中指
「あんたが、俺をこの世界に?」
「えぇ。私の招きに応えていただき、ありがとうございます」
エルフィニアは丁寧な口調でそう言うと、お辞儀をした。
……言いてぇことは多々あるが、とりあえずこれに集約しておこう。俺は深いため息をつくと、目の前にいる精霊の主様に向かって中指を立てた。
「何故中指を立てるのですか? せっかく礼を述べているのに、あんまりでしょう」
「うっせぇ! 誰のせいでこうなったと思ってんだ! 人を勝手に殺して、右も左もわからない世界に跳ばしやがって! 説明に来るにしても遅すぎんだよ。バカ神!」
「バッ……!? 失礼な! それが精霊の主に対する態度ですか!? 無職だったあなたと違ってこっちは忙しいんですよ! それに、あなたが死んだことと私は何の関係もありませんし、あなたも勇者になれたのですから、満更でもないでしょう?」
「そりゃ、まぁ……」
なんだろう? この押し切られた感。納得いかねー。
「で? その精霊の主様が、この俺にいったい何の御用でしょうか?」
「あ、そうでした。先程も仰っていた通り、右も左もわかっていないようですから、旅のナビゲート役を務めようかと。言うなれば、勇者〇シヒコに登場する仏のようなものです」
へー。案外いい奴じゃん。こいつなりにちゃんと責任を感じてるんだな。
なんで人が著作権を気にしてストレートに言わないようにしていたドラマの名前を出してまで、自分のことをペ〇ングフェイスの俳優に例えたのかは謎だけど。
「そいつは助かるわ。ありがとよ」
「礼には及びません。精霊の主として当然のことをしたまでです。今回はあくまで挨拶だけなのでこれで失礼しますが、今後、進むべき道に迷ったら、天よりあなたの前に現れ、助言致します。それでは」
そう言って、エルフィニアが俺に背を向け、靄の中へと消えていこうとした。
それを見て、俺は何も考えず手を振りかけたが、ふとあることが気になって、去ろうとする精霊の主を呼び止めた。
「あ、悪ぃ! 1個だけ聞いてもいいか?」
「はい? 何でしょう?」
「自分でも薄々気付いてはいるんだけど……勇者特権のチートスキルみたいなもんとかは?」
俺は淡い希望を込めてそう尋ねた。無い物ねだりなのはわかってる。それでも、一縷の望みがあると信じたかったんだ。
なのにこの女は、バカにしたように笑いながら、
「あるわけないじゃないですか。なろう系主人公じゃあるまいし。驚異的な身体能力とか、無詠唱で魔法を放てるとか、できると思ってたんですか? 夢見すぎですよ。勇者特権で毎ターン1~10%HPとMPが回復するだけ有難いと思ってください。だいたいこのお話の作者は、チートを極度に嫌ってますから、期待するだけ無駄ってものですよ。では、私はこれで」
と、容赦なく人の希望を粉々に砕いて、満足そうにスーッと消えていった。
あ、今、わかった。あいつは精霊の主なんて大層なもんじゃない。メタ発言の量がヒドいただのクソ精霊だ。
そう断定した俺は、夢から覚める間際に改めて中指を立てた――――




