シロフの木
「愛佳ちゃん、いつも話相手になってくれてありがとうね。おばあちゃんはこれから娘の家に行くの。遠い所だからもう会えないかもしれないわね。元気でね」
車椅子に乗ったおばあちゃんは私に手を振って車に乗って行ってしまった。
あぁ愛佳の時の記憶だ。
アパートの隣に住んでいたおばあちゃん。小学2年までよく遊びに行っていた。おばあちゃんは一人で住んでいて遊びに行くと一緒にお菓子を食べてテレビを見た。足腰が弱っているので家から出る事が少ないおばあちゃんは私が行くと喜んでくれて沢山話をした。お母さんに構ってもらえなくても何とかなっていたのはおばあちゃんのおかげだと思う。
小学2年の冬、おばあちゃんの部屋に行くとおばあちゃんが倒れていた。転んで起き上がれなくなったらしい。救急車をよんだ。そしておばあちゃんは入院してそのままアパートを出て娘さんの家に行く事になってしまった。
おばあちゃんが車に乗って行ってしまう。寂しい。寂しい。寂しい。
「行かないで」
「アイカ、アイカ、どうしたの」
お母さんの声が聞こえる。
「アイカ、夢を見たの?」
「お母さん?」
「そうよ。アイカ、行かないでって言ってたわよ」
夢、だったんだ。
「うーん、忘れちゃった」
私がお母さんに抱きついたらお母さんは背中をとんとんと叩いてくれた。
とても暖かい。私はいつの間にか寝ていた。
夏になった。
今日は家族でシロフが生えている場所に行く。昨日お父さんから明日行こうかと言われて、私が喜んでいたら何故かお姉ちゃんやお兄ちゃん達も行くと言い出した。お姉ちゃんは場所を知っていると思うんだけれどな。
村を出て薬草の生えている場所を過ぎ、木の間を進んで行くと広い場所に出た。私の背丈ぐらいの木に真っ白な花が一面に咲いていてとても綺麗だ。
「綺麗」
「私、この時期に来た事がなかったけれどこんなに綺麗だったのね」
私が花に見惚れているとお姉ちゃんも花を見ていた。
「久しぶりに来たけれどやっぱり綺麗ね」
お母さんもため息をついて言う。お父さんやお兄ちゃん達も頷いている。
「せっかくだからここでお昼にするか」
「「「「やったあ」」」」
お弁当を食べて(黒パンと途中で見つけたベリー)帰りに薬草を採取しながら家に帰った。なんだかピクニックみたいで楽しかった。
家に帰って布団について考えてみる。シロフの木は沢山あった。実の収穫は期待できるけれど…
どうやって運ぼうか。重さは大丈夫だと思う。軽いはず。嵩があるから私が持てる籠だとあまり入らない。
大きい籠にすると重くて運べない。
『ランドセル』愛佳の時に使っていたランドセルは沢山の本が入ったけれど背負うから小さな体でも運べた。おばあちゃんと見ていた時代劇でも背負った籠に野菜を入れていたのを見たことがある。
背負って運べばいいんだ。
次の日から背負い籠を作り始めた。お兄ちゃん達がアサシーを取ってきてくれたので大きめの籠を編んでも十分な量がある。
「出来た」
大きい籠に背負える様に肩紐を二本付けた。肩紐はアサシーを三つ編みにしてある。
「よしっ」
掛け声と共に背負う。
「重い」
重かった。足元がしっかりせずよろけてしまう。
「ちょっと貸して」
今度はお姉ちゃんが背負う。
「背負えるけど、ちょっと重いわね」
失敗だ。
お姉ちゃんとどうしたら軽くなるか考えるけれど思いつかない。
お父さん、お母さん、カイル兄、ルー兄も帰ってきた。皆、順番に籠を背負う。
お父さん、お母さんは使いやすそうだと喜んでくれた。薬草が一度に沢山運べるし、両手が空くから動きやすいと言っていた。
大人なら使えるみたい。
「何とか軽く出来ないかなぁ」
「軽くなれば僕も使えるのに」
子供のカイル兄、ルー兄は重かったみたい。
籠はお父さんお母さんが使う事になった。
「皆で軽くする工夫を考えましょう」
お母さんの言葉に頷く。
それから夕御飯の後に家族で籠の工夫を考えるけれど
なかなか良い考えが出ない。アサシーの本数を減らすと弱い籠になってしまって重さに耐えられない。縦長や横長にすると使いにくい。
何度も試した結果、子供の籠は縦の本数を減らした籠にしてあまり重い物は入れないと決めた。籠の目的はシロフの実の収穫だからシロフの実は軽いからいっぱい入れても大丈夫だろう。
夏の終わりには家族分の背負い籠が出来た。
さあ、シロフの実の収穫をしよう。