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頂に立つ者-04

 クアンタは皇居における更衣室前で刀を備えながら、ただ部屋の前で立ち尽くす。


彼女たちの会話は、クアンタの持つ集音機能によって問題無く聞く事が可能であり、二者が「女であること」に、悩みを持ち得ている事を、ただ聞いている。



(……男女という括り、か)



 クアンタは女性型の身体を有している。それは元々地球における女性の身体を模しただけで、マリルリンデのように男性型であったり、もしくはヒト以外の物になる事も可能であるはずだ。


既にこの姿で一ヶ月近くを過ごし、今更変える必要も無いかとは考えてこそいるが、しかしそうした男女による違いを説かれていると、そうした変更も今後は必要なのかもしれないと、胸に触れる。



(だが、お師匠は私の胸部にある脂肪が好きみたいだしな……)



 個人的には邪魔だと思いつつも、しかしリンナは非常に好んでいるし、以前胸をちぎった際には奇声を発して驚いていたし、この姿は変更しない方が良いのか、等と考えていた。



その時だ。



「君、少しいいかね?」



 声がしたので視線を向けると、髭を生やして腹が横に出ている、随分と恰幅の良い男性が声をかけてきた。


元々シドニアがクアンタに「一応気を付けておけ」と注意していた、ドラファルド・レンダという男の風貌に似ていると気付いたクアンタは「ハッ」と胸を張りながら返事をし、姿勢を正す。



「君は、リンナ刀工鍛冶場の人間かね?」


「ハイ、リンナ刀工鍛冶場、刀匠リンナの弟子、クアンタと申します」


「ほうほう。随分と背も高い、綺麗なお嬢さんだ」



 名乗りもせず、クアンタの身体をジロジロと見据える男に、しかしクアンタは嫌悪感なども覚える事なく、ペコリと頭を下げながら問うた。



「大変申し訳ございません。ドラファルド・レンダ様でいらっしゃいますでしょうか。お姿などは事前にお話を伺っておりましたが、実際にお目にかかるのは初めてですので」


「ああ、申し訳ないね。その通り、私がドラファルドだ。……少し、君たちの経営について等、お話が出来ればと思っているのだが」



 ドラファルドは、目を細めながら懐中時計を懐から取り出し「予定時刻は近いな」と確認。



「そろそろアルハット様と、リンナさんの会談が始まる。その間は多くの人間が出入りするし、警兵隊の人間が警備に入る。少しその間、お話が出来ればと思うのだが」


「経営について、とはどのような?」


「何、今後の事について、色々だよ。アルハット様やシドニア様より、私の方が建設的な話が出来ると思うのだが?」



 ドラファルドは、元々アルハット領における指定錬金術師と呼ばれる存在で、元々鉱物資源等を加工して流通させる鉱業省の人間でもあったと聞いているし、現在はアルハット領における七人政治家の一人でもあると聞く。今後の玉鋼流通に関する細かい話などを聞ける場合もあると考え、ここは従っておくことが賢明かと、頷く。



「かしこまりました。では後程時間を作りますので」


「ありがとう。会談が始まり次第来てくれたまえ。そこの第二会議室で待っている」



 指で示した会議室の場所を覚えた後、クアンタと別れたドラファルドは、一度アルハットとリンナの会談に使われる会場へと向かったようで、クアンタはそのまま更衣室前で、二者が来るのを待つ。


 そう時間はかからなかった。開かれたドアからリンナが顔を出し、今首を傾げる。



「クアンタ、今誰かと話してた?」


「ああ、ドラファルド様という政治家と少し」



 ふーん、と相槌を打ったリンナが、綺麗に髪の毛を整えた事と、少しだけ肌の色合いが白く見えて、クアンタが「化粧か」と尋ねた。



「あ、うん。アルハット様がやってくれた」


「そのアルハット様は」


「……ここに、いるわ」



 少し、ゆっくりと顔を出したアルハット。


彼女の表情は少し赤くなっていて、クアンタを見ると更衣室のドアに身を隠し、そっと彼女を見据える。



「どうされましたか、アルハット様」


「ク、クアンタ。お、お願い。その敬語、止めて。なんか、恥ずかしい」



 彼女らしからぬ、オドオドとした態度に、首を傾げながら「この場では許諾しかねます」とだけ言う。



「現在はアルハット領皇居ですので、アルハット様への敬語や敬称は外すわけにはまいりません」


「……そ、そう、よね……ご、ごめんなさい。だ、大丈夫……」



 姿を出したアルハットが、緊張した様子でクアンタの横を通り過ぎようとしたが、焦っていたからか、足をもつれさせ、転びそうになった所を、クアンタが抱き留める。



「大丈夫でしょうか。お体の調子が宜しくないようでしたら、誰かに声をかけてまいりますが」


「ほ、本当に大丈夫! し、失礼するわ!」



 抱き留められた身体を離し、少々駆け足で進んでいくアルハットだが、しかし追いかける様にしたら余計に失礼かと考えたクアンタは、首を傾げてリンナへ問う。



「アルハット様はどうされたのだろうか」


「……アレ、もしかしてクアンタに、ホレた……?」


「ホレた? ホレたとは何だ」


「あー……まぁ、今のアンタカッコいいもんねぇ。うん、まぁ、しょうがないんじゃない? アルハット様だって若い女だってこった」


「よくわからないが、アルハット様は私にあまり良い感情を抱いていないという事か?」


「んんー、良い感情ではあんじゃね? ……なんか、師匠としてアタシはちょっとフクザツだけど……まぁ人に好かれるのは良いことよ」


「ホレた、というのは人に好意を持たれる事か」



 一人納得したクアンタが、リンナの斜め後ろを歩いて、会談会場へと向かっていく。


 会談会場には既に十数名近くの広報担当者がおり、中にはカメラのような機材を持っている者もいた。流石にビデオカメラは無かったが、フィルム式に近いカメラというのは、このゴルサに来て初めて見た為、リンナに問う。



「カメラか」


「あー、クアンタ見るの初めて?」


「地球におけるカメラは知っている」


「すっごいよねぇ。構造とかは知らないけどさ、その瞬間を切り取って絵に残すんでしょ? 魂とかも一緒に切り取られちゃいそうでちょっと怖いんだよなぁ、ああいうの」


「お師匠はそう言った迷信も信じるのか」


「ん、別に信じちゃいないけどさ、自分のよく知らない事って怖いじゃん」



 と、そんな会話をしていると、会談会場の裏手でリンナを呼ぶアルハットが手を振っていると気付く。



「じゃあちょっとアタシ行ってくる」


「言葉遣いなどに気を付ける事だ」


「わ、わあってるってばっ」



 クアンタと話した事によって僅かにだが緊張を抑えたのか、最後には笑顔を浮かべてアルハットの所へとヒールで走りにくそうなリンナが駆けていく。



「クアンタ」


「シドニア様、如何なされましたか」



 背後から声をかけてきたシドニアに視線を向ける。



「これから私は国防省の方に出かけなければならない。少し席を外すが問題ないかな?」


「私もこれから、ドラファルド様とお話に呼ばれておりますが」


「……ほう、ドラファルドが君にか。それは少し興味あるが」



 周りの警備状況に目を通すシドニア。彼は警兵隊の人数などを目測で数えると「ふむん」と顎に手を当てつつ、頷く。



「この人数がいれば、小時間の警備は問題無いだろう。それより、ドラファルドには気を付けたまえよ」


「かしこまりました。……ドラファルド様は、どのような方なのでしょう?」


「野心家だよ。私は好きなタイプだが、アルハットは苦手だろうな。……そして君にとってはどうだろう。そこに私も興味がある」

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