アルハット・ヴ・ロ・レアルタ-03
さっさと書類をまとめ、退室していくシドニアと、あくびを溢しながら「カルファスー後で送ってー」と頼むイルメールに「わかりましたよー」とニコニコの笑顔を崩さずに応じるカルファス。
アルハットはサーニスの肩を叩きながら「大変ですね」とだけ伝え、シドニアへついていく。
アメリアとサーニスが目を合わせ、アメリアがぷくぅと頬を膨らませて地団駄を踏んだ。
「なぜ吾輩がお主に護衛されねばならんのじゃっ!」
「じ、自分に言われましても……」
「もーよいっ! 主を馬車馬の如く働かせる故、覚悟するが良いぞサーニスッ!」
「せ、誠心誠意、務めさせていただきますっ!」
深々と頭を下げるサーニスだが、アメリアはふん、と顔を逸らしながらズンズンと会議室から退室していく。
サーニスは青い顔をしながらも顔を上げるが、しかしそこでニヤニヤとしているイルメールとカルファスが。
「大変だなァオメェも」
「い、いえ。職務でありますから」
「ふふふ、私は今でも二人の事応援してるのよぉ~。元許嫁同士、仲良くしたら?」
「……昔の話です。失礼します」
何にせよ、まずはシドニアと共にリンナ刀工鍛冶場に出向き、刀を買い取る必要がある。故にシドニアへと駆け付け、一歩後ろで歩調を合わせる。
「アメリアの護衛は好かんか?」
「いえ。驚きはしましたが問題はありません、職務であれば全身全霊で務めさせていただきます」
「私は君とアメリアとの関係性をあまり知らん。故に君へ失礼な事を頼むかもしれないが、その時は遠慮なく言うといい。私も友人として、君に心労をあまりかけたくはないと考えているからね」
「お心遣い、痛み入ります。が、ご心配には及びません。如何なご命令であろうと、シドニア様からの命であれば、この命も投げ捨てる所存であります」
シドニアが他の者に命じて、既に用意していた二台の馬車。一台にシドニア、サーニス、アルハットの三人が乗り、もう一台には誰も乗らずに、リンナ刀工鍛冶場へと向かっていく。
「サーニスさんとアメリア姉さまは、長いお付き合いなんですか?」
気になったアルハットの問いに、サーニスがぐ、と息を詰まらせる。シドニアが「こらアルハット」と叱ろうとするが、しかしサーニスは「いえ」と首を振った。
「その……十年以上前の事なのですが、アメリア様が十二歳で、自分が十歳の頃、指導を乞うていた自分を気に入ってくださったイルメール様が『オメェ、アメリアの婿になれ! 頭も良くてツエーガキが産まれるぜきっと!』と仰り、そのまま……その、許嫁としての手続きを踏んだらしく」
「うわぁ……」
アルハットが思わず口元を押さえて眉に皺を寄せる程、サーニスから語られる経緯は彼女にとって「なんだそれ」に溢れていたのだろう。
「『自分は未熟の身でありますから』と断り続け、アメリア様も『男なんぞイヤじゃイヤじゃ!』と断っていた事もあり、破談となったのですが、それ以来アメリア様は、自分に対して嫌悪感を抱いておられるようです」
「アメリアは本当に気にくわん者を徹底排除する女だ。心底嫌っているというワケでは無いだろう」
「はい、そうだといいのですが」
苦笑するサーニスだが、しかし彼のそうした色恋沙汰についての話はとんと聴いた事が無いと思ったアルハットは、僅かに表情を明るくさせた上で「他にそう言った話題とかはないのですか?」と尋ね、シドニアがため息をつきながらも、気になった様子で見逃した。
「そう、ですね……『人生とは修行そのものである』という父の教えもあり、まだまだシドニア様の従者として未熟者の自分に婚姻等は早いと考えております。どなたともそういった関係を結ばぬ予定です」
「だが……イルメール程ではないが、私も君の人となりを知っている。後継者を遺すという点においても、そうした縁談というのは今後考えておいた方が良いと思うが」
「……善処、致します。ただ、その」
「まだ何かあるんですか?」
「……自分は、女性が苦手なのです」
『知っている(知っていました)』
最後に二人の言葉が重なった。
「シドニア兄さまはそうした縁談のお話などは無いのですか?」
「無い事は無いが、私も今の所は全て断っている。アルハットこそ、若い女であるのだから、そうした色恋の一つ二つはあるのではないか?」
「残念な事に、皇族というのは象徴として男女関係に透明性が求められる存在ですから、容易に男漁りというワケにもいきません」
「……言えている」
ため息をつくシドニアは、しかしそこで面白い事を思いついたと言わんばかりに、サーニスを見る。
「サーニス、君はクアンタとお似合いではないか?」
「へぁ!?」
思わず変な声が漏れたサーニスに、アルハットが「ぶふぅっ!」と笑う。
「じ、自分があの無礼な娘と!? や、奴は宇宙人ですっ! そのような者と婚姻等と……っ!」
「いやいや、お似合いだと思うよ。君と対等に戦える女性というのは珍しい。互いに互いを高め合えるという点において、彼女は最適だと思うのだが」
「し、しかし……っ」
ムキになりながら反論の言葉を探ろうとするサーニスが、段々顔を赤くして照れていく様子は、シドニアにとっても新鮮で、クククと笑いながら「冗談だ」と打ち明ける。
「それに私も彼女の事は好きだからね。今の所、縁談の候補を上げるとしたら彼女が真っ先に上がるだろう」
「し、シドニア様、それはお戯れが過ぎます! あのような娘とシドニア様では不釣り合いです!」
「シドニア兄さまもクアンタの事が好きなのですね。イルメール姉さまもカルファス姉さまも何気にクアンタを気に入っているようですし、アメリア姉さまは愛いと仰っております」
「彼女ほど相手をしていて退屈しない女性もなかなかいないぞ。謎めいた女性というのはいつの世も男性に好意を持たれるものだ」
「あ、アレは謎めいた、ではなく『謎そのもの』です! それに奴は宇宙人ですよ宇宙人っ! ――あ、それよりリンナさんはどうです!? 教養は足りないかもしれませんが、しかし肝の据わった良い女性かと!」
「ふむん……確かにリンナも魅力的だとは思うな。よし、候補に入れよう。冗談だが」
ここまで動揺するサーニスは見ていて飽きないとするシドニアや、彼に付き合うアルハットの真意にようやく気付いた彼は、ハァとため息をつきながら僅かに浮かせていた腰を下ろした。
「見えてきましたね」
アルハットがリンナ刀工鍛冶場が近付いてくると、表情を僅かに引き締めた上で、サーニスとシドニアへ視線をやる。
リンナ刀工鍛冶場に就くと――。




