勇者の剣
なんて不安に苛まれていると、
「ぬおーっ!」
という、雄叫びが聞こえ、俺の中のチンケな感情を吹き飛ばした。
びっくりして声がした方を振り向くと、そこには公園があって、何やら人だかりができている。
「なんだありゃ?」
「ん? あぁ、公園の中心に先代勇者様の剣があって、それを引き抜こうとしているんですよ」
え? 今、何つった? 勇者の剣を引き抜こうとしている? そんなRPGにありがちな展開が、あそこで起きてるっていうのか?
「いいのか? んなもんを一般市民がベタベタ触って」
「えぇ。将軍から一般兵、果てはギルドやゴロツキが試しても抜けませんでしたから。『この際、皆にチャンスを与えよ』と、国王陛下が」
「へー。じゃあ、お前も……」
「えぇ、まぁ」
そんな風に話しながら遠巻きに見ていると、見物人の1人が俺らに気付き、
「あんた、見ねぇ顔だな。どうだい? いっちょ」
と、誘ってきた。
正直、このお誘いは、RPGマニアとしてかなりそそられる。一発で勇者確定のイベントだからだ。
けど、その反面、調子に乗ってやったはいいものの、結局抜けなくて、大勢の前で赤っ恥をかくリスクもある。ノリと勢いだけのバカな新成人じゃあるまいし、それだけは避けたい。
なんて二の足を踏んでると、
「やるならやるで、さっさとしてください。男らしくない。こっちもヒマじゃないんですよ」
ラーサーの奴が冷たい口調で言ってきやがった。こいつ、また生意気な口を――
いや待てよ……? 確かにこいつの言うとおりだ。やってもみねぇ内から尻込みするなんて、それこそ男らしくねぇ。
それに俺は、元の世界でどれだけ恥を晒してきた? 思春期に告っては玉砕し、就活に失敗して無職になってからは、恥を忍んで親の残した遺産を食い潰す日々。これ以上の恥がどこにある?
「……わかったよ」
苦悩の末、吹っ切れた俺は、背広を脱いでラーサーに預けると、運命に導かれるように剣のところへ向かった。