始まりは突然に
澄み渡る青い空。
頬を撫でる心地いい風。
地平線の彼方まで広がる青々とした草原。
そして、どこかから聞こえてくる魔物達の騒がしい鳴き声。
冒険の始まりを予感させるには十分な光景に、俺は思わず笑みが零れ、心を躍らせる。
…………って、んなわけあるかーっ!
いやいやいや、綺麗な景色で誤魔化そうったって、そうはいかねぇから! 百歩譲って上手くいってたとしても、魔物の鳴き声1つで全部パーだわ! 現実逃避すんならもうちょっとマシな妄想しろよ俺!
(てか、そもそもここはどこなんだ? 全く見覚えがねぇし……もしかして、まだ夢でも見てんのか?)
そう思い、右頬を強く抓ってみる。普通に痛い。悲しいことにどうやら現実みたいだ。
なら、どうしてこうなった? 訳がわからねぇ状況に、俺は頭を抱える。とりあえず何が起こったのか、目覚める前のことを順を追って思い返してみよう――――――
「……残念ですが、今回はご縁がなかったということで」
「そうですか……ありがとうございました。失礼致します……」
面接官に一礼した俺は、面接会場を出てすぐ、ガックリと肩を落とした。これでバイトの面接も含めて通算100連敗……流石に笑えてくる。
自己紹介が遅れたが、俺の名前は広岡勇。24歳独身。学校卒業後、求職活動に明け暮れる所謂就活難民ってやつだ。
その最大の原因はこの顔にある。生まれた時から目つきが悪く、気怠げな犯罪者のようなツラをしていた俺は、そのせいで周囲の人から避けられ、学校生活も早い段階から孤立した。
当然、そんな俺だから、友達と呼べる存在は、高校時代の部活仲間数人しかいないし、恋人もできた試しがない。灰色の青春を過ごした俺の性格は、時が経つごとにどんどん捻くれていき、それに比例するように人相も悪くなっていく。
気付いた時には、第一印象最悪の極悪フェイスの持ち主となっていた。
「チッ、何が『弊社は組事務所ではないんですが……』だ。んなことは、わかってるっつーの。ったく、どいつもこいつも人を顔で判断しやがって。つーか、開発部に顔は関係ねぇだろ」
俺はぶつくさ文句を言いながら、怒りを消化させていった。
思えば、この顔で生まれてきてからというものロクなことがない。卒業式終わりに1人寂しく帰った時や、面接に落ちる度に、どんだけ神様の悪戯と親父の遺伝子の強さを呪ったことか。それぐらいこの人相が憎くて仕方ない。
(けど、整形でもしない限り、この悪人面と一生付き合わなきゃならねぇよな。だったら、その中でベストを尽くすしかねぇか)
俺はそう自分に言い聞かせて、前を向いた。自分で言うのもなんだが比較的前向きな方だ。100連敗がなんだ。クヨクヨせずに次の仕事を探した方がずっと賢明だ。
気持ちを切り替えた俺は、街に流れているとある歌手の名曲『Crystal fantasia』を聞きながら駅に向かった。
家に帰って、ロクに目も通してもらえなかったあるものを改良し、ネトゲの重要なミッションをクリアするために。
その時だった。突如、轟音と閃光が空間を劈いた。
何事かと思っていると、道路に亀裂が走り、地割れや爆発、ビルの倒壊に人々が巻き込まれ、虫ケラのように死んでいく。
こいつはただ事じゃない。俺は急いで避難場所に向かって懸命に走ったが、天変地異みたいなそれから、ただの人間が逃げ切れるはずがない。地割れに足を踏み外した俺は、呆気なく地の底へと向かって落下し、
「やばっ! 死――!」
最期の言葉を言い終わる前に、そのまま爆発の光に呑まれて木っ端微塵に吹っ飛んだ――――――
――――――なるほど。理解した。要は俺、死んだんだな。24歳独身無職のまま。
「ははははは……」
無性に中指を立てたくなった。嫌がらせにもほどがあるだろ神様! 人の人生なんだと思ってんだ!
となると、ここはあの世か? いやいや、大自然に魔物がいるあの世とか聞いたことねぇし。
だとしたら、ラノベとかでよくある異世界転生って奴か。いや、服装とか変わってねぇし、持ってた鞄もあるところからすると、この場合、異世界転移って言った方が正しいのかも。いずれにしても、その方が腑に落ちる。
とにかく、まずはここのことをもっとよく知らねぇとな。そのためにも、早いとこ町を探さねぇと。初日から魔物が跋扈するところで野宿とか、流石にイヤだ。
いよいよ始まりました。異世界転移冒険譚・まーちゃんとクエスト!!
本当に既視感バリバリなので、そこら辺で薄っぺらく感じるかもしれません。悪しからず