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母親-05

 と、そんな二者の会話へ割って入る為と言わんばかりに、シドニアが入ってきた出入口から二者が。


そして、どこからか青白い光がバチバチと集結するように、訪れた男が一人。



「その話、吾輩らも共に良いかの」


「アァ――オレもイロイロ聞きてェな、ルワン」


「っ、姉上、サーニス……マリルリンデ……!?」


「シドニア様、アメリア様を少々頼みます」



 ゴルタナを取り出しながら刀を抜き放とうとするサーニスと、彼へ笑みを浮かべるマリルリンデの視線が交わった瞬間、ルワンが「やめて」と声を上げて、止めた。



「……久しいわね、マリルリンデ」


「オォ、マジで二十年位会ッてねェからナァ」


「話は少しじゃが、聞こえておったわ。……ルワン、主はリンナの母でもあったのじゃな?」



 今まで物陰から伺っていたと話すアメリアが、シドニアに隣接するように立つと、彼女もコクンと頷いた。



「アメリアちゃん、どこから聴いていた?」


「主がミクニ・バーンシュタインとかいう男と交わり、リンナを産んだという話辺りじゃが、それだけで大体の予想はつく。


 大方二十年前に発生した謎の病は災いの仕業で、主はそのミクニ・バーンシュタインとかいう男と刀匠・ガルラ、そして先ほどの反応からしてマリルリンデと協力して戦っておった、という所じゃろうて」



 話を頭の中で整理させ、一つ一つのピースを埋めていくように、彼女が語る内容に誤りはない。本当に先ほどから聴いていただけなのかを疑いたくなる程に。



「吾輩は主と会うのは初めてじゃのぉ、マリルリンデ。吾輩の事は分かるかえ?」


「アメリア。ていうか、オメェさんの事は幼名・ルーチカの頃から知ッてるゼ? オレやそこのルワンが主に戦ッてたンはよォ、オメェさんの生まれ育った、このアメリア領だ」


「なるほどのぉ。じゃが一つ分からん事がある。……主、ワネットと戦っておったはずじゃろう? まさかとは思うが、ワネットはもう殺したと?」


「まさか! あんな激ツヨ姉ちゃん速攻で殺すなんて無理無理!」


「では今、目の前にいる貴様は何だ?」



 サーニスが刀をチラつかせながら問い、マリルリンデが耳の穴に小指を突っ込みながらも「分離体さ」と言い切った。



「カルファスみてェなコピーじゃねェ。オレの能力値を半分にした、純粋に分離した身体だヨ。……まぁ、だからワネットと戦っておるオレァ、半分の力で戦ってるってワケだ。その内撤退するヨ」


「つまり今の主も、半分の力しか有していない故に、討伐は容易という事じゃな?」


「ま、そーいう事にゃなるガ……ルワンの話を詳しく聞かせてくれンなら、オレも色々質問に答えてやンよ。カルファスやアルハットにも色々教えてやッたンだぜ?」


「貴様は敵だ」


「そォだな。だがテメェ等が目先で気にしなきゃならねェ敵は災い……五災刃だロォ? オレァ別に、五災刃がどうなろうが知った事じャねェ。アイツらが生きてるなら利用するし、死んじまったら別の奴らを利用するだけサァ」



 マリルリンデへと刀を抜いたまま、サーニスがアメリアへチラリと視線を向けると、彼女はため息をつくと同時に頷き「良いじゃろう」と、彼の同席を認めた。



「しかし、嘘は許されんぞ。吾輩は嘘には敏感故な」


「フォーリナーのオレがつく嘘を見抜けるッてか?」


「主程度の感情表現であれば、シドニアでも見抜く事は可能じゃろうよ」



 良いな、と言わんばかりにシドニアへと視線を向けたアメリアに、シドニアが頷く。



「……傍聴人が増えてしまったわね」


「構わんのじゃろう?」


「ええ、問題は無いわ。……そもそも、私の願いはそう長いお話しでもないのだから」


「ナラ、オレが先に質問いいか?」



 手を上げ、先にと強調するマリルリンデに、全員が注目する。



「オレが聞きてェのは、ルワンの語ろうとしてる事にも繋がるかもしれねェ。だが、どうにも分かんねェんだァな。――なんで、シドニアの誘拐なんざしようと思った?」



 それは、シドニアが父であるヴィンセントを殺す前日に、ルワンがシドニアを誘拐しようとした結果、失敗し、こうして投獄された、その根本にある理由を問うている。


そして――その問いに、シドニアが口を開けようとする寸前、ルワンが「簡単よ」と彼の発言が行われるよりも前に言葉を放ち、遮る。



「リンナへ、シドニアがお兄ちゃんなのよって、会わせてあげたかっただけ」


「……ふぅん。にしては、シドニアの態度が微妙だがな」



 マリルリンデの言うように、今の話題になってからシドニアの態度は姉であるアメリアから見ても違和感があり――そして、アメリアはルワンを見据えて思わず「マリルリンデの言う通り、嘘じゃな」と、断言してしまった。



「ルワンよ。何故嘘をつく?」


「……嘘ではないわ」


「いいや、目の動きで分かるぞい。主、僅かにじゃが右目が泳いだ。それに加えて左手の指も、ピクリと一瞬じゃが動く癖があるようじゃのぉ」


「嘘をつく理由なんて、私には無いじゃない」


「そうかもしれんのぉ。……そう、主にはないやもしれん」



 じゃが、と。


アメリアは、今隣に立ち、表情を俯かせている、弟のシドニアへ肘で突く様にして、僅かに身体を揺らす。



「嘘つく理由があるのは、シドニアの方じゃな」



 ルワンも、シドニアも。


押し黙って、答えない。


シドニアは何と言えばよいのか分からないと言わんばかりに。


ルワンは、バレてしまったと言わんばかりに。



「ずっと、おかしいと思っていたのじゃ。そもそもルワンはシドニアに対して、あまりに無関心じゃと思っとったが、それは姫巫女である主に、皇族の子がおる事を災いに知られるわけにはいかんという考えであったのじゃろう?」


「……ええ。シドニアには語ったけれど、元々シドニアの育児を乳母に任せたのは、姫巫女としての戦いに集中し、皇族に目を向けさせない為であったから」


「主はそうしてシドニアが十七になる前日まで放っておいたわけじゃ。つまり、ヴィンセント殺害という父殺しの前日じゃの。


 ……吾輩は確かにシドニアへヴィンセントを殺すように唆した。じゃがその計画は、吾輩とシドニア以外には、サーニスやワネットと言った側近連中どころか、アルハットやカルファスにも語っておらんかった筈じゃ。


その前日に、シドニアの誘拐騒ぎ……これは果たして、偶然であるんかのぉ?」



 言葉は、既にルワンへ語られる言葉ではない。


シドニアに向けて放たれていて――彼も、もう言い逃れる事は出来ぬのだと、諦める様にため息をつくと、ルワンへ笑いかけた。



「ああ――そうだよ、逆なんだ。



 母さんが、()を誘拐したんじゃない。



()が、母さんを誘拐したんだ」

 


**



アメリア皇居内には運動部屋と呼ばれる特殊な場所が存在する。防音効果の高い室内に用意された筋肉トレーニング用の機材が用意された部屋で、アメリア領へ視察及び来賓を行う事が多いイルメール用に、イルメールがアメリアへ作らせた部屋である。



「千九百九十七、千九百九十八、千九百九十九、二千!!」



 イルメールが身体を逆立ちさせている。ただの逆立ちではない。左手は背中へと回し、右手の人差し指だけで身体を支え、バランスを保ちながら右腕の屈伸運動を行う。


サーニスやシドニアにやらせる時は二百回程度に留めるが、今のイルメールは二千回行った所か、その足に馬十数頭分の重みがあるバーベルを乗せながら行っている。



「ふぅ! 準備運動終了!」



 キラキラと輝く汗を綺麗な布で拭きながら、彼女は容器に入った水を頭からかぶり、気持ちよさそうに顔を振る。汗が水と共に流れていく感覚が好きで、こうしたトレーニングを行っていると言っても過言ではない。


彼女は準備運動と称したそのトレーニングを終えて部屋を出ると、アメリアがいるであろう会議室に向かったが、誰もおらず、何であれば何故か叩き割られた窓があって、敵襲か何かかと首を傾げるも、敵がいる気配がない。



「? あっれー? アイツらどこ行った?」


「戦いにだよ」


「うっひゃっ!?」



 割れていた窓から皇居の外を見ていたイルメールの背後を取る様に、一人の女性が立っていた。



「な、なんだ神さまじゃねェか。よっす!」


「何とも無礼な挨拶に思えるが――それ所ではない」



 イルメールの背後にいた女性は、菊谷ヤエ(B)であり、彼女は普段の様に飄々とした態度では無く、甚く真面目な表情で、イルメールへ手を出した。



「すぐにアメリア達の下へ。状況が私の観測以上に早く、厄介な方向に進もうとしている」


「待てよ。何が何だか分かんねェっての。オレにも分かるように説明してくれりゃ、オレもちゃっちゃと動けるんだがよォ」


「ならば言うぞ。このまま放っておけば、お前とカルファス以外の皇族が、全員死ぬ」



 そう聞いて、イルメールはすぐにヤエの手を取った。


反応が早く、急かした筈のヤエが思わず一拍置いて「これ以上聞かんのか?」と問うてしまった程だ。



「事実か嘘かは分かんねェ。ケド嘘ならテメェを後でボコボコにして、笑い話にすりャいいダケだ。


 だけど事実なら、それは確かに急がなきゃならねェ事だ。


 どっちにしても動かなきゃ答えが分かんねェから動く。



 オレはバカだからな。それだけの事だろ?」



 ――オレは何をすればいい?



そう言わんばかりに、ヤエよりも高い身長、雄々しい肉体を有したイルメールが、真っすぐにヤエを見据えて――そしてヤエもニヤリと笑いつつ、彼女へ言う。



「お前はお前なりに暴れろ。そうすれば、少なからず最悪の事態は避けられる」


「オーライ。バカのオレでも分かりやすい、いー答えだ」



 ヤエがパチンと指を鳴らした、次の瞬間。


イルメールがいつの間にか閉じていた目を開くと、そこは六角形の建物――重犯罪者収容施設の上空だった。

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