オリビア夫人
私がヤマニーラ伯爵家に来て1年が経った。
1年前、伯爵家に着いた私はオリビア大奥様付きの侍女になった。
旦那様(シュミット様)は反対されたけれど私は何もしないのもいろいろと考えてしまうので何か仕事が欲しいとお願いして大奥様付き話し相手兼侍女となった。
今思うとたかだかいち村娘が伯爵に言う事では無かったと反省している。
旦那様は私が伯爵家に来た年に大旦那様から伯爵位を譲られてシュミット・ヤマニーラ辺境伯爵となられた。
大旦那様はトニカート様が亡くなってから大奥様の調子が悪い事もあり出来る限り大奥様のそばに居たいと思われたそうだ。
ヤマニーラ伯爵家は当主シュミット旦那様、イルザ奥様、嫡男ロランド様、次男サイロン様、大旦那様、大奥様の六人。
私は令嬢アイカの時に大旦那様や大奥様には良くして頂いた。父や母からは貰えなかった愛情を与えて貰えた。
挨拶のために大奥様にあった時に失礼ながら『随分と老け込んでしまっている』と感じて驚いた。
もちろん年齢的なこともあるけれど大奥様はトニカート様が亡くなって精神的に気力が無くなってしまった。
私もトニカート様の死から立ち直ったとはいえないけれど大奥様と会って令嬢アイカの気持ちと私の気持ちが大奥様に元気になってもらいたいと思っている。
部屋は使用人部屋の1つを使うことになり侍女としての日々が始まった。
大奥様には三人の侍女がいる。大奥様が子供の時からずっと大奥様付きのマーリンさん。マーリンさんは3年前に一度辞めたけれどトニカート様の事があり大旦那様に頼まれて復帰した。
町から通っていて大奥様とお互いの孫の話を良くしている。
大奥様付き筆頭侍女のミナさん。30代前半。既婚者で町で騎士の旦那さんと子供さんと暮らしていてとてもさっぱりとした性格。
20歳のカーラさん。使用人棟の私の隣りの部屋で面倒見の良い先輩。伯爵家に来た時からお世話になりっぱなしだ。
三人には私の事情を話してあるそうで見習いなのに時々大奥様とお茶をさせてもらい、トニカート様の話をしたりシロフやレースの話をしている。大奥様はトニカート様の話をすると涙ぐまれてしまい、それを見た私も涙ぐむと言う場面が多々あった。
二人だから良かったのだろう。
私もおそらく大奥様もお互い同じ悲しみを持っているので一緒に悲しみ、慰め合い、このままではいけないという話が出るようになってきた。
側から見ると2年も経つのにと思われていたかもしれない。私達にはこの時間が必要だったんだと思う。
大奥様は寝込む日が減少し、私は自分で気持ちが落ち着いてきたのがわかる。
子供はそういった機微に聡いようでロランド様とサイロン様が頻繁に大奥様の所へ顔を出すようになった。
旦那様が伯爵になり奥様が忙しくなった事も関係しているのだろう。
サイロン様は勉強の合間にいらっしゃる事が多くロランド様はサイロン様を心配して一緒にいらっしゃる。
子供特有の勉強は嫌い。どうして勉強しなければいけないのか。などのサイロン様の言葉をにこにこ聞いている大奥様。
そこに大旦那様も加わり祖父母と孫の関係が築かれていく。
ロランド様も大旦那様から剣の手ほどきを受けている。
ある日、大奥様が物語を話し始めた時、ロランド様もサイロン様も驚いたり笑ったり話に夢中になっていた。
「大奥様のお話はとても楽しかったです」
お二人が戻られ部屋に大奥様とミナさん、私の3人になったところで話す。
騎士が仲間と盗賊を討伐する話だった。大奥様の話術が上手く、時には笑い、時には真剣に話を聞くロランド様やサイロン様は子供らしく、わたしも話に引き込まれていた。
「シュミットやトニカートに聞かせていたのよ」
大奥様の言葉にミナさんは首をかしげながら
「はじめて聞いた話でしたわ」
ねえ。と言って私を見るので頷いた。
令嬢アイカの時もアイカになってからも知らない話だ。
ガイト村の村長宅やトニカート様の屋敷に本はあったけれど専門的なものばかりだ。
伯爵家に来てからも小説のようなものは見たけれど大奥様の話したような童話は見た事がない。
「私が作った話なのよ」
「「えっ」」
ミナさんと大奥様を見る。
「トニカートが話が好きな子でね、知っている話が無くなった時にその場で作ったのよ」
ホホホと大奥様は笑う。
「行き当たりばったりだったから忘れてしまったりして、以前の話と違うとよく怒られたわ」
大奥様はその時のトニカート様を思い出しているようで少し涙ぐんでいる。
「書き留めてはないのですか」ミナさん
「貴重な羊皮紙を使う事は憚られたわ」大奥様
「書き留めれられると良いですよね」ミナさん
二人の話で思いついた事がある。
繊維が強いアサシーを使えば紙を作れないだろうか。その紙を使って大奥様の話を絵本にしたらどうだろうか
再開します。
よろしくお願いします