円卓会議(ちゃぶ台)-06
「この防衛策に関しては今後の被害を減少させる良い手と思う。そして実際にイルメール領にて行っている結果か、イルメール領は現時点での被害者数が少なく、報告に上がっている災い討伐数も五領土中でも一番高い。災いが出現しつつ尚被害数が減少しているという事ならば、コレを導入しない手はない。
だが問題は、サーニスの言う様に『皇国軍人や警兵隊の者が多く市内に現れる』という状況を領民に納得させる必要がある。領民の納得無しに事を進めれば、訝しみ今後の領土運営に支障をきたす可能性もあり得るのでな」
「隠蔽って、正直領民としてはあんまり気分のいい話じゃないんすけど」
リンナの言葉に、シドニアも「理解している」と一定の同意はしつつも、しかしそれにはアメリアが首を振る。
「よいかリンナ、人間というのは確かに隠し事を好まぬ生物じゃ。しかしじゃからといって、一領民にはどうにも対処しようもない問題を知れば、それによる動揺や混乱があり得る。そうした不安な感情は人から人に伝染し、やがては大きな問題に発展する事もある、いわば病原菌のようなものじゃ。領民が知らずとも被害を抑えられるのであれば、知らぬ方が良い」
「クアンタには事前に話したが、彼女はある程度理解してくれたよ。『領民の精神不安をもたらしかねない情報を、対処している上での隠匿という事ならば適切』だとね」
クアンタに視線を向けるリンナに、彼女も頷いた。そして、クアンタの言葉であれば、それは確かなのかもと、少々短絡的に考えるリンナを、しかし誰も責めはしない。
「そこで私から一つ提案が」
手を挙げたのはアルハットだった。彼女は一同に視線が集まるのを嫌ってか、僅かに視線を逸らしながら霊子端末を操作し、一つの表にも似た画像を表示させる。
「コレは?」
「以前シドニア兄さまがシドニア領を視察されている間の、災い被害数推移です。勝手ながら割合を作らせていただきましたが、お兄さまの視察が入る前と、入っている最中、そして現在における視察後で統計を取ると、やはり視察に入っている最中は災いが発生しても、領民に与える被害というのは少なくなります。つまり、警護の関係上で警兵隊と皇国軍が動くから、ですね」
割合で言えば、視察に入る前、災い対策が本格化する前が一番被害数が多く、次に警兵隊や皇国軍人が大っぴらに動くことの出来ない現状が二番目、三番目に視察中だ。
「つまり皇国軍や警兵隊が動く、正当な理由があればいいのです。そうすれば警兵隊や皇国軍人が町村に多く居たとしても警護の関係上で説明を付ける事が出来ます」
「なるほどねぇ、でもその正当な理由をどうしようかぁ、って話なんだけど、アルちゃんはそこに理由つけられる?」
「短期的なもので良ければ一つ」
クアンタとリンナを見据えたアルハットに、リンナが少しだけ息を呑む。
「現状では刀匠・リンナがマリルリンデと呼ばれる賊の狙いというのが仮説ですね」
「そうだ。故にリンナの護衛を多く付けなければならない」
「その刀匠・リンナと我々皇族による会談予定を組めば、その会談に対する護衛、及び護衛準備という事で、警兵隊と皇国軍を大っぴらに動かす理由にもなり得ます。あくまで短期間の解決策ですが、しばし時間は稼げますね」
「そのついでにリンナの護衛も行う、という事だな」
「ええ。警兵隊や皇国軍を、この刀工鍛冶場に多く配置するのも良いですが、しかしそれはそれで領民には違和感があるでしょう。『なぜリンナ刀工鍛冶場だけ、警備が厳重なのか』とね」
なるほど、とクアンタが顎に手をやるも、リンナは上手く理解できていないように、しかし理解できた所の疑問点があり、手を上げる。
「えっと、アタシってばそんな国賓として奉られるような偉い人間じゃないんすけど、そんな人間が五つ領主サマ達に会う正当な理由なくないっすか?」
「その通り。だから――私に一つ『コレはまさしく名刀だ』と言えるような刀を見せてくれないかしら?」
見せてくれるだけでいいわ、と言ったアルハットの言葉に、リンナは少しだけ考えた後に立ち上がり、納屋へと向かう。
施錠させられていた納屋にあった、一つの刀。
少し鞘は傷ついているが、しかしその刀身は間違いなく、一級品の刀匠によって打ち込まれた、至極の一刀。
リンナがそれを脇に抱えて戻り、アルハットに刀を差し出した。
「ウチの親父、ガルラの遺した遺作です。銘をつける前に死んだので、名は無いのですが」
「……コレは、確かに名刀、というべきなのかしらね。少し失礼」
立ち上がったアルハットが庭へ出て、自分の髪の毛を一本抜き、それを庭へと放り投げる。
ひらひらと風に舞う髪の毛に向けて、刃を抜き放ち、振りぬくと、髪の毛は綺麗に二分される。
二分されたにも関わらず――髪の毛は散らばる事なく、ただ合わせて地へ落ちたのだ。
「刀を扱いなれていない私にも、これだけ扱える刀。それに切れ味も良いし、触れた感覚から鋼の延ばしも非常に高精度で行われた事が分かる。コレは、間違いなく名刀ね」
「あ、ありがとうございます、親父も浮かばれるでしょう……でも、それは売るつもりとか、無くて」
「むしろ売られても困るわ。ここまでの名刀となると美術的、芸術的、そして歴史的な価値がある物として遺さねばならないから。
――シドニア兄さまやアメリア姉さまには、ここまで言えばわかるでしょう?」
シドニアとアメリアの目が合い、頷く。
そして二者もアルハットからその刀を受け取り、振り、眺め、ウンウンと頷くのだ。
「なる程のぉ、確かにコレは歴史的価値のある名刀じゃろうなぁ。知らんけど。吾輩は芸術品に詳しいのじゃ。知らんけど」
「確かに振り心地も良い、切れ味も先ほどの演舞を見る限り良いし、それに美しい。これは芸術的な価値を認め、指定するしかないな。
――この刀を【国宝指定文化財】に。そして現リンナ刀工鍛冶場を【指定文化保護機関】としてね」




