寝覚めが悪ぃんだよ
と、思った矢先、
ジュッ! ジョワー…………
という、水気が火にかかる音がし、紫色の煙を発しながら鎮火されていった。どうやら毒液を使って消火したらしい。
それだけじゃない。露出した紫色の球体を隠すように、焼け落ちた細胞まで自己再生してやがる。それも、消火から数秒も経たない内に。
「そんな!」
「チッ、なんつー回復速度だよ! あれじゃあ、爆弾を何発ぶち込もうが一緒じゃねぇか!」
「ですね。悔しいですけど」
起死回生の一手を潰された俺達は、悔しさを滲ませた。
「こうなったら、今できる最善を尽くすしかねぇ。まーちゃん! さっきの爆弾、今度は硝石多めで頼む! 燃やしてダメなら、木っ端微塵にするしかねぇ!」
そう頼んだ俺だったが、内心、それでやれるなんて思ってない。どんだけ粉々に砕いても、核をどうにかしない限り、あいつは何度でも再生する。そう直感していたからだ。
どうやったら倒せるのか? 打開策を模索していた俺だったが、それがまたマズかった。考ることに集中していたせいで、いつの間にか戦闘自体を疎かにしていたんだ。
「危ないっ!」
ラーサーの声に気付いた時には、猛毒の息が放出さたれていた。ヤバい。タイミング的に回避できない。そう思うも、突然のことで体が強張り、身動きがとれない。
その時、目の前を遮った何かが、毒の息から守ってくれた。
その何かとは――
「ぐふっ……何やってるんですか? ボーッとしてたら、死にますよ」
「ラーサー! お前、なんで!?」
俺を嫌ってるはずなのに庇ったラーサーだった。
繰り返し言うが、ラーサーは毒耐性の装備を持っていない。そんな状態で毒の息の直撃なんか浴びたら、ひとたまりもない。
事実、猛毒に冒されたラーサーは、瀕死の重体となり、片膝をついた。
「…………なんででしょうね。わからないですけど、体が勝手に動いてしまいました……ただ、1つ言えるのは……このままあなたを死なせてしまうのは、寝覚めが悪い……それだけですかね…………」
「お前……」
俺がそう言ってすぐ、ラーサーは血反吐を吐いて、その場に倒れ込んでしまった。
「ラーサーッ!」
「……何をしているんですか……? 僕のことはいいから、早く、あいつを倒してください……目的の為なら、見捨てる勇気も必要……勇者ならそれぐらいわかってください…………」
虫の息なのにそう言って尻を叩いてくるラーサー。こいつのことだ。兵士として、ここで死ぬのも覚悟の上だろう。
それに応えるように、バケモンはラーサーの頭めがけて蔓を振り下ろした。
――って、ふざけんじゃねぇよ。この草! そうは問屋が卸すかよ! 俺はラーサーの前に立ち、2本の剣で蔓を止めた。
「勇者様っ!」
「……っ! まーちゃん! 俺が買っといた解毒薬があったろ!? あれをそいつに飲ませてやれ!」
「は、はい!」
そう言うと、まーちゃんは急いで解毒薬を荷物から取り出し、ラーサーに飲ませようとした。
「な、何考えてるんですか!? たった1瓶しかない解毒薬を僕に使うなんて! 勇者が死んだら、この世の終わりなんですよ!? この場で最も重視すべきは誰の命なのか、その薬の真の使い道がなんなのか、それすらもわからないんですか!?」
どうやらこいつの中では、解毒薬は俺が防毒マスクを破壊された時の非常用で使うのが適切だと思ってるらしいけど、んなもん知るか。
「……ガタガタうっせぇな。いいからとっとと飲め」
「しかし――!」
「こっちもなぁ、お前に死なれたら寝覚めが悪ぃんだよ。普段は生意気でいけ好かねぇ奴でも、仲間であることに変わりはねぇんだ。その仲間を見捨てるなんざ、勇者失格だろ」
俺がそう言うと、ラーサーはフッと笑い、
「あなたって人は……後悔しても知りませんよ」
と、いつもの調子で言ってきた。へへっ、それでこそお前だよ。
あいつの様子にホッとした俺は、まーちゃんにラーサーの治療と援護を頼み、1人残った前衛として、真っ向から草のバケモンに挑んでいった。




