野宿
バシレイアを出発し、他愛もない話をしながら街道沿いに歩き続けること2時間。日が沈み、これ以上彷徨くのは危険だと判断した俺達は、人生初の野宿をすることにした。
早速準備にとりかかると、マーテリアテナは近くに落ちていた小枝を拾い集め、リュックのポケットから、何やら見慣れない赤い結晶を取り出した。
「ん? なんだ? それは」
「これですか? これは、魔除けの火種というアイテムです」
「魔除けの火種?」
「はい。銀貨7枚と少々値は張りますが、その名の通り魔物を遠ざけ、快適に野宿をするための物です。使い方は……見てもらった方が早いですね」
そう言うとマーテリアテナは、魔除けの火種を小枝に投げつけた。すると一瞬にして、黄色がかった炎がボッと燃え上がった。
「おー」
「あとは、火を絶やさないようにすれば、魔物に襲われる心配はありません」
魔物に襲われないために、こんなアイテムまで生み出すとはな。先人の執念には脱帽するよ。
晩飯を食った後、俺はマーテリアテナから文字の読み方と、この世界・ラグナヴェルトについて教えてもらった。おかげでこの世界のことを知れたし、読み書きも少しはできるようになったと思う。
ほんと、マーテリアテナ様々だな。
「――東のバシレイア大陸に、インペリア帝国がある西のインペリア大陸。南のギルディア大陸に、北の未開大陸か……ありがとう。勉強になったよ」
「お役に立てて何よりです」
「しっかし、さっきの道具の説明といい、地理の知識量といい、お前って、歳の割に賢いんだな」
「いえ、そんなことは。商人になりたくて勉学に励んだ結果です」
勉学に励んだ、ねぇ……内政事情まで精通してるってことは、相当勉強した証だな。
「そうまでしてなりたかったんだな? 商人に」
「はい。お父さんのような大商人になるのが、私の夢ですから」
それを聞いて俺は、マーテリアテナの口から始めて出た『お父さん』というワードに、つい反応してしまった。
「そっか。そんだけ思われてたら、親父さんもさぞ鼻が高いだろうな。今も現役バリバリで働いてんのか?」
そう聞かれた途端、マーテリアテナの顔色が曇った。それだけでロクな話じゃないってことは察しがつく。
「あ、その、悪ぃ。マズかったか?」
「いえ、勇者様は悪くありません。ただ……」
「その……よかったら、話してくれるか? 誰かに聞いてもらったら、楽なこともあるだろうし」
俺がそう言うと、マーテリアテナは少し考えてから頷き、自分の両親と過去について語り始めた。




