皇族、集結-04
丁度五分だ。またサーニスに文句を言われないよう、リンナの格好にも少々気を配りながら、寝ぐせのついた彼女の髪の毛を手櫛で軽く整え、ドアを開ける。
「待たせたな」
「あ、サーニスさん、おはようございます」
「……おはようございます、リンナさん」
またも顔を赤くしているサーニスに首を傾げたリンナ。クアンタは「聞いていたな」と小さく呟くと、彼だけは聞こえたようで、頷いた。
「えっと、ではシドニア様とアメリア様がお待ちですので、行きましょう」
「わかりました」
少し遅れた事を気にしているのか、率先して歩いていくリンナの後ろをついていくサーニスとクアンタ。クアンタに軽く肘をつき、視線がサーニスを向いた結果、彼は小声で問いかけた。
「その……クアンタとリンナさんは、そういう関係なのか?」
「そういう、とは?」
「お付き合いをしていたりとか」
「何が言いたいかはわからないが、お師匠と弟子の関係だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そ、そうか……では、まぁ程々に、適切な距離感を持って、清らかな関係を築きなさい」
「よくわからんが、了解」
そんな話をしている間に、シドニアとアメリアの待つ部屋に到着し、サーニスがノックをした事で『入ってくれ』とシドニアの声が。
「失礼します。クアンタとリンナさんをお連れしました」
「ありがとう。待機していてくれ」
それは人が数人座る程度では大きすぎる円卓だった。しかし一面に広げられた資料や本などが乱雑に置かれ、それを読み漁りながら目を細めているシドニアに、心配そうな表情で声をかけるリンナ。
「あの、シドニア……さん。大丈夫ですか? なんか、疲れてそうですけど」
「何、昨日から寝ていないだけだ。帰りの馬車で睡眠を取るので問題はない」
「睡眠不足は推奨しないぞ」
「君が情報を小出しにしなければ、私もここまで考え込まずに済むかもしれないのだがね」
「安心しろ、小出しせず情報を開示したところで、どうせ考え込むことになる。だから誤った考え方をしないよう、吟味した情報を与えているんだ」
「気遣いは嬉しいが、君はもう少し人間めいた思考をした方がいいよ」
「善処しよう。アメリア様は?」
「書斎から必要そうな過去の文献を持ってきている。少々待て」
とは言っても、待つことは無かった。
シドニアがそう言った三秒後には再び扉が開かれ、アメリアが「待たせたな!」と声を張り上げた。後ろには大量の書物を抱える黒子たちがおり、彼らが机に書物を置いた事で、話し合いの準備が整った。
「ではこの資料や書物に関しては、シドニアへ一任する。一冊でも無くせば賠償請求する故、気を付ける事じゃな」
「承知しておりますよ、姉上。――では、始めよう」
席に着いたアメリア。既に着席していたシドニアとリンナ、クアンタの四人が円卓に腰かけている事を確認しつつ、サーニスがシドニアの後ろに立った。
「まずクアンタ、これまで君の正体について、特に問う事は無かったが、これについて話すことは問題ないか?」
「今まででも、問われれば答えていた」
「そうか。ではまずそこからお願いしたい」
「了承。ちなみにお師匠に話した時は『長い』と言われてしまったが、手短に話した方が良いだろうか」
「君の正体、そして目的が分かれば長くとも短くとも問題は無い。頼む」
クアンタは二秒ほど、思考へ時間を回す。しかし隠す事も特にないので、淡々と説明していく事に。
「まず、手っ取り早く私の事を自己紹介するとすれば、宇宙人だ」
「……ほう」
シドニアが、それは想像していなかったと言わんばかりに表情を変え、顎に手をやった。読んでいた文献からも手を離し、クアンタの言葉に集中するという意思も感じられた。
「宇宙人だと? 宇宙人とは、あの、宇宙から来た生物、という事か?」
サーニスが流石にそれは理解できないと首を傾げながら、空に向けて指をさす。クアンタも頷きつつ、しかし端的に説明するため、彼の問いには深く返事はしなかった。
「流体金属生命体【フォーリナー】――それが、私の元々属していた存在の名だ。人類のような個々の存在を容認した、多様性を重視するモノではなく、フォーリナーという大本の全が存在し、そこから分離した先兵が私だ。
本来の私はフォーリナー全土の繁栄を目的として行動する必要があるものの、しかしこの星へとやってきた時から、フォーリナー本体との通信手段がなく、一つの個としての存在を確立した……という事らしい」
リンナとサーニスが若干頭にクエスチョンマークを浮かべていたが、しかしシドニアとアメリアは、理解が出来たように頷いた。
「なるほど――例えばそうであるという証明は出来るか? 流体金属生命体というのが何かはわからんが、そう名がついているという事は、元々君は人間としての体ではなく、そうした生命体としての姿を持つのだろう?」
「そうだな――では、失礼」
彼女は自分の胸に手を当てる。突然何をしているんだとギョッとするサーニスとリンナは放っておき、彼女はその掴んだ右の乳房を――もいだ。
「あああああーッ! オッパイが――っ!!」
「落ち着けお師匠。すぐ戻す。いや、邪魔だからこのまま失くしたい所ではあるのだが」
もがれた乳房。だがそのもぎ取られたはずの接続面からは血が流れる事は無く、ただ銀色の表面がそこにはあった。
そして乳房だったものは段々と形を崩していき、銀色の液体となって、再度変形を開始、今度は銀色の球体へと成り代わって、それを机の上に放り投げる。
「流体金属――簡単に言えば液体状の金属だな。自由変形と即時加工によってあらゆる形へ変化させる事が出来るし、ある程度は私の思考回路と接続して操作することも可能だ」
転がして、対面のアメリアへと向かっていった球体は、クアンタが手を伸ばすとそれに引っ張られるような形で、手に収まった。
「そしてコレを変形させ――」
球体が再び形を変えていく。今度は刃渡り一寸程度のナイフへと成り代わって、クアンタが軽く自分の腕を切り裂いた。しかし、その切り口からも、血は一切流れない。
「こうした武器とする事も出来る。以前『控えろ』と言われたこともあり、なるべく自前の武器を使用するが」
「驚いたな。個々の肉体に縛られる人類とは全く違う性質の生命体だ」
「じゃのう。例えば錬金術や魔術とて、大本の肉体――つまりは自己が存在し初めて成し得る術じゃ。自己の存在を無下にした術師はとんと聴かん」
なぜ二人はこうも冷静なのだとするサーニスとリンナを落ち着かせるため、今ナイフの形を乳房へと変え、先ほどもぎ取った胸へと押し付ける事で、元々の形へと戻らせた。
「ちなみに、あまり本筋とは関係ないかもしれんが、そうして乳をもぎ取ったり腕を切り裂いたりして、痛みは無いのかえ?」
「そこそこ痛いです」
「……そうかぁ。今後はそうした行為、控えて良いぞ?」
「かしこまりました」
本来はそうした痛覚なども作用しない筈なのだが、今は何故か作用している、とは言わなかった。今回の本筋は、アメリアの言う通りそこではない。




