高熱病
自粛解除されましたので様子を見ながら再開します。
流行病の描写があります。御了承ください。
「シロフ事業は中断して薬を作りましょう」
村長さんがぐるっと見回して
「高熱病は早く対応すれば軽いと聞いてます」
カイル兄に確認する。
「そうです。高熱病は致死率が高いですがそれは高熱病と思わず風邪と思っていて対応が遅れてしまう人が多いからです。初期にきちんと高熱病の薬を飲めば数日で熱は下がります。他の人に感染するといけないので熱が下がってから3日は隔離しますけれど」
「やはり。今はとにかく早く薬を送ることを考えて、シロフ事業を止め、村中で団結して薬を作りましょう」
村長の意見に皆んな同意して動き出す。
カイル兄の指示でライドさん達護衛三人がガイト村にある高熱病の薬を作る薬草、グーリ草とイーロ草を持ってヤマニーラ伯爵家へ行く。
どちらの薬草も一般的な物で生でも乾燥していても効果は変わりない。グーリ草は風邪に、イーロ草は嘔吐下痢に効く為ある程度は在庫はあるが使用頻度も多い為一度に沢山の準備が難しい。
高熱病はグーリ草イーロ草を混ぜなければ効果が無い。別々に飲んでは効かない。
高熱病が発生して一番の問題はこの薬草にある。初めは風邪と思いグーリ草のみを飲んだり、風邪の症状が無く下痢になりお腹の調子が悪いと思いイーロ草のみを飲んだりする。
どちらも効かずもしかしたら高熱病かと疑った時には薬草が無いとなってしまう。
おそらく西部の村は今そのような状態だろう。こちらでも薬は作るが今は薬草を先に届ける。
ライドさん達は薬草を馬車に乗せヤマニーラ領都へむかった。
村長さんはすぐに村会議を開く。薬草を取りにいく者、屋敷で薬を作る手伝いをする者、食事など補助する者など役割を決めてすぐに動き出す。
お父さんは隣のトイル村に説明に行った。薬を準備してもらうためだ。
私はノイドさんライラさんと屋敷をカイル兄が薬の調合が出来る様に整える。
カイル兄が調合の器具や薬草を持って来た。
村人が採取した薬草を屋敷に持ってくる。それを私達が仕分けし洗う。直ぐに使えれば良いが量が多いと使うまでに枯れたり腐ったりしてしまうので、使えない分を乾燥させる。
手分けし、カイル兄の負担を減らす。
薬を次々と作る。
手伝ってはいるもののカイル兄の負担は大きく、少しでも休めるようにと気を配る。
二週間も経つと出来る仕事が増え、カイル兄も少し余裕が出来た。
ガイト村やトイル村で高熱病が出ていないのも関係あるだろう。西部はまだ病人が出ているらしく薬もまだ作って送っている。
トニカート様は休めているだろうか。
一ヶ月経つ頃には高熱病もだいぶ収束したらしく、送る薬の量も減って来た。
ガイト村とトイル村もシロフ事業を再開した。
まだ村人の半分は薬の手伝いをしているので再開もゆっくりだ。
屋敷にヤマニーラ伯爵家の騎士が早馬で来た。
ノイドさんが応対する。ライラさんも呼ばれて三人で応接室に入った。
「お茶をお持ちしますか」
ライラさんに聞いたが返事が無かった。代わりにノイドさんが
「お茶は必要ありません。アイカはカイルの手伝いに行ってください」
と言われたのでカイル兄の所へ行った。
少ししてノイドさんがカイル兄を呼びに来た。
「薬草の事で聞きたい事がある」
ノイドさんはカイル兄を連れて行った。
私は薬草を潰している途中だったのでそのまま作業を続けた。
騎士は帰られたようだ。
少しして、お父さんとお母さんとカイル兄とお姉ちゃんが部屋に入ってきた。
「お父さん達いつ屋敷に来たの」
家族が揃っていたので驚いた。
お母さんとお姉ちゃんは泣いていた。お父さんとカイル兄も泣くのを我慢しているみたい。
「どうしたの?」
トニカート様が亡くなった。高熱病に罹ったが初期だから治るはずだった。普段なら。
トニカート様は西部の村に入ってからほぼ不眠不休で村人を診察し、薬を作り続けていた。食事もきちんと取らずに働いていたそうだ。
体力も無くなり愛佳の世界で言う免疫力が弱っていた。
熱が出て上がっていく。すぐに薬を飲んだが一向に熱が下がらなかった。熱が上がってから三日目に息を引き取ったそうだ。
亡骸をすぐに燃やさないと高熱病は感染る。故人の物は全て燃やし何も残してはいけないとされている。
手紙の一つも無い。
トニカート様は居なくなってしまった。
やはり、私は幸せにはなれない。なってはいけない。