アメリア・ヴ・ル・レアルタ-08
「君はこの領土における体制をどう思う?」
「意味が伝わるかどうかは不明だが、社会主義・共産主義国家、と言った風に捉えられる」
「共産主義か、確かにな。だが総じて共産主義国家の殆どは繁栄なく国力低下をしていく事が多い中、姉上はそれこそ『領民一人ひとりの徹底管理』によって、平等な領土運営を行っている」
「指導者による所が大きいと?」
「まぁ、そう言わざるを得んな。事実、奴が領主に着任してからのアメリア領土は、非常に安定した運営によって領民の幸福度も高い。
もし労働中の事故等によって働けなくなった場合でも、それまでの労働記録と照らし合わせた福利厚生を受けられ、生命の保障がされているという点も大きいな。
こうした絶対労働主義は、裏を返せば労働に対する対価が無ければ破綻は見えているが、その対価を惜しみなく払う事によって、不満を軽減させているのも強みだ」
「だが人間と言う存在は、多くが自由を求めたり、自分の才覚によっての職業選択を求めるものではないか?」
「そこが、このアメリア領という地の恐ろしい所でね――先ほど、技術実験保護地域の話はしただろう。ああした技術発展の結果、この国は『生まれてくる子供たちの適正職種の判断』が非常に高精度となっている。
この結果によって成長後に割り振られる労働内容が異なってくるんだ。その為、領民のほどんどは自分に適した職務を当てがわれ、少ない不満の労働に従事できる、という事だね」
「アメリアの采配と言うより――その技術力に驚きだな」
呟く言葉は彼女の本心だった。
例えば生まれる前の遺伝子に調整を施した改造人間ともいうべき黒子たちの生産にしたって、そもそも卵子だけを用いた外部出産技術、そして今話に出た適正職種判断等、この国はクアンタが元々降り立った地球よりも遥かに高い技術が発展している事になる。
しかしそれにしては、アメリア領だけでなくシドニア領にしたって、生活基準が遅れているようにも感じる。
(……そう、チグハグなんだ)
クアンタは外宇宙生命体・フォーリナーとして、これまで数多の銀河系で発見された有機生命体の知識も有している。
中には地球や、このブリジステ諸島に住む人間に近しい有機生命体も存在した。
だが、科学や化学の発展に関しては、大抵の場合がその世界の生活力と比例している事が多い。
それこそ人々の生活を良くする為の家電やデバイスの発展、効率良く戦争を消費する為の兵器システム、情報収集ツール……それらは技術力の発展と比例して展開されていく事が多い筈だ。
にも関わらず、このレアルタ皇国という国では「科学・化学技術の発展こそ著しいが、その発展した技術を領民生活に反映させていない」ようにしか思えないのだ。
それ程に化学技術が発達している世界ならば、それこそ馬車でなく自動車の開発が行われていてもおかしくないし、かと思えば動力こそ魔力ではあったが、食料保存庫――冷蔵庫の様な物は発展している。
コレをチグハグと言わず何というか。
「私は君が何者なのかを知らん。私から詳しく聞き出そうとも、今は思わない」
シドニアの言葉に、クアンタが僅かにピクリと動いた事を、彼は見逃していない。
茶を飲みながら、彼は挨拶する領民に笑顔で手を振りながら、しかし言葉は止めない。
「だがこれだけは言える。君の持つ知識と言うのは、リンナ刀工鍛冶場という場所で働くには過ぎた知恵だ。
それを活用したくば、私の下で働いた方が良いし、もしリンナさんの下で働きたいというなら、大抵の知識に対して『見て見ぬフリ』をした方が良い」
「……シドニア、一つ聞くぞ」
「何だい。大声では言えぬ事のようだね」
「レアルタ皇国の全教育機関では『教育統制』が行われている――違うか?」
「ふふ……まぁ、黙秘するとしようか」
そう言った彼の表情は、今にも高笑いしながら腹を抱えたいとでも言いたげな、何か含みのある笑顔だった。
クアンタはため息をつきながら、今茶屋へと到着したリンナを出迎えた。
「なんかこの村、メッチャお爺ちゃんとお婆ちゃんだらけじゃんって話をサーニスさんとしてたら遅くなっちゃった。アタシらもお茶頂いていいの?」
「お、リンナ遅いではないか! どれ吾輩の隣にでも座って近う寄れ寄れ!」
「サーニスはリンナさんとは仲が良いみたいで何よりだ」
「いえ、彼女はクアンタ程に破天荒な娘さんではないので、話しやすいだけです」
リンナとサーニスの遅い来訪によって、シドニアとの内緒話が終わってしまう。
「? クアンタ、アンタ少し落ち込んでいるように見えるけど……なんかあった?」
「え」
リンナが、少々心配だと言わんばかりにクアンタへ寄り、首を傾げながら顔色を伺うようにした。
「風邪とかじゃないよね? 結構長い時間馬車に乗ってたし、酔ったとか?」
「いや、大丈夫だ。……それより、落ち込んでいるように見えただろうか?」
「アタシも、何となくそう思っただけなんだけどね」
勘違いなら良かったよ、と笑いながらクアンタの頭を撫でたリンナに、少しだけ気分が晴れた気がして、彼女へ短く「ありがとう」と礼をする。
「さて――では今来たばかりのリンナとサーニスは、ここで少々休憩の続きをしておれ。吾輩とシドニア、そしてクアンタは別の場所に行くぞ」
「どこへ行くというんだアメリア」
「クアンタ!? アンタ、アメリア様まで呼び捨てタメ口!? 超不敬じゃんよ!?」
「良いのじゃリンナ、それは吾輩が許可した故な! と、そんな場合では無かったの」
行くぞ、とクアンタの手を引くアメリアに付いていく形で、シドニアがリンナとサーニスに声をかける。
「少々、警兵隊の視察に。クアンタをお借りいたします」
「ん~……クアンタがいいなら、別にいいですけど、アタシが行っちゃダメ、なんですか?」
「事情がありまして。――サーニス、彼女を頼む」
「ハッ」
少々不満げのリンナを残しつつ、向かう事になった村の外れにあったのは、確かにシドニアがいった通り、警兵隊支部室であった。そこでようやく若い男性の姿を見て、警兵隊は通常の人員を配置しているのだと知る。
複数人の警兵隊に敬礼されつつ、指示に従い支部室の先に進んでいった結果――隔離された部屋に辿り着き、開け放つ。
「……コレは」
無数のシーツが敷かれ、綺麗に列を形成して横たわる、数多の老婆。
全員が僅かに呼吸音だけを放ち、動きも僅かに胸元が上下する、呼吸の動きのみ。
内の一人へ視線を向けると――表情は虚ろにして、涎を垂れ流していた。
「感情が……というより、自我が無い?」
「その通りだ。そして――馬車でした話をまとめよう」




