少女のための戦い
「ははははは!」
「いつまでも……」
「ん?」
「いつまでも、ヘラヘラしてんじゃ……ねーっ!」
怒りの沸点が超えた俺は、笑い続ける奴隷商人の薄汚ぇ口に、歯が粉々に砕けるほど強烈な木刀の一突きを叩き込んだ。
勢いよく吹っ飛ばされたそいつは、バウンドしながら地べたを転がり、アホ面を晒してノックアウトした。
時間にして僅か数秒の出来事。それを目の当たりにし、呆然とする子分共に、俺は勇者の剣の切っ先を向ける。
「次やられてぇのはどいつだ?」
そう言われて子分共は、戦意喪失したらしくたじろいだが、ドンカカがそれを許さない。
「てめぇら! 怖じ気づいてじゃねぇ! 俺らは泣く子も黙るドンカカ一味だぞ!? こんな青二才になめられっぱなしでどうする!」
「お、親分……」
「勇者だろうが何だろうが、袋にしちまえばそれでしめぇよ! わかったら、とっととやっちまえ!」
「へい!」
そう言うと、子分共が一斉に襲いかかってきた。
(これだから小悪党は……やることがワンパターンなんだよ)
お約束の展開に呆れながらも、俺は片っ端から打ちのめしていく。
ここに来る前の俺だったら、こんな大勢に襲われた時点で、おそらく必死で逃げるか、許してもらうためにひたすら土下座をしていたと思う。せいぜいやっても、助けを呼ぶのがいいところだ。
けど、今は違う。魔王討伐という重大任務を背負った勇者だし、何より、こんなか弱い女の子を見捨てたら、それこそ男が廃る。たとえこいつらが雑魚だとしても、この戦い、負けるわけにはいかない。
俺は、なるべく殺さないように勇者の剣で奴らの攻撃をガードしつつ、木刀でボコボコにしていく。あいつらの直線的な攻撃なんざ、高校時代の部活で鍛えた俺の動体視力の前じゃ、止まって見えるぜ。
そうやって必死に戦っている内に、気付けば敵はドンカカだけになっていた。
「な……!? 嘘、だろ……?」
「あとはてめぇだけだ。覚悟はできてんだろうな?」
そう言って俺は、ドンカカの喉元に勇者の剣を突き立てる。これで大人しく観念してくれりゃいいんだが……
「へっ、へへへ、やるじゃねぇか。どうやら勇者ってのは、本当らしいな」
「わかったら、さっさと……」
「そうはいかねぇ。俺様は諦めが悪いタチなんだよ」
そう言うと、ドンカカはパンツの中に隠していた煙玉を地面に叩きつけて、煙幕を発生させた。
「野郎共! 今の内だ! ずらかるぞ!」
「へい!」
「おい待て!」
「がっはっは! 『待て』と言われて待つ奴がいるかよ。いいこと教えてやる。俺がなんで大泥棒と呼ばれているか。それは、誰にも捕まえることができねぇからさ! 逃げ足の早さは俺様の得意分野なんだよ! じゃあなボウズ! お前のことは覚えとくぜ!」
それだけ言うと、ドンカカ一味は奴隷商人と女の子を残して、煙と共に消えてしまった。
自分で言うだけあって、ほんとに逃げ足だけは早ぇな。




