少女から商人へ
思った通り、マーテリアテナは大商人を父に持つ富豪の娘だった。しかも由緒正しい家柄の。
マーテリアテナの親父さんやじいちゃん達は、先祖から類い稀なる商人としてのテクニックを代々受け継いできたらしく、それを応用したことで大成。バシレイア大陸にマルーシェっていう一大商業都市を築き、元締めと領主を兼任していた。
だけど、1年前のある日。こいつの平和で穏やかで幸せな日常は何の前触れもなく崩壊した。
突如現れた魔王の軍勢がマルーシェを襲撃。当時13歳のマーテリアテナは、親の機転で教会のシスターと数人の子供達と一緒に難を逃れたが、町は壊滅。家族も皆殺しにされた。
焼け野原になった生まれ故郷を前にして、マーテリアテナは深く悲しんだ。魔王に対して、怒りやら憎しみやらといったドス黒い感情も持ったことだろう。
となれば普通、兵士や冒険者になって、直接仇を討ちたいと思ってもおかしくないが、マーテリアテナはそうはしなかった。運度神経が良くない自分じゃ、どんなに頑張ってもできないし、復讐に狂ってそんなことをしても、死んでいった両親が喜ばないと悟ったからだ。
そこでこいつが選んだのが、商人という道だ。大商人になって町を再興し、魔王と戦う人々を支える。それが、商人の家に生まれた自分にしかできない唯一のことだと思ったからだ。
といっても、先祖代々受け継がれてきた商売テクのほとんどは親父さん達の死によって途絶えたし、マーテリアテナ自身が、独学でも人に物を売った経験も無い。
それでも、こいつは商売について必死に勉強し、血の滲むような努力をしてきた。
その甲斐あってか、故郷を失ってから半年後、マーテリアテナは国に資格を認められ、念願だった商人になれた――――
「――だから、勇者様に誘っていただけた時、私、すごく嬉しかったんです。こんな私でも、勇者様が必要としてくれましたから」
想像を絶する壮絶な過去と努力。その全てを語り、俺との出会いにまで感謝するこいつを見てて、俺は自分が恥ずかしくなった。
だってこいつは、俺なんかよりもずっと悲しくて不幸な目に遭ったっていうのに、それに屈さず、たった14歳でまだスタートラインとはいえ、夢を叶えた。
俺が同じ立場だったら、ここまでできただろうか? いや、無理だ。きっと、そのまま暗い感情に押し潰されて、無気力になるか、無謀な行動に出ていたと思う。
つーか、それ以前に――
「……すげぇな。お前って」
「え?」
「最初は俺と同じだと思ってた。俺も自慢の親を亡くしてるからな」
「勇者様も?」
「あぁ。けど、お前はそれを乗り越えて、夢に向かって努力してる。俺もしてる方だとは思ってたけど、お前のそれは、俺のとは比べもんになんねぇ。素直に尊敬するよ」
そう褒めると、マーテリアテナは謙遜した。
「そんな。私の努力なんて微々たる程度です。どんなに頑張っても、勇者様のように世界の命運を担うなんてことは、とても……」
「んなの、ただの成り行きだよ。努力で得たもんじゃねぇ。それに、まだ言ってなかったけど、俺、前の世界じゃ無職だったんだぜ?」
それを聞いて、マーテリアテナは少し意外だったらしく、硬直した。
「ま、いいや。それより、お前ばっか昔のことを話すのは不公平だろ? なら、今度は俺の番だ。もっとも、お前の過去に比べたら、ありきたりすぎて、面白味の欠片もないだろうけど」
そう言った後、俺はマーテリアテナに自分のことを語り始めた。




