マーク(下)
翌日は朝から持ってきた物の販売だ。
俺の他に行商人が来ないこの村では半年に一度来た時に必要な物を買ってくれる。
籠をいつもより高く買い取った事もありどの家も沢山買ってくれた。
夕方になり終わろうと思った頃にトーマスさん家族がやって来た。確か午前中に穀物や鏃を買ってもらったはずだ。買い忘れがあったのか。
「買い忘れた物がありましたか」
俺が聞くと一番小さい女の子が口を開いた。
「糸と布はありますか」
「糸と布ですか。糸はあります。これですね」
「アイカ、良かったわね」
お母さんのナタリーさんが女の子アイカちゃんに笑顔を向けていた。
「布は申し訳ないですが持って来て無いです」
俺はアイカちゃんに頭を下げた。
アイカちゃんはがっかりしていたがお姉ちゃんに仕方がないよって慰めてもらっていた。
『本当にごめんね。布は高値だから準備してなかったんだ』
アイカちゃんは糸だけを買う事にしたようだった。アイカちゃんは籠?あれ?鞄?からお金を出す。
アイカちゃんが持っている籠には持ち手が付いていた。
「アイカちゃん、その籠おじさんに見せてくれる?」
アイカちゃんはお母さんの顔を見て俺に籠を渡してくれた。
『やっぱり持ち手が付いてる。鞄になってるな』
「これはアイカちゃんが作ったの?」
籠を返しながら勢い良く聞いたせいかアイカちゃんがお母さんの後ろに隠れてしまった。
「アイカが作ったのよ。薬草を取ったらこの籠に入れると運ぶのが楽なの」
お姉ちゃんのクラディちゃんが答えてくれた。
「これ、売ってもらえないかな」
俺は頼んだ。
「でもこれ、薬草入れたりして使ったから新しく無いの」
「使ってても大丈夫だよ。どうかな」
俺はどうしても欲しくて更に頼んだ。
アイカちゃんはお母さんやお父さんを見て籠を俺の方に出した。
「良いの?」
「うん。あのね。お姉ちゃんのもあるのよ」
「2つあるの?是非譲ってください」
俺はトーマスさんに頭を下げて頼んだ。トーマスさんは笑っていたけれどクラディちゃんに籠を持ってくるように言ってくれた。
クラディちゃんが籠を取りに行ってる間、トーマスさん家族と話をする。そういえは柄入りの籠を作ったのはトーマスさん家族だった。
「村長さんに聞きましたが柄入りの籠を作ったのはトーマスさん家族だそうですね。この籠は良いですね。売れると思いますよ」
「それは良かった」
トーマスさんがアイカちゃんの頭を撫でながら言う。
「皆で沢山作りました」
「僕もアサシーを取りに行ったんだ」
「僕も」
ナタリーさんカイル君ルーカス君が教えてくれる。
「秋にも来るからまた頼むね」
「うん」
ルーカス君が元気に返事をしてくれた。
「そうだ」
俺は荷物の奥に置いてある物を取り出した。
「布だ」
「カイル君そうだよ。これは布なんだけれど見た通り古くて汚れているんだ。これはおじさんが行商中に雨が降った時に商品が濡れない様に被せたりして使ってるものなんだよ」
俺は布を見せる。
「こんな布で良ければアイカちゃんどうかな。籠と交換してくれないかな」
「良いの?」
「良いよ。こんな汚い布だけど大丈夫かな」
「うん」
アイカちゃんが嬉しそうに微笑む。
「マークさん、それではマークさんが損をしませんか」
トーマスさんが心配している。
「この布は本当に古い物なんです。こちらのが申し訳ないくらいです」
「我が家は一番安い布を買うつもりだったので古くても汚くても大丈夫です。洗えば良いんですから。良いのですか」
ナタリーさんも心配している。
「大丈夫ですよ」
俺が布をアイカちゃんに渡すとトーマスさん家族に御礼を言われた。少ししてクラディちゃんが戻って来て鞄を渡してくれた。こちらもとても良い出来だった。
クラディちゃんも布の話を聞いて喜んでいた。
その後トーマスさんから秋に来る時に安い、一番安い布を持って来るように頼まれた。
あっ、何に使うのか聞きそびれたな。
次の日の朝、俺が出発の準備をしていると手紙を持って村長がこちらに歩いて来た。
「トニカナリさんへの手紙ですか」
「はい。届けてもらえますか」
「わかりました。村の皆さんの意見はどうでしたか」
「皆、賛成でした。家の準備もあるので夏を過ぎればいつ来て頂いても大丈夫と書いてあります」
「はい、確かにお預かりしました」
俺は村の皆に見送られてガイト村を後にした。