感情-08
しかしそんな意気揚々としていたリンナも、黒子たちに案内されてアメリアの自室へと行き、ベッドの上でアメリアの来訪を待っている間は、借りて来た猫のようにおとなしく、また顔を真っ赤にしながら正座でプルプルと震えていた。
「お師匠、体調でも悪いのか?」
「ち、違う……っ、き、緊張して……っ」
「ふむん、交わるとは緊張するものなのか」
クアンタもリンナに倣って正座で待つこと数分。
黒子に扉を開けられ、姿を現したアメリアは――なんというか、下着とも、紐とも言えるような、そんな大胆な着衣を身にまとって、その胸と秘部だけを隠しながら、ペロリと舌なめずりをした。
顔を真っ赤にしながら、足を崩しクアンタの手をギュッと握ったリンナの姿を見て、より興奮したように手をワキワキとさせたアメリアは、笑みを見せつつも「緊張するでない」と安堵させるように、優し気な声を上げる。
彼女たちがいる、キングサイズベッドに身を乗せたアメリアは、クアンタとリンナの肩を軽く押し、ベッドに倒れさせる。
二者の間に僅か、一人分程度の隙間を作り、自分がその隙間に入り込むことで、互いの体に触れやすい状況としたアメリア。
クアンタの腹部に右手を、リンナの尻に左手をやり、撫でる彼女の手付きは、少しだけこそばゆいけれど、リンナが思わず身体を僅かに震わしてしまうほどには、快楽があったように思う。
「ふふん、愛いのぅ、愛いのぅ。リンナはこういう事に慣れておらん……いや、初めてかえ?」
「ひゃ、ひゃい……っ」
「安心せい。女同士は凄いぞ。そりゃあもう、乱れる事が出来る。下手な麻薬よりも規制すべきもんかもしれんぞ」
クアンタの着る肌着、その胸の谷間と肌着の間に手を入れこんで、彼女の持つ乳房の柔らかさを感じつつも、リンナの耳元で声を囁くアメリア。
一言一言の度に顔を赤くするリンナの姿が本当に初物を頂いているのだという感覚を覚えて、より興奮するアメリアではあったが。
「あ……あの、アタシ……っ、は、初めては、その……っ」
「ん? 吾輩とでは、気が乗らんとでもいうかえ?」
「そ、そういうわけじゃ、無いんですが……」
チラリと視線を僅かに横へズラすリンナの目線が、クアンタの目線と重なった。
そうして顔を赤くした彼女を見据えたアメリアは、少しだけトーンダウンしたように二人から身体を放し、近くにあった椅子へ堂々と腰かける。
「ならばまずは二人で交われば良い」
クアンタとリンナの事を指さしたアメリアの言葉に、リンナがギョッとクアンタへと視線をやり、クアンタは僅かに首を傾げたものの、続けて放ったアメリアの言葉を受けて、首を戻す。
「吾輩は二人の情事を見させてもらい、興奮を高ぶらせて貰うとする。クアンタ、お前はどうじゃ?」
「……命令という事ならば、それに従います」
共に横たわるリンナの柔肌をぎゅっ……と抱き寄せ、その豊満な乳房に彼女の顔を埋めさせたクアンタは、彼女の耳元で、囁く。
「私は、こうした行為の方法も、意味もわからん。……お師匠に委ねる」
「く……クアンタ、いい……の?」
「私にとっての良いも何もない。お師匠に委ねるのだから、私の身体を好きにすればいい」
クアンタの言葉に偽りはない。
何せ彼女はこうした交わりについて、意味も、理由も、方法も、何も知らないのだ。
アメリアが先ほどまでクアンタの胸を自由に弄んでいたことから、そうした身体同士による何かであるとは分かっているのだろうが、しかしこれから何をするのか、何をしなければいけないのか、そうした事もわからない。
彼女の言葉を受けて、リンナは思わず彼女の胸から顔を離し、クアンタの肩に手をやって馬乗りになる。
まるでクアンタをベッドに押し倒したような格好となったが――しかし、そこで頭が真っ白になった。
(え、え、え、大丈夫? アタシ今クアンタの身体を自由に出来るっていってもこの子アタシの弟子よ!? 弟子に手ぇ出しちゃうってお師匠として一番やっちゃいけない事なんじゃないの!?
でもこの子の大きい胸、いつも見てたけどマジでデカいんだよなぁ……アメリア様の胸もデカいけどあっちは身長と体格に見合った大きさというか、でもこの子の場合は身長こそアタシよりデカいけど体格としては華奢だからデカい胸がより強調されてるというか……。
う、うん。よく考えろアタシ。この子は宇宙人で、元々チキューって所を侵略しに行って、アタシ達と似たヒトの形を模したもの、ってこの子も神さまも言ってたわけじゃん? つまりそう言う事に関して、ヒト様の常識を教えてあげるのも師匠の役目ってわけじゃないの?
ああ、でも普通常識と言ったら男女によっての行為なわけだし……ん、アタシは自分の事を男だと思ってるから別にいいのか? んー、認めたくないけどアタシ身体は女だしなー……胸は無いけど)
興奮どころか困惑の方が強くなってきて、けれど目の前には豊潤な肉体が寝転がっていて、好きに出来るという非現実感が彼女の心をより乱していく。
リンナの姿に少し、まどろっこしいとでも感じたのか、アメリアがアドバイスを一つ。
「リンナ、考え過ぎじゃ。素直になって、その娘を抱きたいと思うかどうかで行動せい」
背後よりかかる声に、リンナが震えながら「でも……っ」と声を漏らすと、リンナの頬に手をやる、クアンタ。
「お師匠に委ねる。考える事も重要だが、しかし、アメリアの言う通り、感情のままに行動する事も、時には重要なのだろう」
「……アンタには、感情が無い、のに?」
思わず、出てしまった言葉。
クアンタは、この星の、というより人間ではない。
人間の姿を模っただけの、宇宙人だ。
だから感情を持たないと言っていた。
だからこうした情事についても興味を持てない、持つ必要が無いのだと、リンナは考えていたのに。
「少しずつだが、感情を認識している。先ほどのようにな――そして、他の誰でもない、お師匠に抱かれるのであれば、気分が高まる、とでもいえばいいか」
クアンタの、何時ものように無表情――しかし、顎を僅かに上げ、まるでキスを待つように、目を閉じた動作を見て。
こうした行動の節々に、彼女の感情が僅かながらに垣間見えた気がした。
(ええい、ままよっ)
リンナは、そう心中覚悟を決め、クアンタへと手を伸ばし、今まさに彼女の乳房と秘部に襲い掛かってやろうとするも。
「――っ、お師匠!」
リンナの肩を強く押し、彼女の身体を付き飛ばすクアンタ。
突然の出来事に思考を働かせることが出来なかったリンナだったが、続けてクアンタが近くの窓に向けて駆け、拳を強く振り込んだ。
窓ガラスの向こう側。
そこには、何か黒く、よく見えない物体があった。
ガシャンと音を奏で、割れる窓ガラスと、窓ガラスにへばりついていた何かが、へばりつく場所を失ったように地へ落ちていく光景を、アメリアとリンナアも見届ける。
「アメリア様っ!」
「リンナは任せよっ」
パンパンと強く手を二回叩いたアメリアの動作に、天井から突如姿を現した三人の黒子。
それがリンナの手を優しく引き、アメリアの腰かける椅子にまで連れていくと、近くにあった刀をアメリアへ向け、それに彼女が頷いた事で、黒子がクアンタへ刀を投げる。
そちらに視線をやる事なく、刀を受け取ったクアンタ。
「アメリア様、よろしいでしょうか」
「本来ならばお主も護衛される立場ではあるが――まぁ良い、行ってこい。しかし、無事に帰ってくるのじゃぞ」
「かしこまりました」




