秩序を司る神霊-02
「まずは前提として何故私がお前たちに手を貸すのか、だ」
「神なのですから、我々人間をお救いする、という事ではないのですか?」
「阿呆かシドニア。いちいち神が人間を助けるかよ。そんな簡単に手を貸してたら、それこそ人間は堕落し、いずれ進化が停滞する。少しは頭を使え」
バカにしつつ副流煙をシドニアの顔に吹きかけられ、青筋を立てながらもカルファスに「シドちゃんどーどー!」と宥められる彼が「では、何故……!?」と怒りを内包した問いをする。
「私はクアンタにして貰いたい事がある。それがクアンタをこのブリジステ諸島に転移させた理由なのだが、それはマリルリンデという別のフォーリナーが存在する限り果たせない。
しかし、相対するお前たちは奴について、というより奴等の情報を持たな過ぎる。これでは非効率極まりない為、仕方なく私が干渉できる範囲で干渉してやる事にした、という訳だ」
「一つ質問、よいか?」
シドニアの部下であるサーニス、アメリアの部下である黒子たちもいない為、アメリアはクアンタが用意した水を飲みながら、手を上げた。
「ああ、どうぞ、アメリアさま」
「先ほど貴様は、愚弟を阿呆と小馬鹿にしておったが、しかし吾輩も若干解せん。
確かに人間というのは愚かしいものじゃ。宗教という麻薬に手を染める事によって、居もしない架空の存在を崇拝し、時には『神のお導きがいずれ在る』と信じて腑抜ける、度し難き愚図もおる。
しかしじゃ、今回の災い問題に関しては、民衆にも知れ渡っておらん、情報操作の行き届いた現状がある。その状態で神が暗躍して事態を収束したとしても、民草への影響は少ないじゃろうて。
むしろ事態を理解しており、この状態を良いと考えておらん貴様が、吾輩らに目もくれず、勝手に解決してくれていた方が、手っ取り早いのではないかえ?」
アメリアの言い分に、ヤエは「お前はやはり話が早い」と、先ほどまでシドニアを小馬鹿にした嘲笑ではなく、真っすぐに彼女の目を見て白い歯を見せたのだ。
「その通りだ。可能ならば私がさっさと事態を収束させた方がいい。お前らがこうして『あーだこーだ』と言っている間に問題を解決し『なんで何も問題が起きないんじゃ?』とするお前ら間抜け面を眺めた方が、個人的にも手っ取り早いし、楽しかったろうよ」
「先ほど貴様は『私が干渉できる範囲で干渉してやる』と言っておったな。――神さまとやらは、人間への干渉に制限でもあるのかえ?」
「少し違うが、近いぞ。私たち神霊は、先ほどのような物理法則を捻じ曲げる等の他、個々に特殊能力を持ち得ている。そしてその能力を持ち得るが故に、弱点に近い制約が存在する。
例えば私の後輩で『時を飛ばす能力』を持つ神がいるが、コイツの能力は『どれだけ時間を飛ばすか自分でも制御が効かない』という弱点がある、という感じだな」
「もしや貴様の持つ力とやらは『事態を把握できるが干渉範囲が限られる能力』――とでも言うのでは無いか?」
アメリアの言葉に、数秒返答が無い事が答えだった。
アメリアとヤエ、他者を挟む余裕などない口頭と目線同士の諍いは、腹の探り合いを超えた、腹の読み合いだ。
「その通りだよアメリア。――ムカつく程に正しい」
「貴様は自分の能力が持つ弱点を早々に見切られ悔しかろうがな、此方とて別に貴様が敵というわけではない。貴様の弱点が此方の弱点にならぬよう、理解しておきたいのじゃ。疾く申せ」
「アメリアの言う通り、私と同化する神霊【コスモス】が持ち得る特殊能力は『過去・現在・未来における状況を観察できるが、自身による干渉が出来ない』能力だ。
だからマリルリンデや災いという問題が発生した際、私は奴らの状況・情報を把握したが、それに関与する事は出来ず、またその情報を他者に伝える場合も制限がかかる」
「つまり、じゃ。貴様は事態をすべて把握しておる上、どう対処すれば良いかもわかっておるが、それを話す事は出来んというのじゃな?」
「少し違う。確かに話す内容に制限は生まれるが、話せないというワケじゃない」
もう一つよいか、とアメリアがそこで会話を、一旦止める。
「――憚っておらんじゃろうな」
「それは」
「目を見ぃ」
アメリアと合わせていた視線に、まぶたを閉じる事によって躱そうとしていたヤエに、アメリアは声のトーンを下げた。
故に、ヤエも毅然とした態度で彼女と目を合わせ続けた。
数秒、その時間、姉弟の間に会話も、雑音も無い。
「――良し。全てではないが、嘘はないな」
「す、全てですけどぉ?」
「否、今までの言葉に嘘があるとは言うておらん。まだ貴様には隠し事があるというだけで、これまでの内容に嘘は無いじゃろて」
「……一つ誤解を解くぞ? 私の隠し事は、クアンタにやらせたい事だ。それはクアンタ本人にも伝えていないし、伝える気も無い」
「マリルリンデや災いは、それに関係しておらんと?」
「間接的に関係するからこそ、奴らが蔓延っていては、クアンタにやらせたい事に支障をきたすだけだ」
「ふむん――まぁ、そこを『言いたくない』と申すのであれば良い。隠している事があるというのを隠さぬ輩は、信頼は出来んが信用は出来る故な」
続けるが良い、と言ったアメリアに、ヤエも少々やりにくそうな顔をする。
恐らく彼女は今までのらりくらりとした物言いで、ありとあらゆる追求から逃れてきた女だが、アメリアという知略策略、他者の嘘や隠し事に慣れた女は、そうした態度を取る者の真意をも見抜いてしまう。
そして、四人の姉弟は、そうしたアメリアの強みを理解しているからこそ、彼女にそうした追及を任せたのであろう。
「私が知り得、ある程度話せる情報は、三つ。
虚力と、マリルリンデというフォーリナーに関する情報。
そして、リンナさんと刀、災いに関する情報だ」
まず、と口を開いたヤエは、チラリと寝室へと目を向け、寝室で眠るリンナの寝息を確認する。目を覚ます気配は無いとしたのだろう。
「率先してリンナさんと災いに関する情報から話そう。コレは彼女に聞かれたくない」
「個人的に苦手だからではないのかぇ?」
「ち、違う。確かに怖いけど、べ、別に私の方が強いし」
「なら何故、恐怖心を感じるのですか?」
単純に疑問としたシドニアの言葉に、ヤエは「そこ聞くか……?」と答えにくそうにした。
「……いや、自分の中でも整理できてるわけじゃないんだが、信じる信じないは別として、神さまと知った上で私を怒った奴は……それも殺意とか無しに、ただ『叱りつける』為に殴り、怒鳴ってきたのは彼女だけだった」
「さっきのオレ達と何が違う?」
「お前たちは自分の立場が偉いとふんぞり返りながら、無礼者と喚くだけの輩にしか見えない。私は五百年近く生きているが、そんな奴ごまんと見てきた。
――だがリンナさんは違った。彼女は自分の立場とか、そういうのとは関係なく『大切な弟子であるクアンタを馬鹿にされ、それに怒るのは師匠として当然の事だ』として、私を怒鳴った。
そんな経験は初めてだったから、私も驚き、怖がってる……いや、少し尊敬しているのかもしれない」
喋りにくいと言わんばかりに語った内容をさっさと終わらせ、本題に入る。
「結論から言おう。お前たちが調べ上げた『災いに関する刀の伝承』は全て真実だ。
災いには、リンナさんの打った刀でしか、対抗できない」




