アルハット・ヴ・ロ・レアルタ-05
となると、リンナが知るべきは三つ。
一部の災いには虚力が込められたリンナの刀が必要である事。
先日、サーニスとクアンタが、その一部である五災刃と呼ばれる存在と戦った事。
現状、名有りへの対処を進めたいが故に、リンナの刀が一本でも多く在る方が好ましい事。
それを説明し終わるころには、リンナも険しい顔つきになりながら、クアンタへ視線を向ける。
「その……例えばクアンタが刀打ったら、ダメなんすかね……?」
「ヤエさん曰く、リンナの打つ刀が必要なのだそうよ。恐らくだけれど、リンナの虚力量が常人の四十倍ある事から、そうした刀の製造における過程で虚力が注ぎ込まれるのだろうって」
リンナが姫巫女の末裔で、その本能故にそうして虚力が注ぎ込まれるのだろう、というのは説明しない方が良いだろうとする三人が、口裏を合わせて言うと、彼女も納得はしていないまでも、まぁ辻褄は合うのかと言わんばかりに、頭をかいた。
「そう、ですか……ゴメンね、クアンタ。そうなってくると、アンタに色々やらせる事が出来ないかもしんない……しばらくは見て貰ったり手伝い程度になっちゃうけど、いい?」
「気にする必要は無い。お師匠の仕事は私の指導だけではない。現在レアルタ皇国にはそれだけの危機が訪れていて、お師匠にはそれを打開し得るだけの技術があるという事だ。弟子として鼻が高い、という奴だろう」
そうクアンタが言っても、リンナの表情はまだ若干暗い。
彼女はクアンタの師として、これから育てていこうと考えていた。そしてクアンタがどれだけ刀という存在を好きでいるかも知っているから、その気持ちに応えてあげる事が出来ぬという事実に、心を痛めているのだろう。
「事態の収拾、もしくは必要数の配備が整えば、リンナに無理をお願いする必要がなくなる。その後もリンナ刀匠鍛冶場への支援は継続していく予定であるから、それまで付き合ってくれると助かるのだが」
「はい、それは全然。アタシの刀で良ければ、ドンドン使ってください……まぁ、使われない世の中になるのが一番なんでしょうけどね」
ペコリと頭を下げるシドニアと、苦笑しながら頷くリンナのやり取りの最中、サーニスが戻ってくる。手には六本ほどの刀が持たれていて「国営運送から直接運んで参りました」と、荒い息を整えながら、それをちゃぶ台に広げた。
「じゃあ確認しますんで、ちょっと待っててください」
広げられた刀の一本一本を丁寧に観察していくリンナと、同じく一本を手に取ったクアンタ。綺麗に研がれた刃や、何より波紋に対して「綺麗だ」と褒める。
指を、つ――と滑らせるようにして、刀に触れると、確かにリンナの虚力を僅かながらに感じる。クアンタにはそれ以上を認識する事が出来なかったのだが、しかしアルハットはそうして刃に触れるクアンタへ、手招きをする。
「クアンタ、いいかしら」
「何だろうか、アルハット」
「少し、外へ」
刀を鑑定するリンナと、買い取る側であるシドニアとサーニスを残し、二者が玄関から抜け、リンナの工房へと至る道を行く。
「ここ、刀のなり損ないがいっぱいあるでしょう?」
「ああ、それがどうかしたか」
「ヤエさんは、この刀のなり損ないにも、大量の虚力が注ぎ込まれているっていうの」
「――ほう」
乱雑に放置されたり、時には地面に突き刺さっている刀のなり損ないの一つに触れたクアンタが、指を滑らせるようにして「確かに」と頷いた。
「完成品の刀よりは少ないが、確かに虚力があるな」
「クアンタには、それを武器として扱う事は出来るかしら」
「どうだろうか。むしろこうした出来損ないを加工し、何とか使える形にするのが錬金術の役目ではないか?」
「……それも考えたのだけれど、正直刀としては使い物にならない程度の物にしかならないわ」
例として、一つを手に取ったアルハットの手から放たれる、青白い発光現象。それが刀のなり損ないを包んだ一瞬の間に錬成を終わらせ、波紋などの無い、ただ研がれた鉄の刃が姿を現した。
それに手を取り、クアンタが触れると「虚力はある。いざという時の武器には出来るだろう」と言いながらも、しかし首を横に振る。
「だが強度の面でバスタードソードにも劣る。これでは護身用程度にしかなり得ないだろう」
「ええ。だからこそ貴女の――虚力についてを知り得る、フォーリナーとしての意見を伺いたいの」
しばし、考え込むようにしたクアンタだったが、しかしそこで何を考えたのか、今アルハットが錬成によって作り上げた刃を――食った。
先端から、まるで煎餅を齧る様に少しずつ歯で刃を割りながら食べ進め、僅かに口元を傷つけながらも食していく姿を、アルハットが呆然と眺めている。
最後にゴクンと飲み込んだクアンタは、へそに手を滑らせ、撫でるようにした瞬間。
――先ほど砕いて食した筈の刃と同様の形をした、銀色に輝く刃が姿を現し、それを手に取った。
「これで武器としての強度は上がったな」
「な……何をしたの?」
「フォーリナーには、有機生命や無機物を取り込んで流体金属化させる機能がある。星々を渡り、フォーリナーが持たぬ技術などがあれば、取り込んで蓄えとする機能だな。そして取り込んだ物は何時でも再現可能となり、また流体金属における再現だけでなく加工も可能だ」
「食べた分の質量はどうなるの?」
「身長や体重、後は例えば髪の毛を増やしたり、女性型の身体であれば胸部や尻部を肥大化させるだけでいい」
今取り出した銀色の刃を、再びお腹に押し込むようにして戻した瞬間、僅かにだがクアンタの身長が伸びた。
「取り込んだ刀のなり損ないに含まれていた虚力も私の栄養源として摂取出来るし、掃除も出来るし、武器も取り込めた。一石三鳥だな」
「ああ、そう……でも、あの取り込み方はただの異常者にしか見えないから、人目に付かない所でした方がいいわよ……特にカルファス姉さまの前でやったら、多分発狂して喜んじゃうわ」
「よくわからんが、善処する」
一旦リンナ宅へと戻った二者と、リンナが刀の鑑定を終えて息を吐くタイミングは、ほぼ同時。
「よし、これなら全部売り物にもなりますね」
「良ければこのまま買い取っても構わないかな?」
「あ、はい。えっと、価格はどうしようかなぁ……」
「サーニス」
「ハッ」
サーニスが事前に用意していた、何かケースの様な物を畳に置き、それを開く。
中には大量の五十クルス札が入っており、リンナはパクパクと口を開け、唖然としている。
「サーニス、確か美術商での売買価格は一本当たり二千クルス程だったな」
「物により価格は異なりましたが」
「え……えっとぉ、アタシが何時もミルガス美術商に買い取ってもらう時は、半分の千クルス位が平均っすね」
「今後無理なお願いをする形となるから少し色を付けて……六本で二万クルスでは如何だろうか」




