大泥棒ドンカカ
なんてことを思い、焦りを感じていると、
「いやっ! 離してください!」
「うるせぇ! 大人しくしやがれ!」
という騒ぎ声が聞こえた。
何事かと思い、顔を上げると、そこには目出し帽みたいな頭巾を被り、別件で逮捕されそうなぐらい際どいブーメランパンツのみを履いた大男が、手下らしきゴロツキ共と一緒になって、ピンク色のサイドテールの髪をした女の子を無理矢理どこかへ連れて行こうとしている。誘拐事件だ。
通報しようにも、兵士の姿が見当たらないし、住民達も武装した連中に怯えて動けないようだ。
(どうやら勇者の出番のようだな)
そう思った俺は、勇者の剣と木刀を手に、助けに向かった。
「おい。お前ら何やってんだ?」
俺の声に反応したゴロツキと女の子はこちらに気付き、振り向いた。
その瞬間、女の子の顔が助かったという喜びから再び絶望へと変わった。理由はだいたい想像がつく。
「ん? なんだ同業か。邪魔だからどっか行ってろ」
「誰が同業だコラ。俺はこの世界に新しく来た勇者だっつーの」
そう言うと、ゴロツキ共が指を差して笑いだした。
「お前が勇者? どう見てもこっち側だろ? がはははは!」
「人を見かけで判断すんな。そう言うお前こそ何なんだ?」
そう聞かれて、親分らしき変態野郎はニンマリと笑い、
「そのセリフ、待ってたぜ。てめぇら! 耳の穴掻っ穿ってよーく聞け! 俺様はぁ! ギルディア大陸にその名を轟かす大泥棒! あ! ドーンーカーカー様だぁっ!」
と、名乗った。
いや、歌舞伎みたいな大見得きろうが何しようが、この際どうでもいいんだけどよ。ドンカカって和太鼓の音みてぇな名前だな。おい。某有名リズムゲームの新キャラか?
「……で? その自称大泥棒様が、天下の往来で何してんだ?」
「見てわかんねぇか? 今からこいつを、奴隷として売り飛ばすところだよ」
悪びれもせずそう言うドンカカの側には、いかにもな感じの商人がいた。どうやらこいつが取引相手である奴隷商人らしい。
「マジなのか?」
そう尋ねると、女の子は小さく頷いた。俺は、非人道的な商売をしようとしてるこいつらに、怒りを覚えた。
「てめぇら……それでも人かよ」
「えぇ。人ですとも。勇者様からすれば信じ難いかもしれませんが、これも立派な商売です。それとも何ですか? 『人権を尊重しろ』とでも? 流石は勇者様。考え方がご清潔ですねぇ」
そう言って奴隷商人は、下品にカールした髭を触りながら、ドンカカの子分共と一緒に笑いだした。
人を物として扱い、それを注意した俺をバカにする。こいつらのゲスっぷりだけは許せねぇ。




