暗い顔をした。
ヤバ。このパターンは初めての野宿をした時のまーちゃんと一緒で、聞いちゃマズかったタイプの奴だ。
「聞いても楽しい話じゃないよ。ボクが勇者になったのは、世界を救いたいとかそんな大それたことじゃない。ただの個人的な、薄汚れた感情からだよ……」
あぁそういうことか。ロッティの返答で、だいたいの予想がついた。
「……復讐か」
「どうしてそれを!?」
「俺がいた世界で、勇者が旅立つ動機っつったら、だいたい王か神に命じられたからか、偉大な親や師匠の背中を追いかけてか、生まれ育った村を滅ぼされたことに対する恨みのどれかだ。さっきの言葉と表情からして、お前は3つ目のパターンだろ?」
俺にそう言い当てられて、ロッティは肯定した。
「……そこまでわかってて、それでも聞きたいんだ?」
「あぁ。うちのまーちゃんも同じ境遇だからな。相手が同じ奴か確認ついでに。それに、お前も、その方が気が楽だろ?」
「……それもそうだね。わかった。話すよ」
そう言うとロッティは、忘れることのできない辛く悲しい過去について語った……




