ここにいる理由
鞄から取り出した開発途中のゲームの原案を手にした俺は、それを手の上でポンポンと叩きながら、
「――――ま、結局、志半ばでくたばって、こっちに来ちまったわけなんだけど。これでわかったろ? 俺はお前と違って、スタートラインにすら立ってな――」
と、自嘲気味な口調で自虐を続けようとする。そこで俺は、初めて自らの過ちに気付き、口を閉じた。
どこにでもありそうな一般家庭の不幸と、親子が追求した夢の話。他人からすれば『だから?』と、一蹴されかねない話だ。
それを今日会ったばかりの、しかも一回り近くも違う子に聞かせるべきではなかった。後悔と自責の念が襲ってくる。
けれどマーテリアテナは、冷淡に聞き流したりせず、真摯に耳を傾け、部活の成績を聞いて強さに納得したり、親の死に同情したりしてくれた。
そして、俺がマズったと思い、自ら話すのをやめると、俺の手の甲に自分の手をそっと被せ、
「……違わないですよ」
「え?」
「勇者様も私と同じで、夢のために必死に努力しています。その質に差はありません。ただ、まだ実を結んでいないだけで、いつか、誰よりも大きな花を咲かせると、私は信じています」
と、励ましてきた。
マーテリアテナの手も心も、焚き火の火よりずっと優しく、暖かく感じる。
「そう、かな?」
「そうですよ。それに勇者様の夢はまだ終わっていないはずです。勇者様がこの世界に来たのはきっと、ここでしか得られない何かがあるからではないでしょうか?」
それを聞いて、俺はハッとした。
あのメタ発言の精霊がそこまで考えてるとは到底思えないが、こいつの言うとおり、ここに来たおかげで色々なことを知ることができた。就活に向けての改善点とか、ゲームの世界観やシステムに使えそうなアイデアとか。きっと、これからもそうに違いない。
それに、仮にそうでなければ、ゲームの原案が入ったこの鞄が都合よく無事で、俺と一緒に転移されてくるはずがない。
こんな大事なことを、10こも下の子に気付かされるなんてな……普通なら情けない話なんだろうが、今の俺には、この少女がまるで聖女のように見える。




