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新作発表会(下)



「どういう事だ」

「確認します」


トニカート伯爵とシュミット、夫人達も噂を調べる。



「父上、やはり噂が広がっています。シルキート公爵夫人とルイーズ嬢がレースを使っているため、我が家との軋轢が無くなったと思われています」


「そんな事でか?」


「今回王太子殿下もレースを使っている為同じ様に軋轢が無くなったと考えられているようです。そしてトニカートの件ですが公爵の発した言葉『縁があり』の部分を派閥の者達が大袈裟に言い、噂を広めているようです」


「王太子殿下が気持ちを入れ替え、王族の方々が円満になったというのに…」


「上手く隙を突かれてしまったようですね」



「貴方」

「母上、どうですか」

「ルイーズのレースは初期の編み方だわ。ヤマニーラから漏れたのでしょうね。ただし、シロフは違うわ。色が悪いのよ。ヤマニーラの物はあんなにくすんでいないわ」


「やはり、サーランの糸か」


「そうでしょうね」


「シュミット、明日朝一番で領都に戻ってくれ」


「はい、漏れの原因を調べます。……トニカートの件はどうしますか」


「あの子はまだアイカさんに何も言っていないの?」


「そのようです。王都に来る前に話をしましたがまだだと言ってました。私が帰るまでには伝えるようには言ってきたのですが」


シュミットはため息を吐く。

弟がアイカに気持ちを伝えていれば、この場でトニカートには婚約者がおり、貴族籍から抜ける予定だと言えるのに。


弟の性格もあるが12歳年上だという事を気にしているらしい。それくらいの歳の差など貴族ではよくある事なのに。

アイカの父親のトーマスからは姉のクラディがアイカの気持ちを聞いたが、初めは憧れでどういう気持ちかはっきりしなかったようだが、姉と話をして自分の気持ちを考えてみて、トニカートに好意を持っていると気がついたそうだ。

しかし、トニカートが貴族だから気持ちを打ち明けるつもりはないと言っているらしい。


ヤマニーラ家はトニカートが薬師になりたいと言っていた時から貴族籍を抜ける事に反対していない。


お互い想い合っているのだからトニカートが気持ちを告げれば良い。直ぐに婚約までさせるのに。





「父上、そのうちにトニカートの事を問う方が現れると思います」


「そうだろうな」


「私は、トニカートは婚約者がいると言ってしまってよいと考えます。トニカートはアイカ以外とは婚姻するつもりは無いでしょうし、貴族籍を抜けるつもりであるという事も言ってしまいましょう」


「そうね。少し早めだけれど言ってもいいと思うわ」

母上から援護があった。


父上は悩んでいる?違うな。シルキート公爵にやり返す方法を考えているのだろう。


「そうだな。聞かれたら言う。我が家は大々的に発表する予定は無かったとするか」


「わかったわ」

「わかりました」



あちらこちらでトニカートの話題になっている。


「そろそろ止めないとまずいな」


父上がこちらを見て呟き、お互い顔を見合わせて頷いた。



父上がシルキート公爵へ向かって歩き出したので私も後ろをついて行く。



私達に気が付いた人達が左右に寄るので通り道が出来た。

これはなかなか無い体験だな。見せ物になるのは嫌だが、トニカートの事ははっきりとさせておかないとな。



シルキート公爵、夫人、ルイーズの前に来た。顔が引き攣っているな。

兄弟とはいえアイカ姉様が修道院に入った時と亡くなった時に公爵家に怒鳴り込んで以来父上達兄弟は会話をしていない。

公爵は父上が真正面から話しかけてくるとは思っていなかったのだろう。




「久しぶりだな。ネイキン」

高位の貴族から話し掛けられるまで話をしてはいけないと決まりがあるので公爵が話し掛けるまで父上は無言だった。

これだけ人の目があると公爵も父上を無視出来ない。


「兄上、お久しぶりです」

「叔父上、ご無沙汰しております」

私も挨拶する。


「義姉上、ルイーズも久しぶりです。ところで今回ヤマニーラは新作のレースを作りましたが、お二人の召しているドレスにもレースが使われているようですね」

公爵が睨んでくる。


「これは、ヤマニーラも負けないようにレースを作らないといけないですね。なあ、シュミット」

父上、私にふらないでください。


「そうですね。お二人のレースはヤマニーラのレースとは違うので勉強になります」


シルキート公爵家のレースはヤマニーラのもので無いと周りに聞こえるように話す。


「シルキート公爵家のレースはヤマニーラのものでは無いようだな」

「だが、公爵は縁があり、と言っていたぞ。どういう事だ」

周りの貴族が囁く。


もうひと押しだな。


「兄上、此の度次男トニカートが貴族籍を抜けるので報告します。秋には婚姻する予定です」


「なにっ」


「貴族籍は抜けてもヤマニーラの家族ですし、兄上の甥であるのには違いありません。私達は家族としてトニカートと嫁のアイカを大切にしますよ」


夫人とルイーズの顔が怒りで赤くなっている。公爵は流石に顔には出さないが、拳を握った腕が震えている。



「では、兄上失礼します」

父上と私は踵を返し母上や妻のいる場所へ戻った。


「トニカート様はアイカという女性と結婚するのか」

「ルイーズ様はどうなったんだ」

「トニカート様は貴族籍を抜けると言ったぞ」

「シルキート公爵はどうするのだ」

その場に居た貴族達は新しい話題で持ちきりだ。


今年はレースだけで無く、違う話題も提供してしまったな。


シュミットは明日からの事を考えて大きな溜息を吐いた。







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