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侵略-10

 空戦フォーリナーを殴りつけて、その腕にまとわせる炎にて、少しずつ流体金属を蒸発させていく餓鬼。


彼女の炎も虚力によって形作られたものだ。故に、フォーリナーを破壊する為に必要な力は備えられている。


バキバキと音を立て、砕けていく空戦フォーリナー。餓鬼はそのまま空中に足を付き――アルハットへと向き合った。



「……おっす」


「……ええ」



 近付き、挨拶をした二者。何といえばいいのか、互いに思いつかないとして、僅かな沈黙があったけれど。



「お姉ちゃんたち、すっごーいっ!! お空とんでるーっ!」



 小さな女の子が、バルトー国国境線付近から、上空にいるアルハットと餓鬼に向け、笑顔で手を振る光景が見えた。


女の子を見据えると、餓鬼は僅かに笑顔を浮かべた後、手を振り返しながら、アルハットを再び見据え直す。



「……餓鬼。手伝って、くれるの?」


「か、勘違いしないでよ? アタシは、人間を守る為じゃなくて、あの子を守る為に」


「あの子も人間じゃない」


「ぐ……っ」



 顔を赤くして反論の言葉を探そうとする餓鬼に、どこか可笑しな感覚を覚えたアルハットが、思わず噴き出した。



「わ、笑うなしっ!」


「ご、ごめんなさい。……でも、良い事よ。守るべき、大切な人が近くにいるのは」


「……うん、まぁ……悪くない、ね」



 二人の言葉は、本音から出た言葉だ。


今の餓鬼は、人間の女の子と、平和に暮らしている。


餓鬼をお姉ちゃんと呼び、無垢な愛情を振り撒く彼女の感情から虚力を受けて生き永らえる餓鬼は、災いという存在の在り方からは外れてしまったけれど、ならばアルハットが彼女を率先して排除する理由はない。


むしろ、今はそうした彼女の存在が、とてもありがたい。



「お願い餓鬼、手伝って。……あの子を守る為に」


「……しゃ、しゃーない。手伝ってあげよっかな。で、でもアタシ、アメリアの事は謝んないからね!?」


「別にいいわよ。アメリア姉さま生きてるし」


「……へ? マジで?」


「マジよ」



 また沈黙はあったが、しかしそこで、バルトー国へと迫ろうとする空戦フォーリナー及び、アルハット領へと落下していくフォーリナーを識別。


空戦フォーリナーに向けて熱線を放っていくアルハットが、餓鬼へ「地上の方をお願い!」と指示を出す。



「ちゃんと働いて事が上手くいったら、アルハット領にあの子と一緒に住める家と、仕事も斡旋するから!」


「……ホント?」


「ええホント!」


「……後、もう一つ」


「何!?」


「……ナルのお母さんが、どこにいるとか、調べてくれるんなら、やるけど」


「あの子のお母さんなら、今バルトー国デンタリウス市で働かされてる! 後で回収できるように手配するわ!」


「ちょ、なんでそんなすぐ分かるの!?」


「この星で起こってる内容は全部閲覧できるから! コレで信じてくれるでしょ、さっさと行ってっ!」



 背中を強く押され、アルハット領の地へと落ちていく餓鬼。


彼女も最初こそ、色々と考えていたようだが――深く考える事が苦手な彼女は、やがて吹っ切れたように笑みを浮かべ、その両腕に炎を纏わせ、迫るフォーリナーの軍勢を見据えた。



「ったく、しょうがないなぁ――お前ら全員、ブチ燃やすッ!!」



 駆け出していく餓鬼の内部に貯蔵されている虚力量は多いと、アルハットにも見抜く事が出来る。


彼女はこれまでの時間を、ナルと言う少女と過ごす事で、多く彼女から愛情を受け取ったのだろう。


そして餓鬼も、そうして受けた愛情の分――ナルの為に、ナルのお姉ちゃんとして、生きていく事を決めたのだ。


そんな彼女が、愛を知らぬフォーリナーに、負けるなんて事はあり得ない。



「さぁ――お膳立ては全て整ったわ」



 冷却を終わらせたアンリミテッド・コードを再射出。空戦フォーリナーを相手に一歩も引かぬアルハットは。


一歩一歩、自分の足で空を駆け、今リュート山脈上空を目指して走る少女の姿を見据えるのである。



**



高出力の虚力を用いて簡易的な力場を発生させ、空中を歩くという術は、一部の姫巫女によって編み出された戦術だが、その戦術を本能的に察したリンナは今、空を走っている。


その手に持たれる長太刀・滅鬼で、迫りくる空戦フォーリナーを相手にし、一薙ぎで落とす事に成功した彼女は、その破片に目をくれる事無く、フォーリナーの大本を目指していく。



(クアンタ……クアンタッ!)



 リンナの行く末を阻もうとする空戦フォーリナーは多い。しかし、その幾多にも彼女へと襲い掛かろうとするフォーリナーを、落とす女性がいる。



「リンナちゃん、ファイトーッ!」


「私たちが守ってるから、安心してクアンタちゃんを迎えに行って!」



 カルファスの軍勢だ。リンナが見る限り、数十基は存在し、リンナは同じ外見の人達が沢山いる状況に、思わず苦笑してしまう。



(アタシたち、これまで色んな事があったよね)



 空まで届く、色んな人たちの感情が、リンナの瞳に涙を浮かばせる。


戦う力の無い人々を守る為、必死に刀を振るう警兵隊員や皇国軍人達の、恐怖に侵されながらも立ち向かう高尚な決意。


力無く、逃げ惑いながらも、しかし皇族や警兵隊員、皇国軍人に勝利を願う、レアルタ皇国の人々が抱く、恐れと希望。



(アタシが初めて、アンタに会った時……すっごく綺麗な姉さんだなって思ったけど、アンタはヴァルブの私兵をぶん投げて、ただ綺麗なだけじゃなくて、強いんだって見せつけてくれた)



 アメリア領皇居へと次々に射出され、襲い掛かるフォーリナーの軍勢を相手にする皇国軍人達と、彼らの戦闘に立ち、戦うカルファスとサーニス、そして今、ワネットが戦線に加わり、フォーリナーの軍勢は次々に討ち倒されていく気配も伝わった。



(親父の刀が、ヴァルブに盗られそうになった時、アンタは無い筈の感情を震わせて、怒ってくれた。いや、頭撃たれて死ななかった時はビックリしたけど、本当にカッコよかったよ)



 応援に来た皇国軍人達を指揮しながら、必死に応戦するシドニアの、誰一人犠牲にしてなるものかという、優しい熱意が。


そうして戦う彼らに、戦う事が出来ぬからこそ、戦況を見据え、一人でも多くの人間を救う為に知恵を回す、アメリアの決意も伝わってくる。



(それから、シドニアさんや、アメリア様、皇族の人達と会って、災いと戦って……そうしている内に、クアンタはちょっとずつだけど、笑うようになったし、悲しむようになったし、色んな感情を手にしていったよね)



 上空で幾多のカルファスを援護するように、豪鬼が重力操作を行う姿も目に入った。


彼はリンナを見ると、少しだけ複雑そうな表情を浮かべたけれど――しかし前を見据え、カルファスと共に空戦フォーリナーを殴りつけた。



(アタシが魔法少女になってからは、アタシを戦わせないように、頑張ってくれた。一時感情を無くしちゃった時も、それでも根底は変わらず、アタシの事を心配してくれてた。……アタシ、アンタへの気持ちに、あの時初めて、気付いたんだ)



 アルハット領に迫るフォーリナー達に、単身で立ち向かう餓鬼。


彼女は共に生きていこうと決めた少女を守る為に、災いという立場から脱して、人間を守る為に、戦ってくれている。


その根底にある熱意を、誰かに温もりを与えたくて、炎を灯せるようになりたかった餓鬼が、人間を守る為に炎を振るうのだ。



(クアンタはこの星で……この世界で、責任感が強くて、ちょっぴり臆病な女の子になっていった。……それでクアンタが苦しんでる時、アタシは何もしてあげられなくて、ゴメンね)



 リンナの傍にまで、アルハットが接近する。


彼女へ迫ろうとしていた空戦フォーリナーを、背部の羽から伸びる熱線で焼き払ったアルハットは――リンナの手を引き、強く彼女を上空へと放り投げた。



「リンナ、お願い――私の分も、クアンタに気持ちを、伝えてきて」


「……うんっ!」



 放り投げられた身体を制御し、空中で留まったリンナは、フォーリナーの大本を眼前に捉えた状況で、ゆっくりと立ち上がり――胸に手を添えた。



(……昨日、アタシ言ったよね。アンタに、アタシの気持ち、ちゃんと伝えるって。……こうして色々ゴタついちゃったせいで、全然気持ちの整理なんか、出来てないけど……それで良いよって、アルハットも、神さまも言ってた)



 心中に宿る、大きな気持ちを放出するかのように、リンナは虚力を解き放った。


その膨大で、温かな虚力は、空戦フォーリナーどころか、地上で兵を相手取るフォーリナーでさえも、思わず動きを止めてしまう程の高出力で、空戦フォーリナーは彼女が一番危険人物であると即時断定、カルファスやアルハットから離れ、彼女へと一斉に襲い掛かった。



勿論、二者もそれには気付いた。


故に追撃は止めなかったが、何せ数が多い。


幾数の空戦フォーリナーがリンナへと迫り、その侵攻を止める術もない。



――それでも、リンナは決して、フォーリナーの大本から、目を離す事は無い。



彼女は、信じている。


自分を助けてくれる人が、まだここにいる事を。



「流石、リンナさんの肝っ玉のデカさには、流石の私も縮こまるよ」


「全く、何故俺まで。アメリアを救うだけが条件だったろうに」


「ボヤくなよ、シンの同化体」



 パチンと、指を鳴らす音と共に、リンナの周囲に爆発が舞った。


その熱に焼かれ、幾つかの空戦フォーリナーが動きを止める。朽ちはしなかったが――しかし、トドメを刺す役割は、別の者が担った。


リンナの刀を二本、その手に握りながら。


空を駆け、リンナの眼前にまで迫っていたフォーリナーを切り裂いた人物。


小袖と無精ひげ、その逆立てた髪の毛を僅かに揺らしながら、リンナへと目を向ける、一人の男。



「――よう、バカ娘」


「来るって、信じてたよ。バカ親父」



 男――神霊【ブレイド】とかつて同化していたが、今は神霊の因子を断ち切られた結果、普通の人間となってしまった、リンナの義父・ガルラ。


彼は、空を駆けた先で着込んでいる小袖の襟を菊谷ヤエ(B)に掴まれ、空中に浮遊する。



「おうコスモスの同化体! もぉちっとまともに運べねェのかっ!?」


「贅沢言うな元パラケルスス、現一般人。ていうかなんだあの刀。神霊の因子断ち切るとかヤベー性能。それを何でリンナさんにブッ壊させちまうんだ。私も伊吹も死に損なったじゃないか。使えない奴め」


「ああ。君が作った刀さえあれば、俺も神霊の因子を断ち切って死ねた筈が。使えない奴め」


「オメェ等ヒデェなッ!?」



 リンナに隣接する形で、近付く男がいる。


男の姿に見覚えが無かったので、リンナが首を傾げると、男は不敵な笑みを浮かべて、リンナへ手を差し出した。



「やぁリンナ。俺は成瀬伊吹。この世界の創造主だよ」


「……アンタがクアンタをイジメたヤツ?」


「なんでみんな、俺がクアンタを虐めた扱いなんだ。アレはBに頼まれたから事実を伝えただけで」


「後で一発、ぶん殴るから」



 ぷい、と顔を逸らしたリンナと、やれやれと言った表情で苦笑する伊吹は、それぞれ別の方向を向く。



「こんな三流小説のような方法で、フォーリナーがどうにか出来ると思えないのだがね」


「黙ってろ伊吹。――お前にも、愛の素晴らしさを見せてやろうじゃないか」

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