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商人マークさん



「あった」

私は今森にいる。森といっても村から出てすぐの森の入り口だけれど。


春になって私は5歳になったから森に入れるようになった。

「アイカ、初めはお姉ちゃんと森の入り口の薬草の採取よ。森の事を教えてもらいながら覚えてね」


お母さんは私がシロフ(綿の木のような物の名前)を気にしているのを知っているため、

「勝手にシロフの所へ行っては駄目よ。あまり奥ではないけど一人では危ないから」

くぎを刺されてしまった。


「夏になったら連れて行ってあげるからね。シロフの実は夏頃につくのよ」


私は実が見たいのだからお母さんの言う事を聞くよ。

お母さん、約束を破ると怒るからね。お母さん、怒るとお父さんよりも怖いから。



薬草をお姉ちゃんに教えてもらいながら採取する。今しか採取出来ない物もありどんどん籠に入れていく。


「この籠も使いやすいよね。私でも楽に持てるわ」

お姉ちゃんが取っ手の付いた籠を見て言う。

この籠も私が作った。今迄取っ手の付いた籠が無かった為か村の皆にあっという間に広まった。



お昼になったので村に戻ると広場に人が集まっていた。

「きっとマークさんが来たのよ」

お姉ちゃんがそう言って走り出した。私も走って付いて行く。


広場に行くとやはりマークさんがいた。マークさんは馬車から荷物を降ろして村会議をする集会所へ運んでいた。食べ物、服、鍋、色々な物がある。

マークさんはガイト村が出来た時から春に行商に来ている。以前は隣のトイル村までお父さんと行商に来ていたけれど10年前にガイト村が出来た時にヤマニーラ辺境伯領の領都ヤマニーラに店を構えた。お父さんやお母さん、奥さん達家族が店を切り盛りし、マークさんが時々行商をしていると言っていた。


村の皆がマークさんの持ってきた荷物を見ている。

ここからヤマニーラ街に行こうと思うと馬車で4日かかる。馬車はガイト村には無いので行くにはトイル村で馬車を借りるか馬車の倍かかる歩きになってしまう。余程の急用でなければヤマニーラ街までは行くことはないのでマークさんが来てくれた時に必要な物を買っている。


大人も子供も皆、商品を見ていた。

そうそう、今日は見るだけだ。今からマークさんに売る物を見てもらい買ってもらう。そのお金を使って明日マークさんから必要な物を買うとなっている。

どこの家も今日は何を買うかと家族会議をする。もちろん我が家も。


私達が売るのは籠や干した薬草やキノコ、動物の革だ。各家毎に集会所に置いてありマークさんが査定をしながら金額を決めている。


ガイト村に来る前に村長さんと奥さんが領主様の所で働いていたため読み書き計算が出来、村の人にも教えてくれているのでガイト村の人達は簡単な読み書き計算なら出来る。


マークさんが誤魔化すとは思ってないけれど、自分の物が幾らになるか期待もしていて、皆、査定を見ていた。


あちこちから

「おお」

「やったあ」

という声が聞こえるから満足のいく査定だったみたい。

そして我が家の順番が回ってきた。

ドキドキする。

私の籠はどうだろう。




夕食後、明日何を買うか家族で話し合う。絶対に欲しいものはパンを作る穀物や塩、服、など、何時もならこれくらい買えるだけなのだけれど今回はいつもよりも予算が多い。マークさんが籠を全て買い取ってくれ、しかも単価も高くしてくれた。

「何か欲しい物があるかな」

お父さんが皆を見て聞く。

「私はこのお金は少しで良いから使わずにもしもの時用に取っておきたいわ」

お母さんの意見にお父さんも頷いて幾ら置いておくか相談していた。もしもの時ってどんな時なんだろう。病気とかかなぁ。

相談の結果、ヤマニーラ街に行けるだけのお金を置いておく事にした。


「クラディはどうする」

「私はもう少し穀物を増やして欲しいわ。カイルやルーカスもこれからもっと食べるだろうから」

「そうだなぁ」

買う穀物の量を増やす。

「僕は鏃が欲しい」

「あ、僕も」

カイル兄とルー兄の鏃も買う事にする。

「アイカは食べ物かい」

お父さんが私にも聞いてくれたけれど、何故か私は食べ物だと思っているみたい。確かに食べるのが好きだけれどね。

お母さん達が笑っているよ。

「私は、糸と古くても良いから布が欲しいの」

「布かあ」

お父さんが悩んでいる。布は値段が高くマークさんが持ってきているようには見えなかった。

「アイカ、何に使うか教えて。買うかどうかはそれから決めましょう」

お母さんに言われて私はシロフの話をした。布団のようなものが作りたい事、この国で作られてる布団は羽布団だ。だから本当にシロフで作れるかやってみないとわからない事を説明した。


お父さんも、お母さんも考えていて何も言ってくれない。やっぱり出来るかどうかわからない事をやる余裕は我が家には無いので駄目でも仕方ない。


「一番安い布を買うのはどうかしら」

お母さんがお父さんを見て言った。

「えっ、良いの」

「今回買い取りが増えたのはアイカが考えた籠のおかげだからね。でも一番安い物にしてね」

お母さんが肩を竦めて話すと

「そうね、もし布団が出来たらこの冬は暖かくなるのよね」

お姉ちゃんも同意してくれる。

お兄ちゃん達もうんうん頷いてくれる。

お父さんはまだ考えていたけれど

「シロフを集めるのは自分の仕事をしっかりやる事が条件だな」

「良いの?」

「明日、マークさんに布を持っているか聞いてみよう」

「やったあ」

私は明日を楽しみにして硬いゴサの上で眠った。



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